第17話 sideヘレナ7
「そろそろでしょうか・・・・・・」
いつもと比べて少し閑散とした雰囲気に包まれながら、私はこの宮殿に残る唯一の家族であるエリナ様と共に湯船に浸かっていた。
レオルド様とイレーナは、ハーンブルク海軍を率いて数日前に『トモタカ軍港』を出撃したという連絡が入ったし、クレアさんとユリアさんは今頃西方統一軍の本部『レギンレイヴ』にて西方諸国をまとめるために奮闘しているため、今この家には私とエリナ様しかいない。
普段は盛り上がる食卓も、みんなが居なくなってからは少しだけ静かになった気がする。たまに、レオルド様の弟のユリウスさんとカレンさんが来てくれたりするけど、2人にはジア連邦共和国をまとめるという大事な仕事があるので、何度もここに来るわけにはいかない。
ちなみに、レオルド様の2人のお姉さんはそれぞれ王都で暮らしているし、レオルド様のお父さんはサークルディア王国の兵士として西方統一軍に参加しているので今はいない。
「はい、問題が起きていなければ、ちょうど作戦が開始された頃だと思われます。」
「これまでの戦争は、ここから近い所で行われていたのに対して、今回は知らない地域で行われる戦争です。少し変な感じがしますね・・・・・・」
「そうですね・・・・・・」
ゼオン獣王国、サーマルディア王国の元王女である私も、名前ぐらいしか聞いた事がない国だ。おそらく、レオルド様が居なかったら一生関わる事の無かった国だろう。
それだけじゃない、私の世界はレオルド様と出会った事によって大きく広がった。
「最初は私も船の大切さをよくわかっていませんでしたが、船そして鉄道が普及した事によって私たちの行動範囲は大きく広がりました。それによって、あの子の目論見通り、色々な場所や分野で化学反応が起こりました。もはや、この爆発は誰にも止められません。」
「人と物の移動が活発になるだけで、こんなにも違った景色が見れるものなのですね。」
思えば私も、レオルド様が黒船という今まででは考えられないような推進力を持った船を開発した事によってハーンブルク領に来る事になったわけだし、今も色々な人がその恩恵を受けている。
エリナ様が使った、化学反応という言葉はとても良い表現だ。まるで化学反応のように、技術は驚異的な速度で進歩している。
そして同時にそれは、今の私たちのような状況を作り出した。
「そして、今回のゼオン獣王国への攻撃作戦も、技術の進歩があったからこそできるようになった事です。今までは、他国を攻撃するという事になったとしても、隣接する国との戦争が主でした。ですが今では、船を使って数万人単位で兵士を輸送して攻撃するというとんでもない作戦が当たり前のように行われています。」
「はい・・・・・・」
「後から考えれば、デュークス島の重要性や各地に無線送受信機を置く必要性もわかります。きっとあの子には、このような展開が早い段階から見えていたのでしょう。」
「時代は変わりましたね・・・・・・」
相変わらず、私の夫はとてつもないと思う。出会った頃も、大人びていて凄い人だなと思ったが、今になってなおその凄さは増し続けていると思う。
どこまでも計算されていて、用意周到で、そしてどこか子供っぽくて・・・・・・
そんな彼だから、私は夢中になったのかもしれない。
「はい、時代は変わりました。」
エリナ様は、私の意見に同意すると、ひと呼吸入れた。
「そしてあの子は、もう一つ変えようとしています。最初のうちは気がつきませんでしたが、少しずつあの子の狙いも分かり始めました。」
「亜人問題、ですよね・・・・・・」
「はい、あの子ならば今回の戦争によって、完全に解決とまではいかなくとも、良い方向に持っていこうとしていると思います。」
私もそれには気がついた。
元々私は亜人に対して、憎悪とか嫌悪とかはそこまで強くなかったものの、少し恐怖心があった。
だけど、エルフ達と出会って、そのような感情は吹き飛んだ。いや、吹き飛ばしたのはレオルド様なのかもしれない。
例えば先日行われたサッカー世界大会、当初エルフ共和国代表が参加するという事で、様々な波紋を読んだ。家臣の中にも、ハーンブルクリーグの中ならともかく、世界大会という西方諸国の色々な国から人々が集まる大会にエルフ代表チームを出場させるのは危ないんじゃないかという話があった。
しかし、蓋を開けてみればそのような事は起こらず、人間もエルフも関係なくみんながサッカーを楽しんでいた。中には、エルフ代表のユニフォームを買っている者もいたぐらいだ。西方諸国の、特にサッカー好きであれば、エルフに対する恐怖心はかなり減ったはずだ。
「ですが今回の件は、流石のあの子でも少し厳しそうです。」
ただ、圧倒的な発想力と行動力、予知能力を持つ彼でも、今回の件は難しい。
エルフ達とは違い、ほぼゼロの状況から関係を構築しなければならない。
レオルド様の事を誰よりも知っているエリナ様ですら、このように判断した。
だから・・・・・・
「だがら、今回も私たちが支えてあげなきゃですね。」
「はい、私も全力でサポートするつもりですっ!」
「ふふふ、一緒に頑張りましょう。」
「はい。」
レオルド様が居ない今、ここハーンブルク領を支えなきゃいけないのは私だ。
レオルド様の妻として、私は頑張らなきゃいけない。
私はそう決意した。
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どうでもいい話
お母様やイレーナ、ユリアたちで隠れがちですが、ヘレナもかなりの能力を持ってます。
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