第174話


『皆さん! 見てください! ゴルドさんが圧倒的な力で魔物たちを滅ぼしていきます! これなら、問題なく攻略できそうです!!』


 圧倒的だ。ゴルドはいくつもの魔力の玉を生み出しては、それを放ち続ける。

 まるで、人間がミサイルを連発しているかのような状態だな。


「すごいですね……」


 凛音が驚いたようにその光景を眺めている。

 確かに。ゴルドの魔法は、派手で羨ましい限りだ。

 俺なんて殴る蹴るだけだし。

 その時だった。


 物音に反応したと思われるカメラマンの一人がそちらへカメラを向ける。

 ……そこには、黒色のブレイドマンティスがいた。

 他の個体とは明らかに違う様子のそいつに、ゴルドももちろん気づいていた。

 ゴルドは冷静な様子で顎を撫で、分析したことを口にする。


『”結界の外にいる魔物ってことは……結界を破壊できるだけの力をもった魔物ってことか。もしかしたら、こいつがこの迷宮爆発の原因かもしれんな”』


 ゴルドがにやりと笑みを浮かべると、先ほどと同じように魔力の玉を生み出す。


『”悪いが、オレの世界ランキングの糧になってくれや”』


 ゴルドがそういって放った魔力の玉は、しかしかわされる。


『ほぉ、やるじゃないか――だが、オレは剣の扱いも世界最強で……』


 ゴルドがすかさず剣を抜いたが、次の瞬間にはゴルドの首が跳ね飛ばされた。

 そして、そこからはいくつもの悲鳴が聞こえ――生放送は中断となった。


「……」


 休憩室には重苦しい空気が流れていた。

 その沈黙を破ったのは、俺のスマホだった。

 皆の視線を受けながら、俺はスマホを取り出す。


 ……相手は、会長だ。

 このタイミングだとあまりいい話ではなさそうだよな。


「はいはい」

『……迅さん。少し確認したいことがあるのですが、今お時間よろしいでしょうか?』

「大丈夫ですよ」

『先程、レコール島の迷宮攻略に参加していたゴルドという冒険者が、攻略に失敗しました』

「そうですね。ちょうどテレビで見ていました」

『実を言いますと、日本にも応援要請がありました。というよりも、各国に応援要請があったのですが、ゴルドさんが一人で攻略するということでその話はそこで止まっていました』

「なるほど」

『……恐らくですが、ルーファウスさんは今も連絡がつかず、現在ヴァレリアンさんは入院中。……そうなれば必然的に、次に依頼されるのは迅さんになります』

「……そうですね」


 ヴァレリアンが完治していれば、【スターブレイド】の総勢が乗り込んでいたかもしれないが……今は色々と状況が悪い。

 その原因を作ったのも、俺なんだよな。


『事態が事態です。万が一日本に応援要請があった場合、迅さんは参加しますか?』


 近くにいた凛音が俺の方を不安そうに見ている。

 その中で、俺はゆっくりと頷いた。


「参加します」

『……危険な戦いになると思います。日本からは……はっきり言って迅さんとともに戦いに参加できるだけの冒険者は送り込めません。【バウンティハント】の戦力も……あまり期待できません。ほとんど孤軍奮闘になると思います……それでも、行きますか?』

「行きますよ。迷宮に好き勝手されるのは、嫌いなんで」

『……分かりました。万が一、応援要請があればすぐに情報を共有します』

「分かりました、お願いします」


 俺はそれだけを返してから、通話を切った。


「霧崎さん。レコール島に行くかもしれません」

「……本気ですか?」

「ええ、万が一があったら嫌ですから」

「ですが――」

「このままだと麻耶の視聴者が減っちゃいそうですしねー。そういうわけで、ちょっと体動かしてきます」


 霧崎さんも思うところがあるようで、また何か言われそうだったので俺は無理やり話を打ち切って、休憩室を後にした。

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