第156話


 一行が迷宮のボスモンスターとの戦闘を終え、外を目指し、来た道を戻っていった。

 一階層から外へと繋がる階段に彼女らが着いたところで、俺は迷宮の外へとシバシバの魔法で脱出した。


 ……良かった。何事もなく迷宮攻略は終わったな。


 それにしても、今日の麻耶の活躍は凄かったな。ボスモンスターにもまったく臆することなく立ち向かっていて、それはもう素晴らしい。


 立派に成長した彼女に涙しながら、俺は迷宮の外で彼女らを待っていると、ちょうど階段から佐藤さんが上がってくるところが見えた。


 それまで消していた気配や魔力を多少戻すと、こちらに皆が気づいた。

 【ブルーバリア】の人たちには時々会うことはあるが、今回のメンバーとは初対面だ。

 俺に気づいた人たちが、驚いたようにざわつきながらこちらを見ていた。


「あれ、お兄ちゃん? どうしたの?」


 笑顔とともに駆け寄ってきた麻耶に癒されつつ、言葉を返す。


「今日は【ブルーバリア】の人たちにお世話してもらったわけだし、ちゃんと挨拶したほうがいいと思ってな」

「あっ、そうなんだ。佐藤さん! お兄ちゃんです」


 麻耶に紹介されるままに、リーダーの佐藤さんの前に来た俺は頭を軽く下げた。


「どうも、鈴田迅です。佐藤さん、カワイイカワイイ麻耶を守ってくれてありがとうございました……」

「いえいえ。妹さん、めっちゃ強かったんでこっちがむしろ助けてもらいましたから。あっ、いつもうちのリーダーもお世話になってます」

「まあ、こっちも色々と助けてもらっているんで気にしないでください」


 シバシバに関しては時々頭のねじが飛んだ発言をされるが、それ以上に空間魔法を貸してもらって助けてもらっているからな。

 多少は大目に見るというものだ。


「無事迷宮攻略はできた、ってことでいいんですかね?」

「はい、大丈夫でしたよ」

「それは良かったです。ここまでありがとうございました。報告は佐藤さんの方から、で大丈夫ですよね?」

「ええ、任せてください」


 ……とりあえず、こっちの事務的作業はもうなさそうだ。

 そこで【ブルーバリア】の人たちとは別れ、俺は麻耶たちに向き合う。


「皆、無事迷宮攻略してこれたみたいだけど、怪我とかないか? 麻耶、大丈夫か? 疲れてないか?」


 特に心配なのは麻耶だ。

 一応ずっと見てはいたが、目でみえない疲労とかダメージはあるかもしれない。


「大丈夫だよ。ちょうどいい難易度で、用意してくれてありがとねお兄ちゃん」

「……ああっ」


 なんて笑顔が眩しいんだ。一瞬気を失いそうになっていると、有原が苦笑していた。


「いやいや、お兄さん。今回の迷宮攻略で一番足手まといだったのあーしだからね? 麻耶ちゃんはまったく問題なかったよ」


 有原が少し気にした様子で苦笑している。

 ……まあ、今日の戦闘を見ていればそういう気持ちになるのは仕方ないだろう。

 ただ、有原は有原で才能を持っている。彼女は放っておくと無茶な訓練をするので、きちんと釘はさしておくか。


「それなら良かった。まあ、有原はまだ本格的な訓練を初めて日が浅いからな。これから訓練の時間を増やしていくから、気にするな」

「お兄さん、マジ? もっと時間割いてくれるの?」

「ああ、まあ。仕事の邪魔にならないように時間の合間を縫っていくって感じでな」

「うし、マネージャーに相談してもっと時間作ってもらおっと」


 有原はひとまず笑顔を見せているので、大丈夫だろうか?

 あとは流花と凛音は……大丈夫そうだな。

 そんな風に二人へ視線を向けたときだった。

 ぐー、という可愛らしい音が響いた。


「………………凛音、腹の虫がなってる」

「凛音、何か食って帰るか?」

「わ、私じゃないですよ!? 流花さん! 流花さんのです!」


 凛音が顔を真っ赤に首を横に振りながら流花を指さす。

 流花をじーっと見ると、彼女は俺から目線を逸らすようにして赤くなった顔をそっぽに向けている。


「あっ、それじゃあ今日はお兄ちゃんの奢りで何か食べて帰ろっか!」

「いや、麻耶よ。なぜお兄ちゃんの奢りなんだ?」

「お兄ちゃん、ダメ?」

「いいぞ! 好きなものなんでも食って帰るぞ!」

「変わり身早すぎですよ……」


 凛音がぼそりと口を開くと、目を輝かせた流花がこちらを見てきた。


「好きなもの? なんでも?」

「やっぱり食べ放題にするぞっ。何か近くにあるか!?」

「あっ、それならあーし結構この辺来たことあるから、案内するよ」


 そういうわけで、俺たちは有原の案内で近くの店へと向かった。


―――――――――――

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