第3話 強襲

「さて、どうするべきか・・・・・・」


防衛部隊を徹底的に排除し、敵の首都目前まで迫っていた。

敵の首都は、湾岸都市というわけではないものの、海岸から4kmほどの所に正門がある。


そこで、まずは海岸に部隊を2地点に分散させながら上陸させ、橋頭堡を築く事が先決だ。


【今さら何を迷っているのですか?マスター】


宣戦布告無しで攻撃を開始しようとしている俺に驚いただけだよ。

もう染まりきった事には気付いていたけど、ここまでとは思って無かった。


【サーマルディア王国が現在交戦中だから我々も交戦中であるという見方もできますよ。】


そうかもな・・・・・・

いや、そうだよな。


【人間は愚かです。後悔するとわかっていても実行し、無謀だと思っても挑戦する。ですが、その分だけ人間を人間たらしめます。】


アイが語った言葉は、しっかりと俺の脳内に響いた。


【マスター、足掻いて下さい。】


足掻く、か・・・・・・

よし・・・・・・


「これより、強襲上陸作戦を開始する。予定通りA地点からは『富士』『北岳』、B地点からは『穂高』『荒川』がそれぞれ強襲上陸を行い、『レインシリーズ』の各艦は後方支援に当たれ。」


兵の数はおそらく向こう側の方が上である。ならば、敵を上手く分散させた上で引きつけ、敵の抗戦能力を落とす方法が一番死者数が少ない勝ち方のはずだ。


「遠慮は要らない、任務を優先しろ。」


「「「了解っ!」」」


俺の合図と共に、通信員は作戦行動中の全ての部隊に通達を行った。

同時に、後方で待機していた『マウントシリーズ』の4隻が全速力で行動を開始した。

内部に積んであった揚陸艇を多数海の上に浮かべると、分散させながら上陸を試みる。


「観測員は、敵の大砲の位置を割り出せ。砲手は、海岸に残っている敵の船を全て粉砕せよ。」


「「「了解っ!」」」


流石のギャルドラン王国も、港に一つも大砲が無いという事はない。

数はそれほど多くないと思うが、複数門あるはずだ。

正直、鉄や合金をふんだんに使って装甲を厚くしてある『マウントシリーズ』やそもそも敵の大砲の射程外にいる『レインシリーズ』が沈む事はまず無いと考えている。

しかし、万が一敵の大砲が直撃すれば、無傷では済まされないし、中に火薬が入っていれば最悪航行不能に陥る可能性だってある。

もちろん、そんな事は避けたい。


そこで俺は、ある秘策を行なっていた。


「報告しますっ!敵の大砲の多くが、同時に爆発していますっ!おそらくSHSがやってくれたのでしょうっ!」


「聞いた通りだ、間違っても友軍に当たるな。大砲ではなく、敵の船を潰せっ!」


「「「了解っ!」」」


ハーンブルク軍の工作員、正確にはハーンブルクのSHSとジア連邦のTKSETによる共同作戦によって、敵の大砲を全て予め破壊するという作戦を行なっていた。

これで、上陸部隊が楽に敵を制圧できるだろう。




✳︎




「シェリングさん、こちらは全て完了しました。」

「これらも3つ潰しました。」

「こちらもナパーム弾で、使用不能にしました。」


SHSリーダーのシェリング用に作られた、特別制の携帯可能な無線受信機で作戦開始の合図を受け取ったシェリングとその部下は同時に攻撃を開始した。

予め、敵の大砲がある位置は全て特定されており、上手い具合に町民に混じりながら、一つずつ敵の大砲を潰して回った。


「TKSETの者たちも頼もしいな。」


「はい、私たちよりも数年後に創設されたとは思えないほど優秀な動きをしています。」


そう受け答えるのは、イレーナの戦闘メイド兼SHSメンバーであるアキネであった。

じゃんけんでセリカに勝ったアキネは、自慢のハンドガンと共にSHSメンバーの1人として行動していた。今回の作戦では、シェリングの補佐を務めている。

ちなみに負けたセリカは、主人であるイレーナとともに『時雨』に乗っている。


「結構すごいな。」


「ハーンブルク出身か、ハーンブルクに留学していた者たちのみで構成されているので、ある程度の動きはできるという事だと思われます。」


というよりも、基本的に最低でもハーンブルク領の学校を卒業しないと、入隊試験に受からない。

現在も、数年前に旧サラージア王国からハーンブルク領に引っ越した者たちが入隊したらしい。


「ならばこの戦争が終わったら我々も強化月間を行うとするか。」


「良いと思います。やはり、訓練は大切ですからね。」


シェリングとアキネは、2人でそんな事を考えながら笑いあう。2人とも、戦時中だというのに余裕そうであった。

そもそも圧倒的なのだ。敵はまともに防衛部隊すら配置していなかった。

大した脅威は一切無く、余裕の制圧であった。


例え敵がいても、ナパーム弾とSHSの標準装備である『M-4』の敵ではなかった。


『M-4』というのは、従来の中長距離攻撃用の『M-3』や『M-1』を改良し、近距離での戦闘に特化させた小銃だ。開発にはかなりの時間がかかったが、しっかりと活躍してくれている。

ちなみに弾丸は全て同じ奴だ。




やがて・・・・・・


「シェリング様、報告です。友軍の上陸成功を確認しました。ここが落ちるのも、時間の問題です。」


「わかった、ならさっさと撤退するぞ。巻き込まれたら困る。全軍に伝えろ。」


「「「了解っ!」」」


そして、およそ1万の上陸部隊が上陸に成功し、後続隊の上陸も同時に始まった。



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