第13話 作戦


ピッピッピー


サッカー世界大会決勝、予選から無敗で勝ち上がって来た優勝候補筆頭シュヴェリーン代表と、同じく優勝候補であったテラトスタ代表が勝ち上がった。

もちろん、全試合が順当に進んだわけでは無い。同じく優勝候補であったミドール代表が本戦の1回戦でリトア王国代表にまさかの敗北を喫するなどのハプニングがあったが、準決勝はシュヴェリーンとテラトスタが勝ち上がった。


満員のスタジアムで行われた激戦は、延長戦の末、5-4でテラトスタ代表が勝利した。

MVPと得点王は、シュヴェリーン代表のアンとミライがそれぞれ獲得したが、試合は大興奮のまま終わった。


「イレーナ、お前ズルしただろ。」


「あら、何の事かしら。それに、それはお互い様でしょ?シュヴェリーン代表の監督がお義母様なんて、反則みたいなものでしょ?」


「まぁ、否定はしないけどな・・・・・・」


前半は気付かなかったが、後半になって流石の俺もカラクリに気がついた。試合中、何度かシュヴェリーン代表の動きや戦術が読まれていた気がしたが、どうやらイレーナは試合中こっそり指示を出していたらしい。

お陰様で、サッカー好きとはいえ監督慣れしていないお母様は対応が追いつかなくなり、テラトスタ代表が乱打戦を制した感じだ。


「まぁ、今回は勝ったテラトスタ代表の選手達を褒めるだけだな。」


「そうね、私もこれからは心入れ替えて、テラトスタの街に優勝トロフィーを飾るわ。」


「くっそ〜なんかムカつく。」


「ふふふ、お二人ともこのスタジアムにいる誰よりも熱くなってますね。」

「ヘレナ様もご存じの通り、レオルド様とイレーナ様は、昔から大のサッカー好きですよ。」


隣では、俺たちに付いて来たヘレナとリヒトさんは、落ち着いた様子で笑い合っていた。


勝者へのインタビューや優勝トロフィーの授与式がそのまま行われ、俺はハーンブルク領領主として、トロフィーの授与を行った。

負けた選手も勝った選手も、シュヴェリーンのサポーターもテラトスタのサポーターもみんな泣いていた。一方は負けて泣いており、もう一方は勝って泣いていた。

今日は延べ200万人以上のサッカー好きが領内外から集まっており、予想以上の熱気に包まれていた。


「シュヴェリーン代表が負けるという番狂せはあったけど、初めてのサッカー世界大会が成功してよかったな。」


「あら、これは順当な結果よ。むしろ、同点で延長戦を迎える程くらいついてきたシュヴェリーン代表を褒めるべきだわ。」


「前半も後半もこっちがボールを支配していただろうが。」


「勝ったのは私たちよ。」


「もう2人とも、喧嘩しないでください。そんな事よりも、今は一生懸命頑張った選手達を讃えましょう。」


「・・・・・・そうだな。」

「・・・・・・そうね。」


そして、世界で初めての大規模国際試合であるサッカー世界大会は、幕を下ろした。

ここから、各チームによる、注目を集めた選手の奪い合いが始まるのは、別の話。



✳︎



サッカー世界大会が始まる少し前、予想よりもだいぶ遅れてパラス王国とガラシオル帝国の戦争が激化した。

何がきっかけなのかはわかっていないが、パラス王国軍の越境が確認された。


最初から、焦土作戦による敵部隊の弱体化を狙っていたガラシオル帝国は、何回かの小競り合いののち、ハーンブルク軍参謀陣が予想していた位置まで後退し、迎撃を行った。

圧倒的な人数差による戦線の突破を計画していたパラス王国軍であったが、ガラシオル帝国軍の適切な運用によって全ての戦線で前線は膠着状態となり、補給が乏しいパラス王国は少しずつ劣勢に立たされていた。


しかし、そのような膠着状態がずっと続くはずがなかった。船を使った物資の運搬によって、パラス王国軍の充足率や食料供給が間に合うと、圧倒的な人数差を活かした波状攻撃作戦を決行した。

長い戦線のうちの一番北側に、大量の犠牲を出しながらも強引に突破口を開くと、突破部隊として温存してあった騎馬部隊6000が戦線の突破に成功、それをきっかけに、およそ6万の戦士がガラシオル帝国の防衛ラインよりも西側へ進んだ。幸い、戦略予備として待機していた部隊の対処が間に合ったため最悪の事態は回避できたものの、冗談抜きで次突破されたら不味いという状況であった。


そして、現在ガラシオル帝国軍の指揮を取っていたガランダは、かねてより計画していたある作戦の実行を決断した。


テラトスタ代表の優勝で幕を閉じたサッカー世界大会の興奮が冷め止まぬ中、俺のもとにある連絡がやって来た。


「レオルド様、現在ガラシオル帝国に全権大使として駐留中のアキネ様より入電です。ガラシオル帝国宰相ガランダ殿より、正式にハーンブルク軍への支援要請が届きました。」


「それは、間違いないんだよな。」


「はい、間違いございません。」


「そうか・・・・・・」


戦争の激化が報告されてから半年ほどが経過したある日の夜に届いた知らせだった。

これまでに、万全の準備をして来たとはいえ、もちろん不安もある。

だけどそれ以上に、緊張が高まっていた。


「ではこれより、作戦の第2フェイズを開始する。出港は12時間後だ、全員最後のチェックをしろっ!」


「「「了解っ!」」」


______________________________

どうでもいい話


私あるある、突然の更新


次話からは、作戦の第一フェイズを振り返る感じになると思います。

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