第6話 後世

「まぁ、こうなる事はわかっていたんだけどね。」


【争いを最小限にするためには、必要な犠牲だと判断します。】


「そうだな・・・・・・」


東方亜人協商の解散、ハーンブルク領とファルティオン王国の合併、世界人権宣言による人種差別の撤廃など、様々な発表がハーンブルク領の当主である俺とファルティオン王国の女王であるリーシャの共同で行われ、新たな枠組みである『世界統一同盟』の発足は、世界に衝撃を与えた。

それまでの価値観や世界情勢をひっ繰り返すようなこの発表は、賛成する国や民族も多かったが、もちろん反対もしくは非難する国も存在した。特に、東方亜人協商の加盟国の中にこの発表に反対な国も多く、ハーンブルク領とファルティオン王国が共同で発足させた『世界統一同盟』への加入を拒否した国がいくつか存在した。拒否する事自体は全然想定内だし容認するつもりであったが、中には明確な敵対行為をする国も存在した。

俺は、ハーンブルク連邦王国の準備に並行して、これらの国や民族に対する対策を軍部と話していた。


「参謀本部としては、これらの国々と戦争になった場合でもほぼ100%の確率で勝利できると判断いたしました。」

「作戦局としても、あらゆるシナリオにおいて我が軍は少ない被害で敵を殲滅、もしくは国家の崩壊まで追い込む事ができると判断しました。」


「そんな事は知っている。慢心しているわけじゃないが、今や世界最強の軍事力を持つ我々が負ける事はあり得ない。そんな我々だからこそ、進むべき道を見誤るわけにはいかないのだ。」


「レオルド様・・・・・・」


俺は、自領の軍事力をそのように判断した。その上で、力ある者の責任として、どういう選択をとるべきかを考えた。まともに戦えば、おそらく数年で全ての反対勢力を葬る事はできる。だが、俺たちはファルティオン王国をこちらに引き入れる選択をした以上、できるだけ人間と亜人に被害が出ない選択をとる必要があった。

それが、俺とリーシャの約束であった。


「ではどのようにいたしましょうか・・・・・・」


「そこは俺も今、判断を躊躇っているところだ。今後の国家の安全を考えるなら、反乱因子は早いうちに潰しておくに限る。そこでお前たちには、できるだけ少ない犠牲で反乱分子を一気に封じ込む方法を提案してもらいたいと考えている。階級は問わない、何か思いついた作戦があれば自由に発言してくれ。」


俺は戦争の目的を話した後、軍人たちに意見を求めた。もちろん俺とアイは、それぞれ自信の考える最善策を既に思いついていた。

だが俺は、あえて軍人達に意見を求めた。これから先、俺が国王になれば、作戦の立案は彼らが行う事になる。大きな作戦や重要な任務であれば、俺が口出しをする事があるかもしれないが、基本的には彼らの中で物事を判断する体制を作ってほしいと考えていた。


ハーンブルク領からハーンブルク連邦王国に移り変わるにあたって、俺はある目標を設けていた。それは、俺やアイといったイレギュラーがいなくても、成立する国を作る事、もっと言うならば俺の子孫たちが安心して暮らせる国を作ること。

そのためには、強力な軍隊が必要だ。

話し合いをすれば、しっかりと議論をすればといった理想を述べるのは自由だが、現実から目を背けてはいけない。特に、政治家であればなおさらだ。

平和を語るのは自由だが、俺は1000万人近いハーンブルク連邦王国の国民の命を守る存在として、軍事を疎かにしたり放棄するような事は絶対にしない。


「思い付いた事や聞きたい事が有ればすぐに発言してくれ、まずは情報の共有からだ。」


俺がそう告げると、1人の若い将校が手を挙げた。まだ学校を卒業したばかりの新人で、この場で最も階級が低い男であったが、彼が話し始めると会議室にいた全員が喋るのを辞め、耳を傾けた。


「レオルド様、現在反乱分子として認定されているのは、『亜人連合』に所属している6国の事でしょうか。」


「あぁ、その通りだ。」


東方亜人協商の解体後、亜人国家の中で2番目の強さと大きさを誇る大国が、『世界統一同盟』に対抗する形で『亜人連合』という組織を発足された。ハーンブルク連邦王国とは違い、ファルティオン王国と『亜人連合』を発足させた『コンストリア帝国』の間には、ハーンブルク連邦王国ほどの大きな差はない。

そのためか、『コンストリア帝国』は周辺国とともに今回ハーンブルク連邦王国に反乱分子と認定される事になった『亜人連合』を発足され、ファルティオン王国からの誘いを無視した。


未だに直接的な戦争は無いものの、今回のハーンブルクとファルティオン王国の合併に伴って分離独立することになった幾つかの民族国家と共に悪巧みをしているらしい。

ファルティオン王国はもともと、一極集中ではなく地方分散の傾向がある国であり、独立した民族国家と『コンストリア帝国』が手を組めば厄介な事が起きるのではないかと考えられていた。


そのため俺とアイの考えた作戦は、多少違うものの、最初の目標は同じであった。


「では、『コンストリア帝国』のみに戦争を仕掛けて短期間で勝敗を付ければ、『亜人連合』は消滅し、心が揺れ動かされていた小国や様々な民族国家も従わざるを得ない状態になるのではないでしょうか。」


「正解だ。」


____________________________

どうでもいい話


私は、ファンタジー小説を書いている現実主義者です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る