亜人編
第1話 背面
「なんというか、最近は本当に船の上ばっかだな・・・・・・」
船の上にいると曜日の感覚が狂うという話を聞いた事があるが、その通りだと思う。
変わるのは空の色だけで、いつ窓の外を見てもほぼ同じような光景が広がっていた。
世界最強と名高いハーンブルク海軍の第一艦隊と第四艦隊は、途中で何度か港で補給を行いつつ、東へと進んでいた。
デュークス島を出発した時から最大限の警戒体制でいたものの、敵の戦艦と接敵するような事はなく、快適な船旅となっていた。
「報告しますっ!第二艦隊所属『時雨』より入電、我、予定通り上陸に成功、万事抜かりなし、との事ですっ!」
「問題は起きてないんだな。」
「はい。そして同時に、予定通り第三艦隊も敵補給船を攻撃するために出撃したようです。」
第二艦隊は上陸した部隊の支援を行うためにその場に留まり、その間に第三艦隊はパラス王国に潜入中のエルフ部隊から得た情報に従って敵の補給船を叩く手筈となっている。
ちなみに、反対側の海、ガラシオル帝国の南側はガラシオル帝国海軍が担当する事になっており、少しではあるが足止めはできるだろう。
俺は、部下からの報告を、少し緊張しながら受け取った。もう、引けない所まで来たようだ。
「そうか、ついに始まったのか・・・・・・」
【今回の作戦の肝は美しく勝つ事です、マスター。迷う必要はありません、気を引き締めていきましょう。】
あぁ・・・・・・
*
ガラシオル帝国北方方面軍所属第502大隊
「厳しい状況が続きますな、少佐殿」
「あぁ、だがそれはあちらさんも同じような状況なはずだ。それに、ここはこっちの領土、地の利を活かせばまだ戦えるはずだ・・・・・・」
ハーンブルク軍の戦術を参考に、新たな部隊編成がされると、これまでとは違う戦い方が共有された。
ハーンブルク軍ほど高性能な銃を揃えれる事はできなかったが、ハーンブルク領から輸入した鉄や自国の生産力を使って作った銃が充足率1%未満ではあるが支給されていた。
新型の銃は、戦略予備として後方に待機していた部隊の一部にも配られており、この第502大隊もそのうちの一つであった。
「使い勝手は悪いが、やはり強力だなこの武器は。」
「えぇ、まだ正直慣れてはいませんが、非常に強力である事はハーンブルク軍が証明しております。簡単に突破されるつもりは一切ありませんよ。」
「なるほど、確かにそうだな。」
一度は戦線を突破されたガラシオル帝国軍であったが、その事を想定していたため戦略予備部隊の援護が間に合い、最悪の事態は避ける事ができていた。
数kmほど後退したものの、前線の立て直しは成功し、ガラシオル帝国軍には余裕が生まれ始めていた。
そんな中、悪い知らせがガラシオル帝国の下に届いた。
「報告しますっ!最前線にいる偵察兵がゼオン獣王国の部隊である事を示す旗を持った一団を目視しましたっ!」
「な、何だとっ!距離と規模はどのぐらいだっ!」
「ここから真東に10kmほど行った地点です。数は5000程でしたが、おそらくそれは先遣隊でしょう。本隊も、ここからそう遠くない所にいるはずです。」
「なるほど、諜報部隊もしっかり仕事をしているということか。」
この第502大隊を率いる立場にある少佐は、一昨日に諜報部隊からもたらされた情報を思い出しながら呟いた。
「わかった、お前は持ち場に戻ってくれ。」
「了解です。」
「情報通りって事ですな・・・・・・」
ガラシオル帝国軍の諜報機関は、だいぶ前にゼオン獣王国の情報をガラシオル帝国軍北方方面軍に流していた。
まだ、正確な規模や目的は判明していないが、十中八九ガラシオル帝国の脅威となる存在であったため、それ相応の対応が取られていた。
「であれば、我々もそろそろ動き始めましょう。」
「そうだな。敵は、合流のために時間をかけるはずだ。今のうちに・・・・・・」
というわけで、ガラシオル帝国軍北方方面軍は少しずつ部隊を西へと移動させた。具体的には十数kmほど後退し、第二防御ラインを作った。
これには、ある狙いがあった。
ガラシオル帝国軍の北側の防御が薄くなったと勘違いしたパラス王国軍は、ゼオン獣王国を含め4方向から攻撃する作戦を急遽中止し、A集団とゼオン獣王国軍が塊となって同じ所を攻撃する作戦に出た。
それが仕組まれた巧妙な罠だとは知らずに。
大きな塊となったパラス王国ゼオン獣王国連合軍は、兵力を一気に増強させたものの、移動速度が目に見えて遅くなった。
そして、ガラシオル帝国軍の殿に苦戦しつつも、一歩一歩着実にガラシオル帝国を追い詰めていると勘違いたした彼らは、ついにガラシオル帝国軍の第二防衛ラインへと到達した。
しかし、そこで完全に足が止まってしまった。ガラシオル帝国軍作戦司令部は、現在帝国軍が動かせる全部隊をもって第二防衛ラインの防衛に当たった。
そして・・・・・・
「報告しますっ!ハーンブルク軍の上陸が確認されましたっ!」
「来たかっ!」
「上陸地点より、西へと急行中、3日以内に敵の背面を叩くとの事ですっ!」
「よし、これで我々の勝ちだ。」
連合軍は、完全に挟まれた形となった。
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