第7話 箱庭/side フィーナ4

短過ぎたので、くっつけました。


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交渉は一時中断となり、ファルティオン王家姉妹は退出した。部屋には俺とイレーナだけが残され、交渉の再開を待つ事となった。


「本当にあんな提案で良かったの?」


「あんなって?」


「合併した方が良いのは理解したけど、交渉の仕方があなたにしては雑過ぎじゃないかしら。あれじゃあ、この提案の意図や本質に気づけないかも知らないわよ。」


「あぁ〜その事ね。でもあれで、目的は達しているから心配すんな。」


イレーナは、心配そうに尋ねた。この交渉は、場合によってはこの世界のパワーバランスを大きく左右するものだ。

誰だって慎重になるのは当然だし、できるだけ相手に自分の主張が伝わりやすくするのが定石だ。だが、俺はあえてそうしなかった。


「何度も言っているけど、俺の目的はハーンブルク領が大陸における絶対的な優位性を見い出す事であって、ハーンブルク領とファルティオン王国が合併する事じゃないからね。相手を自分の利益が最大になるように誘導するんじゃなくて、相手がどう動いても対応できるようにしているんだよ。」


「・・・・・・つまりあんたは、あの2人ができるだけ悩むように仕向けているって事?」


「概ね正解だな。」


話してみてわかった。彼女達は、良き為政者ではあるけれど、外交経験が圧倒的に足りない。

彼女達をこちら側の陣営に引き入れる事にはもちろん賛成だが、もう少し経験を積ませた方が良いと判断した。だから俺はあえてちゃんと説明せず、彼女達の反応を見る事にしたのだ。


俺には、お母様やヘレナ、イレーナといった良き家族がいた。良き相談相手であり、良きパートナーであった。だからこそ、ハーンブルク領はこれほどまでに急激に発展した。

でも、彼女達にはそれがいない。

これは予想だが、若くして王位を継承したのち外側ではなく内側の敵に悩まされる生活を送っていたはずだ。彼女達には兄弟がおらず、両親は既に他界しているので後継ぎはいない。つまり、彼女達は王位継承権を持った唯一の姉妹だ。当然、彼女達を取り囲む貴族や各種族の族長達は自身の子や血縁者を彼女達の夫にしようと画策しただろう。そのせいもあってか、男嫌いというわけでは無いが、他人への警戒心が少し強い気がするのは気のせいではないだろう。


とりあえず今は、選択を待とうと思う。


「さて、サイコロはどっちに転がるか・・・・・・」


今回の交渉では、ある程度は彼女達に決めさせるつもりだ。

だが、重要な所はもちろん譲らない。

主導権を握るのはこちら側だ。





「本当なら、私が先頭に立って・・・・・・ごめんね、情けない姉で・・・・・・」


「謝らないで下さい、お姉様。何もできなかったのは私も一緒ですから・・・・・・」


「ありがとう。でも、これじゃあ女王失格ですよね・・・・・・」


「お姉様・・・・・・」


先ほどまで行われていた交渉、私はお姉様を支える事ができなかった。ハーンブルク領で半年ほど暮らし、レオルド様の人となりは理解したつもりだったが、その考えは浅はかだったようだ。

私は、彼の本当の姿を初めて見た。

経験の差を、これでもかというぐらい見せつけられた。


「私に、もっと力があれば・・・・・・」


「お姉様・・・・・・」


どうやらお姉様も、私と同じような事を考えていたようだ。

私とお姉様は、早くに両親を亡くしてからずっと、2人きりで国と王都を守って来た。だからこそ、私たち姉妹は自分たちの力不足がよくわかった。


「大丈夫ですよお姉様。これからも、2人で頑張りましょ。」


「でも、どうすれば・・・・・・」


きっと、何処かに道があるはずだ。今までだって、私はお姉様と一緒にやって来れた。

だからこれからも私たちで協力して、ファルティオン王国の維持を・・・・・・


あれ?

ちょっと待って・・・・・・

維持?

維持って何?

私たち姉妹は、2人で協力して・・・・・・


「お姉様、私わかりました。」


「どうしたの?フィーナ。」


「レオルド様があのようにおっしゃった理由がわかりました。」


私たち姉妹は、王国を守って来たようにみえて、実は自分たち自身を守っていた。

お互いがお互いを支えながら唯一の王族として振る舞い続けて来た。そして、この世界一の大国を、なんとか統治しようと頑張った。


レオルド様の提案は、そんな私たちを縛り付けていた呪縛を解き払う提案であった。


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どうでもいい話


生茶こそ至高

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