第3話 要塞

軍事同盟を締結した事によって軍事通行権を得たハーンブルク軍5000は、エラリア王国とジオルターンの間にできた橋を渡りそのまま河沿いを南下した。

ちなみに、残りの兵達は全てイレーナに預け、ジオルターンの防衛をお願いしてある。


この動きはすぐに敵に察知され、エラリア王国の隣国であるラトシア王国が国境付近で立ち塞がった。

ハーンブルク軍は、敵要塞からおよそ4000mほど離れた高台に陣を作った。


敵の推定兵力はおよそ1万6千と、ハーンブルク軍の約3倍なのにも関わらず、敵側から攻撃を仕掛けようとはせずにデルミアン要塞の中に閉じこもった。


「正面に敵およそ1万6000、内1000が騎馬兵です。また、敵主力およそ1万9000万が現在デルミアン要塞に向けて進軍中です。合流は、5日後ぐらいになると思われます。」


陣の設営が一通り終わった頃、俺専用の天幕に、SHSメンバーの1人がやって来た。俺は、報告に耳を傾ける。


「合計3万5000か、俺が言うのも何だけどよく集まったよな〜どう思う?」


「やはり、宗教の影響力が強い国だからでは?」


「そうだな。確かに宗教というのは、人を操る上で1番簡単な方法の1つだ。だが俺は、彼らが団結している理由は恐怖心だと思う。我々に対する強い恐怖心が、彼らの心を動かしたのだ。」


「なるほど、確かにそのような理由もあるかもしれませんね。」


俺が答えると、男は少し考える素振りをした後、答えた。

この辺は、今考えても仕方がない事だが、ついつい考えてしまう。

ついでに、今回持って来た新兵器についても尋ねておく。


「ところで、例のモノは全て異常ないだろうな。」


「はっ!特に問題は報告されておりません。」


「けっこう、なら明日には始めるから準備しておけ。」


「はっ!」


そう告げると、再び姿を消した。最近、このようなSHSメンバーとの会話を増やすようにしていた。

ガチガチな階級による上下関係を付けるのも必要な事だとは思うが、コミュニケーショが命である諜報部隊には、会話から情報を引き出すテクニックなどの訓練もさせている。


「そんじゃ、俺もそろそろ寝るかな〜クレア、チョコある?」


わかりやすく欠伸をしながら、入れ替わりで入って来たクレアにチョコが食べたいと伝えておく。

チョコは数年前に俺が開発し、今ではハーンブルク領の有名な都市なら少し高価だがどこでも食べられるほど広まった。

ちなみに、お菓子の普及によって、パーム油とサトウキビが大量に足りなくなり苦労したのは別の話。


「レオルド様、就寝前にチョコを食べるのは良くない、と自分で広報部門に伝えて新聞の記事にさせたばかりではありませんか。」


「いいんだよ俺は。ほら、病気とかなった事ないし。」


俺の身体は、自分で言うのも何だが結構すごい。体内のあらゆるエネルギーがアイによってコントロールされており、病気にはいっさいかかった事がない。

ちなみに、ある程度の毒耐性、痺れ耐性、暗視、混乱耐性なんかもついており、無意識に身体を守ってくれている。

寝る直前にチョコを食べたぐらい何の問題もない。


「だとしてもダメですよ。レオルド様の身体は、何よりも大切です。健康には細心の注意を払って下さい。」


「はいはい。」


「言う事を聞かないと、ヘレナ様に伝えますよ。」


「寝まーす。」


あらゆる灯りを消した俺は、すぐさま眠りについた。

結婚からまだ半年ほどしか経っていないが、既に俺は逆らえなかった。



✳︎



「敵、未だに動き無し。デルミアン要塞に引き篭もったままです。」


「こちらの位置は補足されているとおもうか?」


「おそらくされていないと思われます。我が軍を遠距離から肉眼で発見するのは難しいと考えております。」


「まぁ、そうだろうな。もしかしたら気付かれているかもしれないが、正直あまり変わらんか。引き続き付近を警戒しろ、どこに敵の斥候がいるかわからないからな。」


「はっ。」


俺たちの正面にあるデルミアン要塞は、ラトシア王国一の堅さを誇る堅城だと聞いている。

噂によると、王都よりも防御力が高いらしく、古くから何度も激戦の地となった場所だ。

城の西側はヴィスラ河、東側にはエラリア王国との国境にもなっている山脈と森のセットがあり、大軍の移動を行う際はここを通らなけばならない、という戦略的に重要な地点だ。


かつて、ここを巡って何度も激しい戦闘が起こったが、今回ほど一方的な戦闘はなかっただろう。



天気は晴れ、清々しいぐらいの快晴。

そして、夏という事もありめっちゃ暑い。


「あ〜エアコン欲しいなぁ〜」


「エアコン?何ですか?それは。」


隣にいたクレアがツッコミを入れる。

エアコンは流石に無理だったが、モーターを使った扇風機は作った。

しかしここは戦場、そんな物持ってこれるはずがない。

そこで、兵士全員に帽子を渡したり、水筒を渡したりして、暑さ対策はしてある。

また、ハーンブルク軍の魔法式持ちの中に、氷を作れる者が数名いたので、重宝している。ちなみに、全員イレーナに持ってかれた。


「ではレオルド様、そろそろ合図をお願いします。」


「んじゃ始めるか。」


「距離およそ4000m、目標デルミアン要塞っ!砲撃よーい・・・・・・」


クレアが手を挙げると、兵士達はそれぞれ目標に照準を合わせた。


「『L-1』発射っ!」


「「「了解っ!!!」」」


けたたましい爆音とともに、20門の軽榴弾砲が火を噴いた。


______________________________



どうでもいい話


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