第8話 最善
「そういうわけで私は、レオルド様のご提案に賛同しようと思います。」
「ほお、理由を聞いても?」
「私たちは、自分と同じような境遇の同胞がこれ以上増えないように東方亜人協商を作りました。しかし私は、同時に東方亜人協商がいかに脆弱である事を知っております。そしてこの提案は、私たちの国がより良い国に生まれ変わる事ができる良い機会だと判断いたしました。」
「そーなったか・・・・・・」
もちろん俺は、この展開を想定していた。現状で最もハーンブルクにとって得となる選択であり、最も選ばれるよう可能性が低いと思っていた選択であった。
【ハイワークハイリターンな選択でしたね。】
何それっぽい事言ってんの。
【でも、正しいでしょ?】
・・・・・・はぁ、何も言い返せないんだよな〜
アイの呟きは正しい。この選択は、確かにハーンブルク領に取っては最も嬉しい選択であるが、同時に大量の負担を抱える事になる。
「決意は硬いのか?」
「はい、既に決断致しました。」
まさかこれほど早い段階でこの道を選ぶとは思っていなかった俺は、思わず心の中で頭を抱えた。
表情を崩さないように気を付けながら姉妹の顔を改めて見ると、昨日までは無かったオーラを放っているように感じた。決して、気のせいじゃ無い、凄まじい成長速度だ。
おい、どうすればいい、アイ!
【いかが致しましたか、マスター】
このままじゃ、俺はほぼ確実に仕事漬けの日々を送る事になる。月々の残業時間は1000時間を超えて、子供達や妻達と遊ぶ時間は一切無く過労死コースだ・・・・・・
【マスター、1ヶ月は720時間しかありませんよ。どんなに多くても250時間ほどと推測されます、ご安心を。】
どっちにしろ過労死コースじゃねーか。
何とか上手い事残業時間を減らしたいんだが、何とかできないか?
【良い方法はもちろんありますが、それを実行するためには条件があります。】
なんだ?
【5分程でいいので、1時的に身体の主導権をお貸しいただく事です。1度歩み出したらもう戻れない内容です。それでも構いませんか?】
あぁ、仕事量が減るなら何でもいい。
やってくれ。
【了、身体機能における主導権の受託を確認致しました。これよりマスターの命令により、問題を解決します。】
俺は、内心助かったと思って大きく安堵した。
俺の持つ、俺だけのチート、アイ。
彼女の力を借りて、解決できない問題などこの世界には無いと、本気でそう思っていた。
少なくともこの時までは・・・・・・
「提案に乗ってくれた事は凄く有難い。だが、後出しのような事になって申し訳ないが、もう一つこちらから条件を出させてもらう。」
「何でしょうか・・・・・・?」
アイに主導権を渡した俺も、心の中で密かにその条件を予想したが、俺にはさっぱりわからなかった。まぁ、わからなかったからこそ、俺はアイに主導権を渡したわけだが・・・・・・
ちなみに、俺がアイに主導権を渡した場合、俺は無理やりアイから主導権を奪い返す事はできないようになっている。その代わり、アイが俺を裏切る事は不可能という事になっている。
アイは俺の相棒であり、俺やハーンブルク領のために最善の行動をしてくれる。
だから俺は安心しきっていた。
そしてアイは、ハーンブルク領のために最善を選んだ。
「女王陛下かフィーナ殿、もしくはその両方が俺と政略結婚する事です。」
なるほど、その手があったか。
流石アイだ。
これで・・・・・・
ちょっと待て。いや、だいぶ待て。
今なんて?
「俺じゃなくて俺の弟でもいいが、ハーンブルク家に嫁入りして欲しい。理由は、そうなればファルティオン王国や東方亜人協商への改革がやりやすいからだ。」
「・・・・・・」
「俺も、すぐに答えを貰えるとは思っていない。だが・・・・・・」
「「わかりました。その話、受けようと思います。」」
姉妹2人の声が重なった。
「フィーナっ?!」
「私もお願いします、レオルド様。私は、お姉様と違ってあまり役に立たないかもしれませんが、お姉様と一緒にいたいです。」
「フィーナ・・・・・・」
「わかった、2人とも娶ろう。」
「ありがとうございます、レオルド様!」
・・・・・・
【・・・・・・】
・・・・・・
【いかが致しましたか、マスター。既に主導権はお返ししてありますよ?】
おいー!!!何だこれはー!!!
【マスターのご要望通り、マスターの仕事量を大幅に削減した上で、ハーンブルク領にとって最も良い結末に導きましたよ。】
おかしい。
交渉は完璧に最高したはずなのに、何故かこれから訪れるであろう近い未来に恐怖を感じた。
主導権が戻って来た事を確認した俺は、とりあえず交渉の終了を告げる事にした。
側に控えていた記録係に、今日の交渉の記録は全て消去するように命じた後、俺は自室へと戻った。
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どうでもいい会話
「・・・・・・言い訳していいか?」
「良いと思う?」
「ダメ、だよな・・・・・・」
「分かっているなら聞かないで。」
「・・・・・・すみませんでしたー!」
「私は何も怒ってないわよ。」
「え?」
「怒っていないけど、この事はシュヴェリーンに報告させて貰うわ。この事を聞いたあの子達は、いったいどう思うかしらね。」
「それだけは〜!」
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