第157話






 色々と振込をする必要があり、俺と麻耶は銀行を目指して歩いていた。

 お互い仲良く気配を消しての移動だ。

 ……先日、協会がさらに圧力をかけたことで俺たちは自宅へと戻ることができるようになったのだが、それでも一般人の中では目立つほうだからな。


 銀行に到着した俺は番号札を発行して、しばらく待っていた。


「今日は平日だけど人多いね」

「……そうだな」


 夏休み、と関係があるものなのだろうか?

 といっても、銀行に学生がそんなに来るものなのかとか色々考えながら自分の番が来るのを待っていたときだった。


 ちょうど自動ドアが開くと何か、嫌な空気の男性三人がやってきた。

 入り口から入ってきた三人はまっすぐに銀行員のいるカウンターの方へと歩いていく。


 どうにも不気味な魔力を放っている。

 口元はマスクで隠れているが、その両眼は笑っているように見えた。

 いや別に普通の笑顔なら問題ないのだが……そいつらの笑みは、なんとも不気味なものだった。


 マスクをつけているのは、色々と感染症の関係もあるのかもしれないが、それでも……俺はなんとなく彼らが顔を隠すためにつけているのでは、と思ってしまった。


 ……それにしても、この魔力はなんだ?

 まるで魔物の持つ魔石から放つ魔力に似ている。

 だが、どうにも彼らが魔石を所持しているだけだとは思えなかった。

 ひとまず……何が起きてもいいように麻耶は避難させておくか。

 俺は財布から千円札を取り出し、麻耶に手渡す。


「麻耶、ちょっとコンビニで飲み物でも買ってきてくれないか?」

「分かったっ、行ってくるよ!」


 俺が答えると麻耶は笑顔とともに銀行の外へと出ていった。

 ちょうど彼ら三人組とすれ違うように外へと出たのだが、麻耶は気配を消していたのでほとんど見向きもされていなかった。


 ……そうなんだよな。別にこの三人は能力が高いわけではない。

 ただ、気になる魔力を持っている、それだけ。もしかして、これが恋?

 なんてふざけつつ、彼らを観察していると。

 

 怪しい三人組の内二人が……魔力を解放した。

 同時だった。先頭に立っていた男が懐から拳銃を取り出し、銀行員へと向けた。


「おい、静かにしろ! これは本物の拳銃だぞ!」

「え!?」


 銀行員が顔を真っ青にして叫びをあげる。同時に近くで話をしていた老婆が悲鳴をあげる。


「きゃああ!?」

「静かにしろ!! 動くんじゃねぇ! 魔法もぶっ放す準備できてんだぞ!」


 彼の言う通り、周囲に満ちている魔力から……相当な火力の火魔法を使うことは明白だ。


「今時銀行強盗、ねぇ」


 別に珍しくはないし、例えば冒険者という職業が出始めたときは治安がかなり悪化したものだ。

 冒険者の中で優秀なものが犯罪をした場合、抑えられるような人間がいなかったからだ。

 例えば、ヴァレリアンが暴れまわったらそれを止められる人間は数少ないだろう。


 そういうわけで、自分の実力に自信がある人間は好き勝手に暴れまわったものだ。

 本当に強い人間には重火器なんてものは通用しないからな……。


 それこそ、馬鹿が世界征服を企むようなこともあったが、まあ幸い能ある実力者は常識的な人間が多かった。


 多少の馬鹿を押さえ込んでくれる、ヒーロー的な存在もいたというわけだ。

 結果的に、世の中はすぐに安定しだし、今のような平和が守られている。


 それでも、このように魔法などを使って暴れまわることは少なくない。


 ただ、銀行強盗はあまり賢いやり方ではないだろう。

 銀行なんて通報するための非常スイッチが準備されているので、今頃はもう警察に連絡がいっていることだろう。

 第一、彼らはここにいるすべての人間を制圧するための計画性もない。


 警察だけで対応できないとなれば、冒険者協会から対応できる冒険者に連絡がいき、能力ある人間が派遣されてくるだろう。

 まあ、時間の問題ではある。この場にいる人たちの心境はともかくとして。


「おい! おまえら! 黙ってそこでじっとしてろ! 撃ちぬかれたくねぇならな!


 男が叫び、見せしめとばかりに拳銃を天井へ向けて発砲した。

 その銃弾は天井についていた照明をわり、再び悲鳴があがる。

 特に、三人の間近にいた老婆はパニックになってしまったようで、それが強盗団の癪に障ったようだ。


「うるせぇぞババア!」

「おい! そいつ黙らせろ! むかつくんだよ!」

「ひぃぃ!?」


 拳銃を持っていた男が苛立った様子で老婆に近づき、拳銃を持った腕を持ちあげる。

 老婆の胸倉を掴み上げた男をさすがに見逃すつもりはなかった。


―――――――――――

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