第2話 魔法

「・・・・・・新しい恋人ですか?」


「・・・・・・」


そうだった、この家に住んでんの俺だけじゃなかった・・・・・・



✳︎



話は少し前に遡る。

『アイ』の実体化に成功した俺は、他にどんな事ができて、どんな事が出来ないのかを実験する事にした。


「視覚と聴覚はある感じだよね。」


【はい、ちゃんと感じています。】


「う〜む、特に変わったところは無いんだよなー強いていうなら、青い髪だけど日本風って感じなかな〜」


俺は、実体となった『アイ』の周りをぐるぐる回りながら、まじまじと見つめる。

年齢は俺と同じか少し年上ぐらい、身長も俺とそんなに変わらず、体重はあるっぽい、俺を女体化したらこんな感じかもしれないな。


「とりあえず何かご飯でも食べてみるか。リヒトさん、何も突っ込まずに紅茶を2杯下さい。あ、砂糖は多めで。」


「かしこまりました。」


俺は、どこかで待機しているであろうリヒトさんに、少し大きな声で紅茶を頼んだ。

すると、いつの間にか俺の少し後ろに立っていたリヒトさんが、「了解」を告げてこの場を去った。

相変わらず、神出鬼没だ。

ちなみに、クレアは紅茶を淹れるのが下手なので、紅茶を飲みたい時はいつもリヒトさんにお願いしている。


しばらくして、リヒトさんは紅茶を2杯と少しばかりのお菓子を載せてやってきた。


リヒトさんは、迷わず俺の向かい側に座るアイの前にも紅茶を置いた、どうやらアイが見えているらしい。


「アイ、リヒトさんに何か話しかけて見てくれ。」


【わかりました。】

「私は、アイと申します。どうぞよろしくお願い致します。」


少し頭を下げながら、丁寧に挨拶すると、今度も驚いた様子は一切せずにリヒトさんはクールに返事をした。


「ご丁寧にありがとうございます。私はハーンブルク家にお仕えしているリヒトと申します。どうぞよろしくお願い致します。」


すると、丁寧にお辞儀をすると、またどこかに颯爽と消えてしまった。


「うむ、どうやら会話も成り立つっぽいな。でもこの魔法、魔力消費が激しいな。」


【はい、およそ10分で全体の5%ほどを消費しています。単純計算で3時間ほどが限界です。魔力を用いた戦闘をするとなると1時間程度が限界です。】


「燃費悪っ!それで?味覚はありそう?」


俺に尋ねられて、アイはゆっくりと砂糖が多めに入った紅茶を飲む。

すると、アイの顔がわかりやすく変化したのがわかった。


【これが味覚・・・・・・美味しいです。】


どうやら、以前までは視覚、聴覚は共有できても触覚と味覚と嗅覚は共有できていなかったらしい。

だが、実体を持った事で全ての五感を感じる事ができるようになった。

いまいち使い道がわからないが、これからはアイと一緒に食事を楽しむ事ができるようになったという事だ。


「それはよかった。他に何か食べてみたいものある?」


【"ワッフル"が食べてみたいです。】


「ワッフル?わかった、持って来させるよ。」


ワッフルは、最近巷で話題になっている新しいお菓子の事だ。前世の記憶を頼りに作ったもので、多少値は張るがとても美味しくて人気だ。

ちなみにレシピは既に一般公開し、商人達は競って販売を始めている。

中でもワインを片手に、ワッフルを食べながらサッカーを観戦するのは最高らしい。


「リヒトさん、ワッフルを2人分お願いします。」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


ワッフルは作るのに少し時間がかかる。今後の方針を考えながら、紅茶を飲んでゆっくり待っていようかなと思ったら、まずい状況になった。


「そこにいらっしゃる方はどなたですか?もしかして、新しい恋人ですか?」


「・・・・・・」


そういえばそうだった、今日は家に全員いるんだった。ヘレナ様はいるんだった。


「とてもお綺麗な方ですね、レオルド様」


「ち、違うんです、ヘレナ様。これには深いわけと事情が・・・・・・」


「ではその深いわけと事情を説明していただけますか?」


あれ?ヘレナってこんな子だっけ?

なんかもっとおとなしい子だった気が・・・


ここは正直に伝えるべきか・・・


【伝えるべきだと思いますよ。】


わかった。


「本日誕生日になりまして8歳になったため、魔法式が発現しました。どうやら彼女を呼び出す事が私の魔法のようです。」


「おめでとうございます、レオルド様。魔法式をお持ちとは、少し羨ましいです。」


ヘレナ様は王族だが、魔法式を持っていない。これは別に珍しい事ではなく、むしろ魔法式を持っていない人の方が多い。


「ヘレナ様、レオルド様の従者のアイと申します、どうぞよろしくお願い致します。」


「お話も出来るのですね、私はヘレナ・フォン・サーマルディアです、こちらこそよろしくお願い致します。」


軽い挨拶を済ませると、ヘレナは空いていたもう一つの席に座った。彼女の少し後ろには、もちろん彼女の護衛である騎士が付いている。

何故かピリピリと空気が震えている気がするが、気のせいだろう。

そして、なんとも言えない空気の中、時間だけが過ぎていく。


「あ、私としたことが、ここに来た目的を忘れていました、エリナ様が昼食の用意ができたから呼んできてと、おっしゃっていました。一緒に参りましょうか。」


「はい、そうしましょう。」


なんとかいつものヘレナに戻ると、俺たちは食堂へと向かった。

その後、お母様やクレア、イレーナ、ユリウスに説明を行った。

まだまだよくわからない所は多いが、『アイ』についても調べていきたい。

ちなみにワッフルは、食後のデザートになった。





食後


「人型の従者ですか・・・・・・」


「はい、奥様。私もこの目でしかと確認しました。レオルド様が魔力を魔法式に注いだ直後、『アイ』が現れました。」


ハーンブルク家の筆頭執事であるリヒトは、実は平民には珍しい魔法式を持っている。

昔、レオルドの父方の祖父にあたる人物が、リヒトを雇ったらしい。

リヒトの魔法式は単純で目に魔力を流すと、魔力の流れを見るというものだ。これを使う事によって相手がいつ魔法式を使うかなどを直接見る事ができる。


そしてリヒトの目には、レオルドが『アイ』と呼ばれる少女を召喚しているように感じた。


「なら魔法式は『アイ』さんの召喚で間違いないでしょう。ですが、どのような能力なのでしょうか・・・・・・」


「見た目は完全に人間ですが、やはり特徴となるのは髪の毛の色でしょうか。私は青色の髪を持つお方を初めて見ました。」


「確かに私とレオルドの紫も珍しいですが、青色の髪の方は私も会った事がありませんね。それに、人型召喚獣の話も聞いた事がありませんね。」


「また、ハーンブルク領内にある書庫へ行き、人型の召喚獣について調べましたが、1つも似たような記録はありませんでした。」


「なら彼女が、どのような子なのか成長が楽しみですね。子供がもう1人増えたと考える事にします。」


「了解致しました。」


「それと、パーティーの準備は順調ですか?」


「はい、万事抜かりなしです。」


「そうですか、楽しみにしておきます。」



______________________________


どうでもいい話


私は苺大福をこよなく愛する人間ですが、それと同じぐらいワッフルを愛しています。

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