第14話 誤算

「おいっ!いつになったらこの忌々しい戦線を突破できると言うんだっ!」


パラス王国首都から西におよそ200km進んだ地点、レオルドがB集団と名付けた中央の集団にパラス王国は本隊と位置付けていた。南北の別働隊はそれぞれ20万の兵士から構成されているのに対して、中央の本隊は30万弱の兵力と総大将である『大王』自らが先頭に立って指揮を取っていた。

これは、兵士の士気を上げるのと同時に、パラス王国の国民に対して自身が王であるという事を示すという意味あいがある。

人間よりも文明の発達が遅れており、かつては争いが絶えなかった彼らは、常に強者の存在を求めるという、ある意味では遺伝的な性格をしている者が多かった。

そのため、パラス王国の絶対的な権力者たる大王自らが、戦争に参加していた。


そんな、大王たる男は今、芳しくない今の状況に、怒りを露わにしていた。


「どういう事だと聞いているではないかっ!」


「我々はどうやら、敵の罠に完全にハマっているようです。敵ははなっから真っ向勝負などするつもりは無く、我々を足止めするつもりだったのだと思われます。」


「そんな事はわかっているっ!この状況を打開できる作戦を出せと言っているんだ!」


「ですが、敵の『焦土作戦』は凄まじく、我々の痛い所を徹底的に突かれる状況です。各戦線でも、厳しい状態が続いております。」


「焦土作戦だと?忌々しいっ!70万だぞ?これだけの数がいて、どうして押し切れないっ!」


大王にとっても、将軍達にとっても、70万という数は圧倒的であった。かつてないほどの兵数を揃え、いかにガラシオル帝国が策を練り、対抗を試みたとして数の差で押し切れると信じていた。


だが、蓋を開けてみれば、パラス王国軍は全ての戦線で計算違いの大苦戦を強いられていた。

単純に、人が多ければその分統率力は落ちるのは間違いなかったが、慢心か偶然か、はたまた別の勢力による陰謀か、パラス王国軍は全体的に行動が遅かった。

それだけでなく、戦術戦略面でもガラシオル帝国に押されていた。

無理な強引突破によって、一時は戦線の突破に成功するも、ガラシオル帝国の戦略予備によって完全に動きを止められていた。


「おそらくですが、西の強国ハーンブルク家がガラシオル帝国を秘密裏に支援しているのではないでしょうか。実際、ガラシオル帝国が行っているこの焦土作戦というのは、ハーンブルク軍が考案した作戦のようですし・・・・・・」


「なんだとっ!」

「そんな事が・・・・・・」

「くそっ!」


これはある意味で正解であり、ある意味では間違っていた。確かに、ハーンブルク家ーレオルドは駐帝国大使のアキネを通して、アドバイスを行っていたが、それよりも早い段階で帝国の宰相ガランダは焦土作戦の仕組みと細かな戦術を徹底的に共有し、今回の戦争の激化に備えていた。

その上で、レオルドのアドバイスである戦略予備という考え方と戦場を支配する方法などを取り入れた。その結果、大規模な攻勢計画を行う事はできないものの、帝国の滅亡という最悪の事態だけはしっかりと避けていた。

同時に、帝国側にはこのまま戦争の長期化を狙えば勝てなくても負けない事は無いというプランがあった。


どこにも証拠は無いが、疑いたくなるレベルの硬さと粘り強さ、作戦の質の高さからハーンブルク家とガラシオル帝国の間に繋がりがあるのでは、という推測に至るのは容易であった。


「ならばハーンブルク家も同時に攻めればいいではないかっ!」


「ですが、それは今回の作戦で我々を支援してくれた『神聖チータ帝国』『ヴァステリア共和国』との約束に違反します。」

「彼の国からの支援が無くなれば、先に力尽きるのはこちらですっ!」

「どうかご再考を。」


「わかっておるっ!だが、この状況を一体どのようにして打開しろと言うのだっ!彼の国との約束を守る事も大切だが、何より大切なのは戦争に勝つ事だっ!約束については、戦争に勝った後で考えれば良いではないかっ!」


「しかし・・・・・・」

「・・・・・・」


確かに、大王の意見は理にかなっていた。

しかし、一方で別の見方もあった。

そもそも今回の戦争激化は、亜人国家の中でも大国の部類に入る『ヴァステリア共和国』による支援の話があってから始まった。

ヴァステリア共和国は、人類と国境を接する国であり、今現在は大規模な戦争が行われていないとはいえ、人類に対して少なくない憎悪があった。そして、今回のハーンブルク領の異常な速さでの発展と、大陸西側の人類側の国々が団結をみせた事によって起こったものであった。

ガラシオル帝国とハーンブルク領との結び付きがまだ浅いと考えたヴァステリア共和国はこの2国(ハーンブルク領は厳密には国ではない)が手を組んで亜人領に対する侵略を企てる前により倒しやすいと判断したガラシオル帝国を滅ぼそうと考えたのだ。


そのため、パラス王国がハーンブルク領を刺激するような事をした場合、当初の予定が崩れるどころか、逆効果になってしまう可能性があった。

そのため、この場にはいないものの、パラス王国を支援した国家にとって、ハーンブルク領の参戦というのは、考え得る中で最悪のシナリオでもあった。


「で、では、ゼオン獣王国に直接の参戦を依頼するのはいかがでしょうか。彼の獣王であれば、引き受けていただけると思いますし、それが叶えば4方向からの攻撃が可能になります。ガラシオル帝国とて余裕はそれほど無いはず、これであれば確実に潰せます。」


「なるほど、面白いな・・・・・・よし、お前の案でいこう。」



それから数日後、ゼオン獣王国は正式に参戦要請を受理、現在A集団が配置されている所にゼオン獣王国軍が合流する事になった。


そしてこれが、ガラシオル帝国宰相ガランダのハーンブルク領に参戦要請を出すきっかけとなった。



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どうでもいい話


少しずつ動き出します。

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