世界編

第1話 子孫

「遅い・・・・・・」


【私やマスターにできる事は何もありません、静かに待ちましょう。】


「俺は、何もできないな・・・・・・」


【父親として、堂々としていて下さい。】



ユリウスの結婚式から7ヶ月が経過した。その間、ハーンブルク領や西方統一同盟に大きな動きは無かったものの、ハーンブルク家内では様々な出来事が重なった。

ヘレナの妊娠によって感化されたイレーナ、ユリア、クレアの3人に懇願され、色々と頑張った結果、見事に全員おめでたになってしまった。うちのブレインは、こういう時だけ無駄に優秀なのだ。

しばらくの間、妊婦4人の生活が続いた。俺としては、バビロン宮殿の中で安静に過ごしてほしかったのだが、彼女達はいつも通り暮らす事を希望した。お母様が向こう側に付いたため俺が折れ、彼女達の希望通りの生活をする事になった。

そしてついに、ヘレナが産気づいた。

ヘレナの側にはお母様が付き、俺は外に追い出された。


「ちょっとは落ち着いたらどうなの?」


「いやいやだってさ、俺の子供だよ?落ち着いていられるかって。」


「少しは落ち着いて下さい、レオルド様。赤ちゃんは逃げたりしませんよ。」


「クレアの言う通りだぞレオルド、ちょっとは落ち着いたらどうだ。男ならドシっと構えろよ。」


慌てふためいてその場を彷徨いていた俺だったが、お父様に強引に引っ張られて座らされた。


そうだ、俺はハーンブルク家の当主だ。こんな時に、落ち着かなくてどうする。


「そうだ、それでいい。」


「・・・・・・」


「こうしていると、お前が産まれた時の事を思い出すな。」


「俺が産まれた時の事?」


「あぁそう言えば、お前が産まれたのもこんな感じの星空だったな・・・・・・」


窓から差し込む月明かりを眺めながら、お父様はそう呟いた。

その横顔はいつも以上に頼もしく、どこか遠くを見つめていた。


「当時の俺は、とても焦っていた。親父とお袋が他界して、当主の座を継いですぐの事だったから心の余裕なんか無かったし、今と違ってハーンブルク領はただの辺境の田舎貴族でしか無かったから、毎日が大変だった。どうしたら、領民全員が飢えずに生活できるか、妻と一緒に必死に考えたな。」


お父様は、思い出を振り返るように語った。この話は、以前お母様からも聞いた事があった。5歳の時に始めた俺の領地改革、あの土台を整えたのは間違いなくお母様だ。お母様がいたからこそ、俺はスムーズに改革を進める事ができた。

お母様のおかげではあるけれど、そんなお母様を支えたのがお父様だ。貴族同士の繋がりは、お父様の方があった。数値でしか知らないが、きっと俺の知らない所で様々な苦労があったのだろう。


「妻の活躍もあって、ハーンブルク領の経済状況は、お前が産まれる頃にはだいぶ安定していた。だからお前は、頑張った俺たちへとのご褒美のような存在だった。」


「そんな事が・・・・・・」


「3人目の子供だと言うのに妙に緊張してしまってな、それはそれは不安だったよ。だけどそれ以上に嬉しかった。この上なく嬉しかった。まぁ、もう死んでもいい、とは思わなかったけどな。」


お父様は、そう言って笑った。始めただ、自分が産まれた時の事を聞いたのは。

その時だった。


「おぎゃあ〜」


この世界に、新たな生命が誕生した瞬間の音が聞こえたのは・・・・・・

俺は思わず立ち上がった、そして走った。

誰も、止める者はいなかった。消毒をし、扉を開けた俺は、真っ直ぐヘレナの下へと駆けつけた。


「大丈夫か、ヘレナっ!」


「はい、まだ少し身体に違和感が残っておりますが、元気です。」


「そ、そうか・・・・・・」


まず、安心した。どうやらヘレナの体調に問題は無いようだ。アイも、正常である事を告げていた。

安心したせいか身体から力が抜け、ひと呼吸入れると、横から赤ん坊を抱えたお母様がやって来た。


「レオルド、元気な男の子でしたよ。さぁ、抱いてあげて下さい。」


「あ、あぁ。」


俺は、恐る恐る我が子を受け取った。小さくて可愛い元気な男の子、髪の毛は少しだけ生えていて、その色は俺と同じ紫色であった。

瞳は、ヘレナと同じ水色と金色のオッドアイ。うん、我が息子ながら、ちょっとカッコいい。


「可愛いな・・・・・・」


「レオルド様、お名前は何にするのですか?」


「この子の名前は・・・・・・『レン』だ。」


「レン君ですか・・・・・・良い名前ですね。」


ヘレナが産んだ男の子には、レンという名前が付けられた。その日から3ヶ月間は、出産ラッシュとなった。

イレーナが産んだ女の子にはサクラ、ユリアが産んだ女の子にはアオイ、クレアが産んだ男の子にはカエデと名付けられた。


俺は、この短期間で4児の父親になった。


_______________________________

どうでもいい話


ついに、第13章らしいです。


『国内編→軍事編→家族編→連邦編→亡国編→制覇編→統一編→追究編→継承編→帝国編→亜人編→成熟編→第13章(仮)』

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