第10話 手札
『手札はたくさんある。
さぁ、好きなやつを選べ、遊んでやるよ。』
「これが、ハーンブルク軍総大将のレオルド・フォン・ハーンブルクから送られてきた書状です。」
「降伏勧告という話だったが・・・・・・」
部下に読み上げさせた文書を聞いて、ギャルドラン王国の参謀長は思わず首を捻らせた。書かれていた文書は、たったの2文。
その内容は、降伏勧告というよりも、挑発文であった。
相手はあのハーンブルク家、油断できない相手である事は間違いない。
そして、ハーンブルク家からの攻撃は、日が沈み始めた頃に何の前触れもなく突然始まった。いや、正確にはハーンブルク家からの攻撃なのかすらわからない。
マルカト城内部の深い所にいた彼も、もちろん異変に気づいた。凄まじい爆音とともに、城が崩れ始めたのだ。
しかし、どうする事もできなかった。彼はただ見ているだけしか出来ず、原因療法ではく、対症療法しかできなかった。
「それで?昨日の騒ぎだが、犯人は見つかったのか?」
「いえ、都内に怪しい人物を見たという者はいませんでした。およそ10秒に1度爆発していたから、組織的犯行である事は間違いありませんが、あれほど巨大な爆発を長時間続けるのは、普通の犯罪集団では不可能だと判断しました。」
「都市内の反社会勢力を、あらかた当たり壊滅させましたが、何一つ証拠となる物はありませんでした。」
「騎士団を独自で調査しましたが、怪しい人物は見当たりませんでした。」
「では、ハーンブルク軍の方はどうだ。」
彼はすぐにハーンブルク軍の仕業であると考えると、部下を何人も派遣した。
「いえ、数十名規模で斥候を派遣しましたが、ハーンブルク軍の陣に動きはありませんでした。」
「海はどうだ?」
「こちらも同様に、周囲にあった敵の戦艦に目立った動きはありませんでした。」
「そうか・・・・・・」
彼が、一番怪しいと考えていたハーンブルク軍の軍艦も、どうやら外れただったようだ。
もちろん、ハーンブルク軍以外の原因の可能性が全くないわけではない。
だが、どちらの方がより可能性が高いのかを聞かれれば、ハーンブルク軍の仕業である可能性の方が高い。方法はわからないが、このような芸当ができるのはハーンブルク軍しかいないはずだ。しかし、結果は白、ハーンブルク軍の仕業である証拠は何処にも無かった。
「明日もこれが続くと思うか?」
「これが国内の犯罪集団の仕業だとしたら、その可能性は0に等しいと思います。ですが、ハーンブルク軍の仕業であるならば、明日も継続されると思われます。」
「理由は?」
「費用です。もし仮に、犯罪集団の仕業であるならば、昨日の攻撃の出費は凄まじいものとなるでしょう。あの爆弾を保管しておく事も必要ですし、移動させる事も必要です。普通の犯罪集団には不可能でしょう。しかし、超巨大な船を何隻も保有するハーンブルク軍であれば、まだ爆弾が残っているかもしれません。」
「なるほどな・・・・・・」
ギャルドラン王国にも、火薬を使って作った爆弾はある。しかし、あれほど巨大な爆発を引き起こしたとなると、かなりのお金がかかっているはずだ。
魔法の仕業という線も無くはないが、魔法を用いてこの規模の爆発を複数回行うのはほぼ不可能である。
かといって、原因を議論しあっているだけでは、問題は解決しない。
「ですが、いずれにしろ敵の攻撃を防ぎきる。手段はありません。」
「つまり、こちら側から仕掛けるしか無いという事か・・・・・・なるほど、だから手札はたくさんあるということか・・・・・・」
このまま何もせずに時間だけが過ぎていけば、マルカト城は崩壊しもはや何もできないまま敗北を待つのみ。
かといってこちら側から何か仕掛けた場合、手札がたくさんある。
つまり、こちら側がどのような手を打ったとしても対応できると言う事をアピールしたと言うわけだ。
「いかがいたしますか、参謀長様・・・・・・」
ギャルドラン王国にとって、唯一の希望と思われていた『時間』が敵側に回った瞬間であった。
*
「報告します。ギャルドラン王国軍8千が、城とすぐ手前に姿を現しました。報告では、マルカト内の都民から民兵を募ったとの事です。」
「なるほど・・・・・・敵は我々との最終決戦を行う道を選んだか・・・・・・」
時間稼ぎが意味を成さない事を悟ったギャルドラン王国が打てる手は、降伏か、決戦か、の2つに1つしかなかった。
出来れば降伏の方を選んでもらいたかったが、こうなればしかたがない。
敵が既に決心をしている以上、もはや降伏勧告は意味がないだろう。こちらは1万、向こうは8000、向こう側にはエリート部隊である近衛騎士団がいるとはいえ、圧倒的な装備差を考えれば、こちら側の勝利は確実だった。
「レオルド様、私も戦闘メイドの一人として前線にでます。」
暇だったらしく、『秋雨』から降りて俺の下へとやって来たクレアは、俺にそう告げた。
「行って来い。」
「ありがとうございますっ!!!」
俺に何故かお礼をすると、彼女はくるっと体の向きを変え、再び戦場の方へと歩みを進めた。
「あ、そうだ。おそらくこれが最後の戦闘になる、無事に勝利したら、何かご褒美を上げようと思うのだが、何か欲しい物はあるか?」
俺の言葉に、足を止めたクレアは、再びくるりとこちら側を向いた。
そして少し恥ずかしそうな顔をすると、彼女はこう言った。
「では、シュヴェリーンに戻ったらでいいので、丸一日時間を下さい。」
___________________________
どうでもいい話
最近私は、スマホではなくPCで作品を書いてます。気づいた方いたりしますか?
ちなみに私は、寿司打の一番下のコースですらクリアできない雑魚です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます