第11話 sideイレーナ6
「どうやら、正面からぶつかる道を選んだようね・・・・・・」
ハーンブルク軍の左翼を任される事となったイレーナは、敵が今にも攻め込もうとしている様子を見て、そのように判断した。
これだけの差を見せつければ降伏してくるだろう、と予想していたが、どうやら敵さんには、反抗意思があるようであった。
「イレーナ様、レオルド様は何と?」
「今回の戦争は、既に引き返せないところまで来ている。小細工は無しでいいからそれぞれベストムーブで頼む、と言われたわ。それにあのレオルドの事だもの、万が一何かあっても保険があるはずよ。」
レオルドは、ああ見えて結構慎重な人間だ。何か行動を起こす時は、最低限の生き残る道をしっかりと用意しているタイプだ。
まぁただ単に、奥手なだけかもしれないが・・・・・・
「では、訓練通りに我々が先陣を切って攻撃し、後続が続くための突破口を開くという作戦でよろしいでしょうか。」
「えぇ、それで構わないわ。というよりむしろ、戦術ドクトリンはもう頭に叩き込んであるでしょ?」
「はい、戦闘メイドの1人として、戦略についてはたっぷりとご指導頂いてます。」
「では始めましょうか。」
「はっ。」
私の命令を聞いて、アキネは作戦開始の合図を出す準備を始めた。じゃんけんの結果、今回はアキネが私の護衛として戦闘に参加し、セリカは後方でヘレナが乗る『秋雨』の護衛を担当することになった。
ちなみに、その際セリカは、じゃんけんに負けたのにも関わらず、アキネに文句を言ったのは別の話。
私は、レオルドに特別に作ってもらった武器を正面に構える。『MK-V2ドレータ』というのは、少し前にレオルドが自身が狙撃を行うために作った特注品で、私も同じものが欲しかった。
別に、レオルドが使っているのとお揃いの奴が欲しかったというわけではない。そう、これは興味本位というか、たまたまというか・・・・・・
とにかく、偶然同じ武器になってしまったと言うことだ。
私はその場に寝っ転がると、スコープを覗き込んだ。貴族の妻としては、考えられないような格好だが、軍人として考えれば何らおかしなところはない。
「それにしてもこれ、相変わらず重いわね。」
「仮にもスナイパーライフルですからね。普通の『M-3』や『M-4』よりもだいぶ重いはずです。しかし、その分飛距離と初速の速さという2点で他の追随を許さない作品となっております。作者はもちろんレオルド様で、ハーンブルク家の最先端技術のさらに先の技術が使われていると噂されており、現段階の技術力では量産は不可能である、と研究者の多くが言っております。また・・・・・・」
アキネとセリカは銃マニアだ。と言っても現在ハーンブルク領に存在する銃は数種類しかないが、彼女らは銃に関してはイレーナよりも詳しい。
「いやいや、解説要らないから、それより観測手やってくれない?」
「私も前線に行きたいのですが・・・・・・」
「1発撃ったら後は好きに動いていいわよ。」
「わかりました。では・・・・・・」
私が自由に暴れる事を許可すると、まるで水を得た魚のようにイキイキとした彼女は、何処からともなく双眼鏡を取り出すと、周囲の状況を確認した。
今日も数十発ほど艦砲射撃を行い、威嚇したところ、ギャルドラン王国軍はハーンブルク軍から700mほど離れた所まで接近していた。『M-3』は、この時代の技術力を考えればチート級の性能を持っているが、射程距離だけはどうしようもない。有効射程はせいぜい200mだ。
何が言いたいかというと、嫌がらせをして敵をこちら側に呼び出す必要があるという事だ。
それに使うのが、この『MK-V2ドレータ』と、私以外の狙撃部隊だ。
1000mの狙撃は無理でも、その半分の500mの狙撃であれば、当たる時もある物も出てくる。目標に命中しなくても、流れ弾が当たればそれでいいのだ。
私は気合いを入れ直し、スコープを覗き込む。すると、ここにいるはずのない人物の声が聞こえた。
「顎を引いて、スコープを正面から覗いて、的をよく狙って。」
「う、うん。」
さらに、ここにいるはずがない彼は、私の上に覆い被さると、私の手を上からぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫、心を落ち着かせて、ゆっくりと呼吸を整えて。」
「うん。」
無理を言われても困る。さっきから、あなたの顔が近すぎて、ドキドキが止まらない。
きっとこれは幻だ。
そう、頭の中で考えようとしても、確かに彼の体温を感じる。
私も、一応彼の妻だから、これが彼の仕業である事を間違えるはずがない。私は、すぐに気がついた。
すぐ横に、彼がいる。と言うよりも密着している。
「今だ、いけ。」
「は、はい。」
レオルドに少し強引に言われて、私は引き金を引いた。
直後、私の手元で爆音がし、それと同時に弾丸が発射された。
「目標通り敵の指揮官と思われる人物に命中しました。敵軍の一角に、動揺が広がっています。」
私は、命中の知らせを聞いて、やっと肩の荷が降りた。そして、すぐさま身体を起き上がらせると、文句を言う。
「ちょっとっ!どうしてあなたがこんなところにいるのよっ!」
「いや〜陣地でただ待っているのも面倒だと来ちゃった。」
「これから戦闘が始まるっていうのにこんなにだらしなくていいわけ?」
「まぁいいんじゃない?」
「もぉっ!」
口先では、怒っているように見せているが、内心では少しまだ先程の感触が残っており、ドキドキしていた。
そして、私はそれを誤魔化すようにレオルドに向けて言った。
「この件は1つ貸しだからね。シュヴェリーンに戻ったら、丸一日私に付き合いなさいよ。」
「お、おう。」
実は先程のクレアとの会話を聞いていた私は、少しその事を根に持っていた。
鈍感なレオルドは、気づいていなかったと思うけど・・・・・・
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どうでもいい話
戦争終わったら、砂糖多め路線に進む道しか見えない。
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