第10話 打電
「詳しく教えろっ!」
甘い、雰囲気から一転、飛び起きた俺は部下の元へと駆け付ける。
「はっ。まず、こちらの海図をご覧下さい。」
そう言うと、男は地面に海図を広げた。ハーンブルク海軍に所属している一定以上の階級の者なら、誰でも持っている物だ。
指示が円滑に通るように、全員に地図を持たせてある。
「まずは北西方向に展開中であった『霧雨』が船団を発見しました。距離、数は現在調査中ですが、方向から考えるとサーマルディア王国の海軍だと思われます。『霧雨』からの報告では、このままいけば接触までおよそ2時間、デュークス島まで5時間との事です。」
「もう一つの方は?」
「島の東側に展開中であった『春雨』からでございます。こちらも所属、距離、数ともに不明ですが、こちらは接触までおよそ3時間、デュークス島まで10時間との事です。」
ハーンブルク海軍が作った軍港はもちろんハーンブルク領により近い島の北西にある。また、新たに建設された軍港の高台には何人もの観測員が常に海を見張っており、狼煙などを使ってやりとりをしていた。
そして、直接双眼鏡や望遠鏡で見る事ができない島の東側は目視の代わりに『春雨』を派遣していた。
何故『春雨』なのか、それは・・・・・・
「『春雨』には何と打電しますか?」
「東側の所属不明船団を、これより敵船団と推定、付近の警戒を密にせよ。それと、敵船団の個数と動力源の確認を急げ。」
「はっ!電信員に伝えてきますっ!」
それは、ハーンブルク家が所有する軍艦の中で唯一電信が可能だからだ。
テラトスタ-ハワフシティ間で使われた物の、一個前のやつらしくアインが急ピッチで作業をして何とか出港に間に合わせてくれた。
交信可能距離はおよそ100kmだが、十分すぎる性能を発揮していた。
「レオルド様、行くのですか?」
「あぁ、ごめんね。せっかくのバカンスの予定だったのに・・・・・・」
「気にしないで下さい、レオルド様。それと、帰って来たらお詫びを期待して待ってます。」
「あはは・・・・・・」
何というか、全然大丈夫じゃない気がする。
帰って来たら機嫌を直すように頑張ろっと心に決めると、イレーナの手を取って走り出した。
イレーナが何か言っている気がするが気にしない。
目指すは、ハーンブルク海軍の司令部だ。
✳︎
数ヶ月前、ギャルドラン王国ではある計画が進んでいた。
「何?船を使ってサーマルディア王国の王都を襲撃するだと?」
「はい、少数精鋭で敵の王都サーマルから最も近い港『リバスタ』を襲撃し、その勢いのまま敵の王都を襲撃するのです。」
「確かに画期的な案だとは思うが、敵の海軍はどうする?」
「現在サーマルディア王国は、兵力の大半を前線に送っており、とても軍艦を動かせる状態ではないという情報が入っております。」
「なるほど。」
「そこで、まずはデュークス島を襲撃し、これを占拠。武器や食料を徴収した後、『リバスタ』を攻撃し、その勢いでガラ空きの王都に殴りかかるという作戦です。」
例え海軍が展開されていても、サーマルディア王国の海軍に遅れを取るはずが無いと彼らは考えていた。
というのも、2本の大きな河の合流地点に王都があるギャルドラン王国では、昔から海軍が発達し、強かった。
彼らの基準では、海軍力だけであればガラシオル帝国といい勝負、サーマルディア王国には圧勝というスタンスであった。
『リバスタ』は遠く、かなりの距離があるが、攻撃不可能な距離ではない。
また、レーダー探知などが無いこの世界では、海軍同士が接敵する確率は低く、例え発見されても船速に差が有れば容易に逃げれると判断したのだ。
「何隻有れば足りるか?」
「はっ。大型船を20隻ほどでしょうか。」
ギャルドラン王国の海軍は、大型船20隻と中型船が50隻、小型船がたくさんであった。
これは、他国に比べると圧倒的に多く、過剰とも言える戦力であった。
「我が国が所有する大型船を全て投入するという事か。」
「はい、長距離の航海となりますので、出来るだけ大きな船が適しています。」
男自身は、大型船を20隻など必要無いと考えていたが、ギャルドラン王国内にたくさんいる海軍至上主義の軍人達が、陸軍ばかり良い思いをしている事に対抗して、全員出撃する気満々であった。
「うむ、わかった。国民から兵を徴収しよう。」
「ありがとうございます。」
その日から、急ピッチで王都侵攻作戦の準備は進み、ついに出撃となった。
大型船20隻、乗員は合計6500名。
王都を攻撃するには少し少ない気もするが、ギャルドラン王国としては、王都を攻略できなくても、敵が再びリバスタを攻撃される事を恐れて兵士を回せば、その分前線が手薄になると考えた。
つまり、失敗しても成功しても、ギャルドラン王国の得になると考えたのだ。
まぁそれは、『リバスタ』に無事に到着できたらの話だが・・・・・・
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どうでもいい話
ちょっとワクワクしながら書いてます。
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