第1話 日常


「いけっ!そこだっ!」

「押せ押せっー!」

「シュートだっ!」


たった一つのボールを中心にして、選手たちはピッチの上を走り回る。これまで積み上げてきた己の全力を用いて、目の前の敵を倒すために。

サポーターの応援は選手の力となり、次の一歩を踏み出させた。

スタジアムは、興奮に包まれていた。


シュヴェリーンに本拠地を置くRSWのキャプテンマークを身に付けた選手が、ボールを前へ前へと進めた。ハーンブルク領サッカーリーグが始まってから今年で9年目を迎え、すっかり伝統となった超攻撃的なサッカーを展開する。

そして、あまりにも有名過ぎる魔女を警戒して、水色のユニホームを身にまとったエルフの少女が、彼女の行く手を阻んだ。9年が経過した今も、アンはチームのキャプテンとして活躍していた。


「行かせませんっ!」


「甘いわ。」


「嘘・・・・・・」


アンは、得意の素早い切り返しを披露しながら軽々と相手のMFを抜いていく。あまりにも鮮やかな動きに、観客から再び歓声が上がる。

彼女の鋭くて鮮やかな動きは、芸術的であった。

さらにもう1人相手選手を引きつけると、細かな縦方向へのパスで一気にボールを前へと運んだ。ライトブルーのユニホーム、MSWの選手達はそれぞれ必死の思いでボールを追いかける。

それに対して、RSWの選手達はスピーディーな動きで再び防御を築かれる前にボールをペナルティーエリア内に入れた。そして、運が良い事にこのタイミングで、ボールはアンの下へと戻って来た。


MSWのキーパーは、警戒心を高める。


「「「なっ!」」」


コンパクトなシュートフォームから、誰もがシュートだと確信した直後、彼女の足は想定とは違う角度で振り下ろされた。

得意の左足で蹴られたボールは、真横へと放たれた。

味方をも惑わすフェイントによって、ピッチの上の誰もが一拍送らされた、ただ1人を除いて・・・・・・


「ナイスですっ!アンさんっ!」


ほぼ逆サイドに走り込んで来ていたRSWの新たなエースが、そのボールを完璧に右足で捉えた。


「いっけぇぇぇっ!」


可愛らしい掛け声とともに、ガラ空きのゴールへの超強力なシュートが放たれた。緊張感が漂うスタジアムを、切り裂くようなシュートがゴールネットを揺らした。

MSW側の選手は、誰1人として反応できなかった。


「やったぁーーっ!」

「流石RSWのエースだっ!」

「きゃああああっ!」

「ミライちゃ〜んっ!」


RSWの新たなエース、ミライ・シアース。

彼女の同点ゴールは、スタジアム全体を沸かせた。

圧倒的な存在感と、ボールコントロール能力を持つ彼女は、プロ入り4年目にして歴代最多得点王に選ばれ、既に王者としての風格を見せ初めていた。


そんな彼女は、憧れの舞台でゴールを量産し、アンの相棒へと成長した。


「ナイスミライっ!」


「ありがとうございますっ!アンさんっ!」


悔しがるMSWの選手達に背を向けながら、2人の手と手がぶつかる。そして、パーンという乾いた音が、スタジアム全体に響いた。

二人とも、キラキラした笑顔でサポーターに向けて手を振った。サポーターも同様に、暖かい声援を送った。選手とサポーターが、一体となって喜んだ。

自然と、みんなが笑顔になった。





「相変わらず上手いわね、あの子。いったい何処から拾ってきたの?」


仕事終わり、同じサッカー好きのイレーナと共に、いつものようにハーンブルクスタジアムの特等席へとやって来た俺は、目の前で繰り広げられるRSWvsMSWの試合に熱中していた。

二人とも監督業を既に引退しているが、それぞれのチームのアドバイザー的な立ち位置に君臨しているので、いまでもある程度サッカーに絡んでいたりする。

最近の注目はやはり、今目の前でかっこいいゴールを決めた少女、ミライ・シアース

だ。彼女は、俺がたまたま見つけてきた選手の1人で、今ではRSWの11番のユニホームを着ている。


「シュヴェリーンの郊外に本拠地がある小さなサッカーチームに面白そうな子がいるって聞いて、ちょうど暇だったから行ってみたら彼女がいたって感じだな。他のチームに取られる可能性があったから即行で契約させた。」


俺は彼女のプレイを一目みて、あの子なら次世代のスターになると確信し、契約を即決した。あの飛び抜けた才能を、見逃す手はなかった。

元々は、ハーンブルク領シュヴェリーンに住む建築士の娘でしかなかった彼女だが、サッカースタジアムでアンのプレイに心を奪われた事をきっかけにジュニアチームに入団したらしい。そして6年後、俺のスカウトによってプロ入りを果たし、憧れの人と一緒にサッカーをプレイできるまでになった。

正直、ここまで伸びるとは思っていなかったが、彼女のサッカーにかける思いを考えれば、それも当然であったのかもしれない。


「確かに、今のこの強さをみれば私も納得だわ。あなたの行動によって最近では、各チームにスカウトマンが誕生したそうよ。」


「まぁ、俺からしたら、むしろ何故もっと早くスカウトするという選択肢を選ばなかったのか謎だけどな。プロになりたいという選手を待つだけじゃなくて、活躍して欲しい選手は自分から見つけないとな。」


政治だってそうだ、いい人材は自分で見つけるに限る。


【正確には、見つけたのは私ですけどね。】


何でもありません、いつもお世話になっております、アイさん。


【・・・・・・】


再びピッチへと視線を戻したイレーナは呟くように言った。


「ほんと、いったい何処を探したら、サッカーのスカウトマンをする領主がいるのよ。あなた、やっぱり人を見る目があるわね。」


「まぁ結婚相手にお前を選んだって時点で、人を見る目はあるつもりだぞ。」


「ふふふ、ありがと、レオルド」



俺たちは再び、サッカーへと視線を戻した。



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どうでもいい話


第二部『異世界に転生したので、とりあえずサッカー少女を育てます』をよろしくお願いします!





もちろん冗談です。タイトルの変更はありません。


P.S.アホがバカをやって、11月末に公開予定であった第2部第1話を公開してしまいました。とりあえず週一投稿で、ストックを溜めます。

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