第14話 民間

俺を殺す気か・・・・・・


【どちらかと言えば、生かさず殺さずの方向だと考えられます。】


もっと酷いじゃん。


【それが当主としての責務だと思われます。】


おいおい。


翌日からも、相変わらず忙しい日々が続いた。

外国との交渉がひと段落ついたと思ったら今度はハーンブルク領内の仕事がたくさん残っていた。今回の武力介入に様々な形で支援してくれた各企業への報酬や、俺が居ない間に発生した問題の解決などをしていたら、あっという間に時間が過ぎて言った。


そしてついに、最近俺が楽しみにしていた日がやって来た。


「何だこれ・・・・・・」


「どう?驚いた?」


「あ、あぁ、陰でコソコソなんかやっているな〜とは思っていたが・・・・・・デカすぎるだろ、これ。」


「収容可能人数は約4万人、ハーンブルク領中の技術を集結させて造った世界最大のスタジアムですよ。」


「こんなに大きくする必要あったのか?」


「ご安心下さい、チケットはもう既に完売しておりますよ。」


「そ、そうか・・・・・・」


例の取り調べを受けた日の夜、ユリアから日頃感謝を込めて俺が楽しめるイベントを開催したと聞いた。

そして今日、何をしてくれるのかなと、期待しながら遊戯の街『ラスベスタ』へと降りた俺は、目の前に聳え立つ巨大な建造物に驚かされた。

ハーンブルク領内のあらゆる動きはSHSを通して把握していたので、2年ほど前からお嫁さん達とお母様が何かしらの企んでいるなとは思っていたが、まさかこれほど大きなサッカースタジアムを作ってしまうとは思いもよらなかった。

おそらく、俺を驚かす予定だったのだろう。


「俺が知らない間に凄いな・・・・・・」


「ふふふ、喜んでいただけたようで凄く嬉しいですっ!」


そう、可愛らしく微笑んだ彼女は、軽くスタジアムの案内をしてくれた。どうやら、スタジアム内の構造を既に把握していたようで、色々と教えてもらった。

今日のイベントに参加するためにやって来たと思われる領民達に手を振りながら、俺は自分の席へとやって来た。

VIP席へと座ると、先ほどユリアが淹れてくれた紅茶を飲んで一息入れた。


「最初は、民衆の声から始まったんです。」


「民衆の、声?」


「はい。レオルド様が月に一度行っているハーンブルク家とハーンブルク領内の企業による意見交流会にて、最近お疲れのご様子のレオルド様の息抜きとなるイベントを企画したいという意見を頂いたんです。」


確かに俺は、ハーンブルク領内から指示だけを飛ばす軍事介入という、初めての事に挑戦していたためか、かなり疲れが溜まっていた。


【日頃からよくマスターの事を観察していらっしゃるクレア様やエリナ様の主導だと予想してありましたが、まさか民間からとは思いませんでしたね。】


確かにそうだな。

俺は、こういう事を考えそうな人物を思い浮かべながら心の中で答えた。


【愛されてますね、マスター】


あぁ、ほんとびっくりするほどにな。


「それでこうなったのか?」


「はい、私たちももちろん手伝いましたが、基本的には民間の企業が協力して企画を進めておりました。民間主導のイベントでは、おそらく最大級の規模だと思いますよ。」


「このスタジアムは?企画が出てから建て始めたわけじゃないだろ?」


「はい、このスタジアムは元々、スタジアムの無いここ『ラスベスタ』に、巨大なスタジアムが欲しいという事でエリナ様が主導で建設する事になったスタジアムです。今回のイベントでそのお披露目会も同時に行う予定です。」


「やっぱりお母様か・・・・・・」


何というか、そんな気はした。

あの人なら、サッカーで世界征服とかしちゃいそうなぐらい、サッカー愛が強い。


そしてついにエスコートキッズを連れて、両チームのスターティングメンバーが入場を始めた。今回のゲームは、ハーンブルク領に住んでいる選手をそれぞれのチームの監督が1人ずつ交互に指名してチームを作り、戦うようだ。

赤を基調としたユニフォームを着るお母様が監督を務めるチームフェニックスと、白を基調としたユニフォームを着るヘレナが監督を務めるチームドラゴン。


「ちょっと待って、チームドラゴンの監督ヘレナなの?!イレーナじゃなくて・・・・・・」


「はい、イレーナ様は今回、チームドラゴンの選手として出場しております。」


「勝つ気満々じゃん。」


「ちなみにチームフェニックスにはクレア様がおりますよ。いつか試合に出れるように、レオルド様に隠れて練習していたそうです。」


「クレアまで・・・・・・」


「私は、残念ながら運動はあまり得意ではないので、今回はレオルド様のサポートという事になっておりますが・・・・・・」


イレーナはともかく、クレアが代表に選ばれるぐらい上手いとは知らなかった。監督がお母様という事は、クレアは実力で選ばれたはずだ。


興奮冷めやまぬ中、ついに試合が始まった。

4万人という、今までにない応援の中、選手達は縦横無尽にピッチを駆け回っていた。

楽しい時間はあっという間で、イレーナのスーパーシュートによって、前半は1対0のチームドラゴ優勢で折り返しとなった。


そして後半、交代カードを2枚切って完全に流れをモノにしたチームフェニックスにあっという間に失点を許してしまい、1対1のイーブンとなった。


そこからは、後一歩が出ず、両チームとも惜しい展開が続いた。そんな時、チームドラゴンの監督であるヘレナが驚くべき事を宣言した。


「メンバーチェンジ、背番号8に代わって背番号0レオルド様」


「え?」


「さぁ、出番ですよ。」


「俺もやるのか?」


「先ほどルールを説明しましたでしょ?監督が交互に選手を選んでいき、選手数の上限は無いと。さぁ、急いで着替えて下さい!」


「あ、あぁ・・・・・・」


ラスト10分、俺に出番がやって来た。俺用のユニフォームやスパイクは既に用意されており、最初から出場させるつもりだったらしい。


「じゃあ行ってくるよ。」


「ご武運を・・・・・・」


凄まじい歓声を浴びながら、俺はピッチの中に入った。



結局、俺のラストパスをイレーナがダイレクトバレーで合わせてゴールを決め、それが決勝点となり2-1でチームドラゴンの勝利となった。

今日は、本当に良い息抜きだった。


「いかがでしたか?」


「最高だったよ・・・・・・」


俺は久しぶりに流した汗を拭いながら、余韻を楽しんだ。

10分という短い時間ではあったが、良い体験であった・・・・・・


【次回からは、普通にスターティングメンバーとして呼ばれそうですね、マスター】


かもな。


______________________________

どうでもいい話


これにて、第13章は終了です。


前話で話した違反警告から5日立ちましたが、何のメールも来てません。急に更新しなくなったり作品が消えたら、そういう事だと思って下さい。

そうなったら、別のサイトに移動すると思います。

多分。

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