第12話 選別
「選別だな・・・・・・」
「どういう事?」
鳴り響く銃声、最初のうちは揃っていたが、自由射撃に切り替わってからは4、5人ごとに作られた小隊ごとに攻撃を始めた。
しかし、むしろそちらの方が、効率的に行動できていた。
お互いが友軍の射線に入らないように小隊長が周囲の小隊と連携しながら動く。
手信号を用いて周囲に指示を出し、敵兵を1人ずつ確実に攻撃していった。
銃には銃の戦い方がある。
剣や槍のように至近距離での攻撃しかできない武器とは違い、遠距離からの一方的な攻撃が可能な銃は、敵を即死させる攻撃よりも敵に致命傷、もしくは動きを止める攻撃が有効な場合がある。
前を走っている者がその場で倒れたら、足を止めて手を差し伸べるのが人間だ。
近衛騎士団や軍人ならばそのような者たちを踏み台にして攻撃して来るかもしれないが、ギャルドラン王国軍の内の半分以上は民兵だ。即席の軍が、1日で上手く機能するはずがないし、そもそもまともに武器を握った事が無い者もいるかもしれない。
「今回の戦争、敵兵の構成はどんな感じだと思う?」
先ほどのイレーナの質問に、俺は質問で返す。
「そうね。頑張ってかき集めた予備兵と、まともに戦闘をした事がない民兵が半々かしら。」
「普通はそう考える。だが、俺の予想が正しければ、今回の民兵はある程度戦闘が可能な者が多いはずだ。」
「え?どうして?」
果たして、民兵となった者達は、一体どのような理由で民兵になったのだろうか。
「相当な愛国心が無ければ、そもそもこんな戦争に参加しないからだ。ハーンブルク家が、滅ぼした国をその後どうしたかは有名なはずだ。何もせずにいれば安定した暮らしを手にできていたかもしれないのに、戦争に参加したと言うことは・・・・・・」
「ハーンブルク家に調査されたら不味い事をしているか、ハーンブルク家に恨みがあるか、よっぽどの愛国者って事ね。確かにどれも今後障害になりそうな者達ね。」
ギャルドラン王国と一蓮托生を選んだ者達には、それ相応の理由があるはずだ。
そして、そのような者たちは・・・・・・
「まだ他にも理由があるかもしれないが、どちらにしろハーンブルク家にとって有益な人間は今回の戦争に参加していないだろうな。」
「なるほど、だから選別って事ね。じゃあもしかして、敵の本当の目的は・・・・・・」
「ギャルドラン王国が滅んだ後、害になりそうな人間を集めた軍になるはずだ。そしてそれを手土産に、助命を願おうとした貴族、もしくは軍人がいるって事だな。まぁ、俺の考えすぎかもしれないけどな。」
視線を正面からイレーナの方に移す。イレーナは、親譲りの真紅の目をこちらに向けていた。
自然と、目が合う。
「いや、レオルドの意見は正しいと思うわ。私もさっき、少し違和感を感じたもの。」
「じゃあアコールに、今夜の艦砲射撃は無しにすると連絡しておくか。」
考え過ぎでなければ、これで何か反応があるはずだ。
すると、アイが口を挟んだ。
【どちらにせよ、向こうが行動を起こすであろう明日まで結果は分かりません。ここは、我々にまだ余力がある事を見せつけて、敵の戦意を喪失させるべきです。】
戦意喪失は確かに必要だな。
具体的に何が一番効果的だと思う?
【例の特殊部隊を使ってみては?敵の戦意喪失にもなりますが、味方の士気も上がると思います。】
なるほど、あの部隊か。よし、それで行こう。
頼れる相棒であるアイから助言を得た俺は、イレーナに話をふる。
「イレーナ、例の特殊部隊の準備はできているか?」
「MYOHの話?それならできてるわよ。」
「なら試してみようか。」
「わかったわ。そろそろ敵軍の中に脱走兵が出始めてもおかしくないし、この辺で更なる攻勢に出てもいいわね。でも消耗が激しいから30分だけ暴れたらそれで引き上げてもらうわね。」
「わかった、それで頼む。」
「じゃあ、私は作戦を伝えてくるわ。」
イレーナはそう言うと、新たに創設した特殊部隊、通称"MYOH"の下へと歩いていった。
ある時、ハーンブルク海軍なら第一艦隊、ハーンブルク家の文官ならSHSのような、ハーンブルク陸軍の花となるような部隊があったらいいな〜と、突然の思いつきによって新部隊を作る事になった。
軍服を全て真っ暗に染め、ライフルやヘルメットなども黒で統一し、敵に恐怖を与える部隊を作った。
陸軍の全ての部隊から、特に優秀と評価されている者たちを100名ほど集め、組織した新部隊だ。
任務としては、戦線の突破や撹乱、補強などが挙げられる。
ちなみに、訓練が他よりもきつい代わりに給料は約2倍となっている。
メインウェポンは、俺(アイ)が自らの手で作った『MK-5』で、量産型の『M-3』や『M-4』には無い、『連射』が可能な次世代型の小銃だ。
ゆくゆくは、これをハーンブルク軍の標準装備にしたいところだが、お察しの通り弾丸が圧倒的に足りなくなる。
そこで、少数精鋭のエリート部隊にのみ配備したのだ。
実を言うと、だいぶ前に機構だけは完成していた。しかし、量産は難しく、かといって全員分俺が手で作るのは流石にしんどい。
ちなみに、『MK-5』は完全に俺のオリジナルなので、他国やハーンブルク領の企業が真似しようと思ってもまず無理だ。
さぁ、更なる絶望を味わってもらおうか。
【マスター、完全に悪役ですよ。】
おいっ!
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