ss 脱出ゲーム②

「ほんと、良く再現されているなぁ~」


美しい街並みに心を躍らせながら、目的の人物がいるであろうスズラン地区を一直線に歩いて進んだ。まるで、自分の頭の中を歩いているような感覚になる。

最初のうちは、所々に見えるハーンブルク家の旗やシュヴェリーンの街並みを楽しんでいたが、目的地であるバビロン宮殿に近づくにつれて、だんだんと緊張が高まってきた。

途中、すごく美味しそうなイチゴ大福屋が目に留まったが、残念ながら一文無しの私は、それらをスルーした。


そしてついに、バビロン宮殿の目の前までやって来た。私の思った通りの、真っ白くて美しい宮殿が聳え立つ。

豪華な建物が建ち並ぶスズラン地区の中心に、一際目立っていた。


さて、この白き宮殿にどのようにして侵入するか。

バビロン宮殿内にはもちろん私の知り合いはいないわけで、普通は中に入る事ができない。無理やり入ろうとすれば、入れるかもしれないが、SHSに発見されれば、最悪殺されてしまう可能性だってある。

そして、宮殿に侵入する方法だが、私にはとっておきの考えがあった。


ここでしばらくの間、意味もなくふらふらしていれば・・・・・・


「おい、そこのお前、こんなところで何をしている。」


しばらくすると、私の予想通り背後から声をかけられた。振り向かなくても、声をかけてきた男が何者かわかった。

私は、とりあえず振り返らずにある男の名前を出した。


「シェリングさんと話がしたい。案内してくれませんか。」


「何処でその名を。」


「SHSメンバーなら、この意味がわかるでしょ?」


「わ、わかった。」


レオルドの結婚式当日、こんなに重要な日は警備がかなり厳重になっているはずだ。そして、結婚式が行われるバビロン宮殿の周辺でうろうろしていれば、必ずSHSメンバーから職質をされるとかんがえた。

そして、SHSのリーダー、シェリングの名前を知る者は少ない。彼の名前を出せば、最低でもSHSの幹部クラスと話ができるはずだ。


この世界の神である私なら、このぐらい余裕だ。


目の前の男に言われた通りに、後をついていく。


最初からバビロン宮殿内に入れてもらえるという事はもちろんなく、バビロン宮殿のすぐ近くにあるカフェに案内された。もちろんここはただのカフェ・・・・・・というわけではない。1階は若者に人気なカフェだが、上の階にはSHSの基地がある。

本部はバビロン宮殿内にあるが、ここも結構重要視されているところだ。


言われた通りに1階のテーブルで待っていると、一人の初老の男が目の前に座った。もちろん、私はそれが誰なのかすぐにわかった。


「リヒトさん・・・・・・」


「おや、私の名前をご存じでしたか。」


リヒトさんは、一緒にもって来ていた紅茶に口をつけながら言った。上品なしぐさでティーカップをテーブルへと戻す、次はこちらを見つめてきた。

私がシェリングの名前を出した事から、私の事を元SHSの一人と勘違いしていたようだが、リヒトさんの名前を出した事によって、私が何者であるか曖昧にさせた。そして、興味をひかせる。


「申し訳ございませんが、シェリング様は現在ある任務で動いております。ですので、私が対応させていただきます。」


「わかりました。では単刀直入に要件を伝えさせてください。私は、早急にレオルド様と面会を行う事をのぞんでいます。話したい内容を伝える事は出来ませんが、かなり重要な内容である事は保証します。」


まずはレオルドへと接触を試みる。目的の人はレオルドではないが、レオルドに近しい人だからだ。


「なるほど、レオルド様ですか・・・・・・ですが、今日は結婚式ですので、空いている時間は無いかと・・・・・・」


リヒトさんは私の事を、結婚式だからという理由を使ってやんわりと断った。もちろん想定済み、ここで引き下がってもいいが、会う事を優先する。


「5分ぐらいで終わる話なのですが、どうにかして会う事は出来ないですかね。」


「・・・・・・わかりました。そういうことなら、時間を作らせて頂きます。スピカっ。」


「はい。」


リヒトさんが、私の良く知る少女を呼ぶと、どこからともなく表れた彼女は、明るい声で返事をした。確か、パラス王国へエルフ共和国代表として交渉をしに行ったはずであったが、そういえばそろそろ到着するころだ。

少し驚いたが、スピカに案内されるなら悪くないと思った。


「この方を、バビロン宮殿の客室に案内して差し上げて下さい。」


「分かりました。」





私は、想定通りにバビロン宮殿に入る事が出来た。


「へ~それじゃサイさんは、すんごく遠い所から来たんですね~」


「うん、きっとスピカが想像できないぐらいね。」


案内された客室で、私とスピカは会話を楽しんだ。想像通りの可愛らしいエルフで、イメージ通りの優しい声であった。

さすが作者、わかっているな。

って、私が作者か。

ちなみに、私は本名である佐々木サイを名乗っていた。こうする事によって、登場人物に名前を呼んでもらえるのだ。流石KADOKAWAだな。


しばらく談笑していると、背後からノック音が聞こえた。どうやら、お目当ての人物がやって来たようだ。


「ここか、俺に会いたいってやつがいるのわ。ったく、こっちは結婚式直前なんだぞ。」


声だけで、私はそれが誰なのかわかった。


「レオルド・・・・・・」


「あぁそうだ。」


「レオルド~助けて~」


私は、感動のあまり彼に抱きついた。自分の作品のキャラと会話できるなんて神すぎる。


「この方はどなたですか?レオルド様」


「この声はっ!もしかしてヘレナ?うわ~ホンモノだ~」


声がした方を見ると、私の予想通りの少女がそこに立っていた。

やはり、彼女もイメージ通りの美少女であった。

私は感動して、彼女にも抱きついた。


「ちょ、ちょっと・・・・・・」


私が、ヘレナを堪能していると、後ろから更なる来訪者たちの声が聞こえた。


「ちょっと、何の騒ぎよ。」

「どうしたんですか?」

「どうしたの?」


私がうるさくし過ぎたからか、次々と私の部屋にヒロインたちが集まった。

まだ本編でも登場していないはずの彼女たちのウエディングドレス姿は、この上なく美しかった。



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どうでもいい話


もし万が一、私の作品に迷い込んでしまった場合は、このような方法をおとり下さい。多分何とかなります。

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