第158話
「さすがに、それは駄目だろ」
一瞬で距離を詰め、老婆に迫っていた男の腕を掴んだ。
何もしないなら、大人しくしてるつもりだったんだけどな。
どうせ時間が経てば警官が取り押さえてくれるだろうからな。
あくまで今は一般人として銀行に来ているので、あまり色々やると面倒なことになりかねないからな。
拳銃を持った男を殴り飛ばすと、すぐに別の男たちが反応する。
「てめぇ! 何するんだ!」
「殺されてーようだな!」
そう叫び、残りの二人が魔法を放出して老婆を狙おうとした。
……さすがに、警察を待つわけにはいかないか。
俺は、即座に近づいて二人の体を放り投げる。
この三人は精々Bランク冒険者程度だ。加減するのがなかなか大変だ。
魔法を使用する前に空中へと投げ出された彼らは、
「ぐべ!?」
「あべ!?」
間抜けな声とともに背中から落ちた。
残っていた一人が驚いた様子で俺を見てきたが、すぐに銃口がこちらへ向いた。
「ちっ! ざけやがって! 死ね!」
そういって拳銃を持っていた男が銃弾を放ってきた。
……避けると跳弾して危険だよな。
俺は銃弾を掴んで握りつぶした。
「……え?」
驚きと戸惑いの入り混じった声が響き、俺は苦笑を返した。
「まあ、運が悪かったってことだ」
一瞬で距離を詰めると、男はまったく反応することなく俺の拳を受け入れた。
顔面に拳を叩きこんでやると、白目を向いて倒れる。
そちらの対処をしていると、先ほど放り投げた二人が起き上がり、こちらに片手を向け、魔法を使用しようとしてきた。
「あ、あれ!?」
「魔法が発動しねぇ!?」
「さっき殴ったときに準備してた魔法は解除しておいたから使いたかったらもう一回練り上げる必要があるぞ?」
「……くそったれ!」
「まあ、麻耶の教育に悪いからもう一回準備する時間ないけどな!」
「ぐべ!?」
「あが!?」
二人の顔面を死なない程度に蹴り飛ばすと、ちょうど自動ドアが開き麻耶が駆け込んできた。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「おう、麻耶。オレンジジュースあったか?」
「なかったけど面白い味の新商品あったよ!」
笑顔とともに麻耶がビニール袋から一つのジュースを取り出した。
その緑を基調としたジュースは――
「……ピーマン、ジュース……?」
「そっ。お兄ちゃんあんまり野菜好きじゃないでしょ? これちゃんと野菜がとれるみたいだからね!」
「……」
俺は渡されたピーマンジュースに顔を顰めながら、それを頂くことにした。
銀行強盗を目論んだ彼らは、現在俺が魔力で拘束し、動けないようにしている。
そもそも、彼ら全員意識を失っているため、動くこともないと思うが。
無事解決したのだが……解決したらしたで周囲が落ち着きだすと、今度は俺たちに対しての注目が集まってくる。
「あれって……もしかしてお兄さんじゃないか?」
「……だ、だよな? やば、本物じゃん……」
「ってことは、隣にいる子が妹さんか?」
「マヤちゃん……可愛い……私の妹にしたい」
「……お兄様ぁ……」
周りの人たちの視線が俺たちに集まっていて、もう銀行を利用するとかそういう空気ではない。
このあと、恐らくは警察官も訪れ、色々と話を聞かれることになると思うのだが……それはさすがに面倒である。
ここは、Sランク冒険者の特権を使わせてもらおう。
俺はスマホを取り出し、会長へと連絡を取る。
数コール後、つながった。
『もしもし、迅さんからかけてくるとは珍しいですね』
「すみません、会長。ちょっと今銀行強盗が目の前にいたもので、こっちで勝手に処理しちゃったんですけど……」
俺の言葉に向こうではいくつかの声が聞こえてきた。
それから、苦笑したような声が返ってくる。
『……先ほど、こちらに銀行強盗があり、応援要請がありましたが……なるほど、そうでしたか』
「それで、俺も色々と用事があるのでこのまま帰りたいんですけど……詳細は後で協会から、ってことで処理することは可能ですか?」
『ええ、構いませんよ。犯人を警察官に引き渡したあとで、私から連絡します』
「ああ、そうですか。ちょうど今警察の方々が来られたみたいなんでこのまま電話渡しますね」
『分かりました』
警戒と困惑を織り交ぜたような表情で、警察官が中へと入ってくる。
完全に俺に対して警戒している様子だったが、俺は財布に入れていた冒険者カードを取り出し、彼らに見せた。
「俺はSランク冒険者の鈴田迅です。ちょうど目の前で銀行強盗が起きたんでとりあえず拘束しておきました。詳細は冒険者協会の会長から聞いてください」
俺はそう言って警察側の代表者と思われる人にスマホを渡した。
俺の名前やランクを聞き、多少は警戒心を解いた彼がスマホを耳に当て、事情を聞いていく。
いくつか驚きの声をあげながらちらちらと見てきたが、話自体はまとまったようだ。
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