第12話 鉄道
「何なの、これ・・・・・・」
「何だと思う?」
「何か大きな機械である事は分かるけどさっぱりだわ。」
実物を前にしても、2人はこれが何なのかわからないようだ。
ちなみにお母様は、線路を見ただけでこれが何の為の物かすぐに気づいた。相変わらず凄い人である。
「ヘレナ様、最近、シュヴェリーンとテラトスタとの間で大規模な工事が行われていたのは知ってる?」
「はい、確か1年ほど前にサラージア王国から避難してきた移民の人たちとシュヴェリーン内で仕事を探している人たちを集めてシュヴェリーンとテラトスタを結ぶための道を整備するという工事ですよね。」
「そう、その時変な道を作っているって話は聞かなかった?」
俺の問いかけに、ヘレナ様は疑問を浮かべたが、イレーナには心当たりがあるようであった。
「私は聞いたわ、細長い鉄の柱のような物を何本も並べたって話よね、それが何か関係あるの?」
「鉱山でトロッコを使うのは知っているでしょ?」
「えぇ。」
「はい。」
「これは、自動で動く巨大なトロッコなんだよ。速度はあまり早くないけど、これを使えば1時間と少しでここからテラトスタまで移動できるという物さ。」
今回2人に見せたかったのは、蒸気機関車、つまりSLだ。
現在ハーンブルク領の人や物の移動は、ベール川を使った水運と馬車による陸路での輸送によって成り立っている。しかし、陸路ではシュヴェリーンからテラトスタまで徒歩で2日、馬車を使っても丸1日かかる上、水運を利用するとしても、荷物を載せたまま川を遡る事ができるのは蒸気船のみで、帆船やガレー船には少し難しい。
『ドレスデン停戦条約』によって領土が拡大し、人口が増えた事によって、元々はサラージア王国内に住んでいた者たちの多くがハーンブルク領の4大都市への移民を求めた。
他にも、戦争で夫が戦争に行ってしまい、生活が苦しくなったサーマルディア王国の国民の多くがハーンブルク領への移民を希望し、その全てを受け入れた。
開戦前が、ハーンブルク領全体で100万人ほどだったのに対し、現在では140万人ほどと人口が急激に増加した。
シュヴェリーンだけでも人口が60万人を超え、人口的にも経済的にも国内最大の都市となった。
もちろん、人口の急激な増加は、色々な所に影響を与えた。
まず、食料の方には少し余裕があったものの、当たり前の事だが家の数が足りなくなった。
そこで、ハーンブルク領の予算ではなく、ハーンブルク家の財産から資材を買い、移民者達を雇って仮設住宅や団地を作ってもらい、そこに彼らを住まわせた。
人口が増えたという事は労働力が増えたという事で、彼らは一生懸命働いてくれた。
次に、人口が増えた事によって輸送が圧迫され、色々な問題が発生した。
そこで考えたのが、鉄道計画である。
この計画は、実は戦争が始まる直前から計画していた。
ハーンブルク領周辺のサラージア王国内の町や村の住人をほぼ全員避難させたため、労働力が有り余った。
そこで、彼らを有効的に活用する方法を考えた結果・・・・・・
【ハーンブルク領には技術と資材と労働力が揃っております。現在仕事を探している移民者達を雇い、道路の整備と線路の設置をやってもらいましょう。】
鉄道って事はSLでも作るって事だよね、できんの?
【はい、線路を引くのに少し手間がかかりますが、十分可能です。】
路線は上りと下りの2本ぐらい?
【上り2本、下り2本の4本作り、シュヴェリーン-テラトスタ間の交通を充実させましょう。】
了解、んじゃ、早速やるか。
その日から、俺とお母様は動き始めた。長期的に使えるように色々と工夫をしながらおよそ60km線路を引き、ついでに客車の研究も行った。
まぁ色々と大変ではあったが、川沿いという事もあり、ずっと平地だったので、トンネルを掘るような事がなかった事は幸いだった。
俺がサラージア王国と直接的な戦闘を行なっている時も、お母様が俺(アイ)の指示通りに動いてくれたおかげで、4本中2本が完成し、残りの2本もほぼ完成に近い状態となっていた。
あとは・・・・・・
「今日は天気もいいし、さっさと実験を始めるか。燃料とかエンジンにも異常はないよね。」
【はい、私が先程しっかりと検査を行いましたが、おかしな点は1つもありませんでした。】
「じゃあ乗ろうか。ヘレナ様、少し危ないですので、手を。」
ここは車庫のような所なので、駅のホームのような物がない。そのため客車のドアは少し高い位置にあり、少し危険なので俺は手を差し出した。
「ふふふ、どうもありがとうございます。」
ヘレナ様は、満足そうにその手を掴んだ。俺はそれと同時に彼女を客車の中に引っ張り入れた。
「・・・・・・」
引っ張り入れた所まではよかったのだが、何やらもう1人羨ましそうにこちらを見ている赤毛の少女がいた。
「んっ!」
右手を差し出しながら、露骨にアピールをしてくる。
「・・・・・・」
はぁ・・・・・・
仕方がないので、俺は彼女の右手を掴んだ。そして、彼女も中に引き入れる。
「ありがと、レオルド。」
「あぁ。」
少し照れながらお礼を言ったイレーナに対して、俺も少し照れてしまった。
俺たちが乗り込むと、アインや俺達の護衛、歴史的瞬間をひと目見よう集まった多くの研究員達が列車に乗り込んだ。
「では参りましょう、レオルド様。」
「了解、出発っ!」
「「「はっ!」」」
アインの合図と共に、俺たちを乗せた列車は少しずつ前に進み始めた。
しかし、楽しい鉄道の旅になるかと思いきやその直後・・・・・・
「ふふふ、レオルド様はとてもお優しい方ですね。ですが・・・・・・婚約者である私がいる前でそのような事をするのは、どうかと思いますよ。」
楽しい鉄道の旅が、一転して空気が重くなった。
ちなみに、鉄道の方は特に問題なくシュヴェリーンからテラトスタまで走り続け、およそ1時間ほどでテラトスタに到着した。
開通は来月、新聞の初発行と同時に運行を開始する予定だ。
そして、『ハーンブルク鉄道』と名付けられたこの鉄道は、ハーンブルク領を支える新たな柱となった。
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どうでもいい話
私は、鉄道あまり詳しくないです。
許して
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