第9話 意欲
同じ頃、パラス王国ではある噂が広まっていた。
「おい聞いたか?近いうちに、ガラシオル帝国の人間どもが攻めてくるかもしれないって噂。」
「あぁ、聞いた聞いた。どこもかしこも大騒ぎらしいぞ。」
「大王様はどうなさるんだろうな〜」
パラス王国首都パラスでは、ある噂が流れていた。それは、お隣の国であり、現在戦争中の国であるガラシオル帝国が大量の部隊を投入し、一気に攻勢を行うつもりだ、というものだ。
この噂の真偽は定かではなかったが、パラス王国に暮らす亜人達にとっては、重要なことであり、無視するという選択はあり得なかった。同時に彼らには、徹底的な反ガラシオル帝国精神が根付いていた。
「人間め、俺たちをバカにしやがってっ」
「こうなったら全面戦争だっ!」
「今度こそ、大陸から人間を滅ぼしてやるっ!」
まさに、最悪の一歩手前といった状況であった。
そして、その噂の波はパラス王国の北端にある港町にまで届いていた。
「周囲に人はいないな?」
「はい、すでに確認済みでございます。」
その港町の領主との友好関係を築く事に成功したエルフ共和国のエルフ達は、港のすぐ近くに拠点を構えるまでに成長していた。
現在ではそこを拠点に、パラス王国内の諜報活動を行なっており、ハーンブルク軍の秘密基地でもあった。
ちなみに、有事の際はあらゆる書類を燃やした上で西のガラシオル帝国に逃げるように命令されており、ハーンブルク領との関係がバレないように細心の注意を払っていた。
「では、報告を聞こうか。」
「報告では、パラス王国のあらゆるところで戦争ムードが高まっており、近いうちに大規模な攻防戦が展開される可能性があります。」
「具体的な日時と規模は?」
「あくまで予想ではありますが、約半年後に40万前後だと考えられております。」
「思ったよりも多いな。」
レオルドから直々に南方方面軍所属の部隊長に任命されているアスランは、同胞でありSHSメンバーでもある部下から情報を受け取っていた。南方方面軍というのは、ハーンブルク軍におけるガラシオル帝国及びパラス王国周辺を担当する部隊の事だ。新たな軍事拠点となったデュークス島に拠点を置き活動しており、諜報活動を含め彼らは多大な貢献をしていた。
「そこは、この国の徴兵制度が関係していると思われます。現在でも30万ほどの戦士が国境付近に常駐しており、必要とあらば100万を超える兵力を揃える事も不可能ではないという報告もあります。」
「祖国ではおろか、ハーンブルク領でも考えられない規模だな。」
「全くです・・・・・・」
現在のハーンブルク軍の陸海合わせた正規兵の数が6万人前後である事を考えると、いかに多いかがわかる。まぁハーンブルク軍は全て正規兵であるのに対して、パラス王国の軍隊は寄せ集めの傭兵である事は間違いないが、100万の兵というのは驚異的だ。
ちなみに現在の西方統一軍の兵力がだいたい30万人ほどであり、それよりも多い事になる。
「噂の出所や目的はわかっているのか?」
「いえ、まだ掴んでおりません。ですが、パラス王国の国王とその配下が流した可能性が一番高いという報告が上がっております。」
「なるほど・・・・・・」
アスランは部下の話に耳を傾けつつ、今の自分達はどう動くべきかを真剣に考えていた。そして、ある結論に至る。
「ここは、下手に動くわけにはいかないな。」
「やはりですか。」
「下手に動いて怪しまれる事も避けたいが、一番困るのは参戦要請を受ける事だ。パラス王国の動きを監視しつつ、必要とあらば本国に情報を送れ。」
「了解っ!」
部下が去った後で、アスランは書類を眺めながら呟いた。
「ガラシオル帝国とて大国、すぐには潰れないはずだ。あとは、向こうの指示を待つとするか・・・・・・」
嫌な予感が当たらない事を、ただ願うばかりであった。
*
「・・・・・・これさ、領主の仕事だと思うか?」
その頃俺は、ハーンブルク領首都シュヴェリーンにて、大陸南西部の情勢についての報告を受けていた。
何やら怪しい動きがSHSの情報網に引っかかったと言う事で、ハーンブルク領の上層部にも緊張が走っていた。
「あなたの今の地位を、普通の領主と同列に扱おうとすること自体が間違っていると思うわ。」
「確かに・・・・・・」
【私もイレーナ様に同意です。】
おいおい。
「ほんと、人間と亜人の種族的な抗争ほど無駄な事は無いと思うけどね〜」
正直この部分は、俺の自慢の相棒であるアイを持ってしても、原因の究明は難しいという判断が下された。いくら高性能AIでも、何百万もの人間の思考回路や情報を処理するのは難しいらしい。
まぁ当たり前な話だけど。
ただ考えてみれば、ハーンブルク領もエルフ共和国と国交を結んだ直後はお互いに疑心暗鬼な状態が続いていた。
エルフに対して、入店拒否だったりしていた店が誕生し、俺の頭を悩ませたのが懐かしい。
「おそらく、私たちエルフだったからこそ、この程度で済んだのだと思います。人間どころか、同族であるはずの亜人とすら関係が無かった私達はエルフ至上主義を掲げる事すら無かったので・・・・・・」
「確かにスピカの意見も正しいと思うけど、私はハーンブルク領の人々が亜人との戦争経験が無かったら事が大きいと思うわ。私も、亜人が危険な存在って事は聞いていたけど、具体的にどう危険なのかは聞いた事がなかったもの。」
スピカとイレーナは、それぞれ自身の意見を述べた。どちらも正しいし、間違ってはいない。
だけど俺は、こう考えていた。
「教育があったからこそ事前の評判に振り回されずに接する事ができた人が多かったんだと思う。」
「でも、それは難しいわよ?」
「わかってる。だから俺は、俺のやり方でハーンブルク家に最善をもたらす。」
どうなるかはわからない、だげど自分を信じて突き進むまでだ。
【マスターの言葉を借りるなら、サイコロ次第、といったところでしょうか。】
アイがそれ言っちゃあかんでしょ。
【おいおい。】
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どうでもいい話
少しずつ国が増えていく予定です。
地図作りも頑張りますっ!
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