第2話 事情

「まずはこれを見てくれてたまえ。」


「あ、あぁ・・・・・・」


俺は、渡された資料に目を通した。上からは順番に書かれている内容を頭に叩き込みつつ、クルトが伝えようとしている事を模索する。

途中、書かれている事に驚いた俺は、思わず顔をあげた。


「これ、本気なのか?」


「まぁ正直、仕方がない部分はあるんだけどね。馬鹿に金が集まると、大抵碌な事にならない良い例ってわけだね。」


「そうか・・・・・・」


「だから、僕は今すぐにでも独立すべきだと思うね。どう考えてもそっちの方がメリットは大きいんじゃない?」


「なるほどな・・・・・・」


現在サーマルディア王国では、ある程度の力を持ついくつかの貴族が調子に乗っているらしい。というのも、ハーンブルク領の商品を大量に輸入し、それを国内外で売り捌いて荒稼ぎしているらしい。同じハーンブルク領という事を活かして安く仕入れ売るだけなら、目を瞑ってあげようかなと思ったが、その稼いだお金で色々と悪さをしているらしい。

特に、サーマルディア王国の東部、以前はトリアス教国やギャルドラン王国の領土であった部分だ。この辺りは以前から何度も問題を起こしている地域であり、サーマルディア王国が解決を後回しにした地域でもあった。


そこでサーマルディア王国、というより国王陛下はお父様を経由して俺に助けを求めたという事だ。解決策は単純で、ハーンブルク領との取引を廃止すれば良い。そのために、彼は俺に独立を薦めたのだろう。これは予想だが、ハーンブルク領が独立すれば、王国は売買を独占できると判断したのかもしれない。


「まぁ確かに、放置して良い問題じゃないのは確かだな。」


「王国も困っているみたいだし、ここは弱きを助けると思ってさ。独立しちゃわない?」


なるほどな、って納得できるかぁー。

結局それって、儲かるのが貴族から王国に代わるだけじゃん。


【大事なのは結果であり、過程はそれほど関係ありません。】


まぁな、俺も政治家である以上、くだらない努力よりも結果を優先しないといけないわけだし、やる事はしっかりやろうと考えている。

俺は別に、サーマルディア王国の貴族に恩とか無いし、家族が幸せならばそれでいい。


さて、俺はどの道を選ぶべきなのだろうか。お前はどう思う?アイ。


【この状況ならば、独立一択ですね。】


え?お前独立反対派じゃないっけ。


【いえ、私は最初から独立派でしたよ。しかし、マスターの精神状態を考慮した結果、現状維持を推薦していました。】


精神状態?


【はい、現在のマスターには20歳を迎え、精神的にも余裕が出てきた頃でございますから、この辺りで独立するのがよろしいかと。配偶者も増えたようですし・・・・・・】


そうか・・・・・・


【というわけで、さっさとさっさと独立してしまいましょう。】


軽っ!

独立だぞ?そんな軽い感じで良いのかよ。


【もちろんメリットもありますよ。仮にハーンブルク領が独立すれば、以前よりもさらに選択肢が増えますから。】


それもそっか・・・・・・

何か流されている気もするが、断る理由もないか・・・・・・


「とりあえず、一度こっちの方で持ち帰って考えさせてくれ。」


「さすがの君も、いきなり独立の判断はできないんだね。」


「喧嘩売っているのか?」


少し頭に来た俺は、クルトを軽く睨んだ。すると、クルトは、笑いながら答えた。


「い〜や全然、むしろ安心しているんだよ。君も、人間なんだなって思ってね。」


「俺だって悩むことはある。しかも最近は色々なことに悩みっぱなしだ。常に能天気なお前が羨ましいよ。」





「本日も、お仕事お疲れ様でした、あなた。」


「ヘレナもありがとな。」


その日の夜、夕食を食べ終わりもう寝るだけになった俺とヘレナは、同じベッドに入り寝る準備をしていた。夏場という事もあり、お互いに薄めのパジャマを着ていた。すでに何百回も同じベッドで一夜を共にしているが、未だに緊張はある。


「今日はどうしますか?」


「今日はちょっと、大事な話があってな。」


「なんでしょうか。」


事前に何も伝えていなかったからか、ヘレナは少し驚いたような顔をしながら俺の方を向いた。俺は、結婚の提案をした時と同じぐらい緊張しながら、伝えなきゃいけないことを伝えた。


「国を起こす事になった。」


「そうですか・・・・・・」


できるだけ端的に、事実だけを伝えた。

俺は、どのような反応が来るか、内心不安になりながら視線を逸らした。

だが俺の心配は、いい意味で裏切られた。


「これから忙しくなりますね、あなた。」


「何も言わないのか?」


「以前伝えたではありませんか、私はすでにサーマルディア王国ではなく、ハーンブルク領の人間です。私は、レオルド様の事を常に第一に考えていますよ。ですので、私の事は気にせずに最善を選んで下さい、あなた。」


「ヘレナ・・・・・・ありがとな、なるよ国王。」


「頑張ってくださいね。私はいつでもあなた様の味方ですから・・・・・・」


実は少しだけ、こんな感じの回答をもらえるんじゃないかって期待していた部分はあった。そしてヘレナは、俺の期待通りの回答をくれた。


「あ、でもあなた、一つだけわがままを言ってもいいですか?」


「なんだ?」


「この子が産まれたら、家族皆んなで旅行に行きたいです。」


自身のお腹に手を当てながら、ヘレナは微笑んだ。久しぶりのヘレナのおねだりに、俺は全力で応える事にした。


「希望とかはあるか?」


「リーシャさんとフィーナさんの故郷に言ってみたいです。」


そしてこの日から、俺は地獄の建国準備期間に突入した。

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どうでもいい話


おかげさまで、星4000を超えました。

たかが数字ですが、素直に嬉しかったです。

ありがとうございます。

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