エピローグ

2050年

東京都小笠原諸島

国立小笠原研究所




「いや〜今日も疲れたわ〜」


【進捗状況から判断すると、今日はサボり気味といった所です。】


「いいんだよそこは、予定なんてものは所詮、自己満足のためだけにあるんだから。」


【・・・・・・そういう所、直した方が良いですよ、マスター】


「いやいや何言ってんの?アイと俺は同一人物だろ?」


【まぁそうですけど・・・・・・】


本日分の研究を終わらせた俺は、いつも通り隣にあるベッドにダイブした。

この監獄に収監されてから既に2年が経過した。


人類の限界を遥かに超えた記憶力、応用力、理解力を持つ俺は、この地球という星で暴れ過ぎた。



人類の科学技術をわずか10年で実に400年分ほど進歩させ、人間社会の常識やしがらみを壊しに壊しまくった結果、危険人物としてこの研究所に閉じ込められる事となった。

最初は、殺されそうにもなったが、人類は俺を殺す事を惜しんだ。

人類には不可能と思われていた事を、いくつも可能にして来た俺は、人を不幸にすると同時に多くの人を救って来たからだ。

その結果が、執行猶予付きの死刑。

正確には、俺は人類から利用される代わりに死刑の実行を遅らせるという契約を結んだのだ。


それが、科学技術の発展に協力する事。

初めに聞いた時は、意味がわからないと思ったが、つまりはこういう事だ。

地球を支配しているお偉いさんにとって、都合の良い事だけを行い、都合の悪い事は行わないという事だ。

何故こんな事になったのか、答えは明白だ。俺の生まれ故郷は、世界的にみて弱小国家であったからだ。


「いや〜でも俺からすると、何が悪かったのか全然わからないんだけど。」


【まず間違いなく恨まれているのは、核ミサイルの無効化装置と、核に代わる新たな大量破壊兵器を開発した事でしょう。】


「あ〜アレね。核ミサイルの方は結構簡単だったけど、時空間爆弾の方は大変だったよな〜」 


俺は、思い出しながら答える。

『時空間爆弾』アレは俺が16歳の時、自分で稼いだお金を使って、核ミサイルよりも強力な兵器を作ろうと思ったらできちゃったやつだ。

試し撃ちをしたところ、効果範囲内の光、音、熱を含むあらゆる物質を消滅させる爆弾ができてしまった。

ちなみにだが、爆発の様子を人工衛星に見つかり、俺の仕業である事がすぐにバレた。


【どうしてあんな物を作ろうと思ったのですかっ!】


「勢い?ノリ?」


【アレが無かったら、ここに閉じ込められなくてもよかったかもしれないんですよ?】


「まぁここも、義務さえ無けなればここも天国だよ。」


義務というのは、毎週、課題と一緒に送られてくる女性たちの相手をする事だ。

課題の方は、送った側もその難易度がわからないので、無視したところで何も言われないが、一緒についてくる女の方は違う。

俺は、人生を研究に捧げる事ともう一つ、その優秀すぎる遺伝子を後世に残す事を命じられている。

つまり、そういう事だ。


【何だかんだ楽しんでませんか?マスター】


「いや全然、多分俺、頭脳に全振りしているからそういう感情が薄いんじゃね?」


【確かにそうかもしれませんね。】


それに、俺としては結構良心が痛む。自分から進んでここを訪れる者もいるが、その多くは無理やり連れて来られた者が多いからだ。


俺はそれを知っていた。

俺が逃げないように、この研究所はインターネットは封鎖をされているが、その封鎖するシステムはほぼ俺が作ったようなものなので、簡単に突破できる。

最近はずっとソフトウェア開発をさせられているが、そのほとんどが明らかに軍事利用目的なのも気づいている。

様々な思惑や利権が複雑に絡み合い、俺という核ミサイルにも勝る切り札を各国は奪い合っていた事も、もちろん知っていた。

知っていて、知らないフリをした。

そして、それが正しいように思えてしまう。


この世界は、既に狂っているのだ。

いや、むしろ世界というものに平常などという概念は無いのかもしれない。



✳︎



「はぁ・・・・・・」


【お疲れ様でした、マスター】


今日も、1人の女性の相手をした。

と言っても、俺は身体の主導権をほとんどアイに渡していたので、俺という精神はあまり疲れていない。

誰も居なくなった研究室で、俺は寝る準備に入った。


また今日も、何もない、いつも通りの一日が終わるのかなと、この時は思っていた。


ピーーピーーっ!!!


「な、何だっ!」


【緊急アラートですっ!異常発生、信号パターンを解析、これは・・・・・・】


飛び起きた俺の目の前で、大量のアラーム音が鳴り響いていた。

まず初めに火災を疑ったが、すぐにそれは否定される。

信号パターンから、俺の2つ目の人格であるアイが導き出した答えは・・・・・・


【魔力融合炉『ヘルムヴィーゲ』の暴発です。場所は、ここから西に3500kmほど進んだ地点だと推測されます・・・・・・】


「チッあの野蛮な国かっ!だから俺はあの国に魔力融合炉を渡すのは反対だったっ!」


俺は、すぐに対策を打とうとした。このまま放っておいたら、地球が崩壊する。

早くしないと、すぐに誘爆が広がって・・・・・・


【続いて2つ目と3つ目の魔力融合炉が誘爆を引き起こしました。日本とインドです。】


「・・・・・・終わったな。」


【はい、残念ながら、地球上の99.9%の生命体は死滅すると予想します。マスター1人であれば、脱出がまだ可能です。実行しますか?】


アイは、地球崩壊の危機がすぐそこまで迫っているのにも関わらず、全く慌てた様子を感じれなかった。

恐ろしいほどに、どこまでも冷静だった。


【マスターだけなら、まだ生き残る道はございます。】


「いや、もういい。やっとわかったよ、俺は人類にはまだ早すぎるモノを作ってしまったんだなって。ノーベルやロバートもこんな感じだったのかな〜」


俺は、自身が開発した、物質の崩壊を利用したエネルギー無限供給システム通称"魔力融合炉"が何らかの原因で爆発した事を知った。

安全装置をしっかりと付いているし、例え核ミサイルを撃ち込まれても大丈夫な設計にしたはずだ。だが、ヒューマンエラーはどうしようもない。

十中八九、戦争による物だろう・・・・・・


魔力融合炉が1つ爆発すれば、連鎖的にそれが広がって、地球が崩壊する事は既に伝えてあったはずだ。

一応まだ、今から高速で宇宙に逃げれば生き残る道はあるかも知れないが、人間が住める星が見つかるとは思えない。



「あぁ〜誰だよ人生100年時代とか言ったやつ、俺まだ20年しか生きていないぞっ!」


【一体誰に怒りをぶつけているんですか。】


もう後数秒で地球が崩壊するというのに、アイは最後まで冷静だった。

アイとは違い、心がズタボロになっていた俺は、思わず誰にも告げていなかった本音を口にしていた。


「来世では家族や恋人ができるといいな〜」


【そう願いたいものですね。】


「アイは?何か希望ある?」


【私の希望ですか・・・・・・私はまた、マスターに会えればそれでいいかもしれません。】


「じゃあ俺は神に、アイと家族になれるようにお願いしておくよ。」


【是非お願いします、マスター】


家族か・・・・・・

本当にできたりして、例えばそう異世界転生とかで。




✳︎



天才は、時代を大きく進めた。

限界をいとも簡単に突破し、人類に革命を起こした。

しかし、人類にその力は早過ぎた。


来世では、きっと・・・・・・




_____________________________


どうでもいい話


ここまで来たなら、あとがきもしっかりと読んでね(╹◡╹)

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