第122話


 「え? うえ!?」と玲奈は叫びながら、とりあえず俺はそのあとを追う。

 あわてた様子で流花もついてきている。「その発想はなかった……!」と悔しそうに声をあげている。二度と流花のお願いは聞かないと決意しながら、復活した凛音もあせった様子でこちらを見ている。

 そうして俺の部屋へと到着したところで、流花がすんすんと鼻を動かしている。


「迅さんの部屋……」

「……男臭いか?」

「瓶につめて持って帰りたい」

「何をだ?」


 返事はない。流花は何やら深呼吸をしていて、凛音は再び顔を真っ赤にしてぶつぶつと「だ、だだだだ男性の部屋に入ってしまいました……っ」と言っている。

 ……またショートしそうだな。


「それじゃあはい。玲奈ちゃんを押し倒すようなイメージでね、はい玲奈ちゃんベッドで横になってね……!」

「ちょ、ちょっと麻耶ちゃん!?」

「はい、お兄ちゃん! そしたらその上に覆いかぶさるようにはい!」


 とりあえず、言われた通りにしてみると玲奈は顔を真っ赤にしていた。

 ……こいつ、普段あんだけあほな発言しているのに一丁前に恥ずかしがっているのか?

 そこでしばらく撮影をしていく。

 といっても、俺は体にそれほど触れるようなことはしない。相手は未成年だからな。

 なので今の俺は玲奈を下にして腕立て伏せでもしているような気分である。足腰にも力を入れて支えているので、結構大変だ。


 そうして麻耶とともに撮影をしていった結果、


「……」


 玲奈は顔を真っ赤にしておとなしくなっていた。

 ……まあ、初めてあったころの玲奈はこんな感じだったからな。それが気づかぬうちに今の暴走玲奈になってしまったんだし、元はこういう性格なんだろう。


「それじゃあ最後はお兄ちゃんと私だね! ていうか、私はみんなと一緒に記念撮影したかったから、ほらこっちきて!」


 くいくい、と麻耶が手招きをして俺たちを並べようとしたときだった。

 再びドアチャイムが家に響いた。


「あれ? 誰だろう?」


 俺も心当たりがなかったので、麻耶とともに見に行くと、そこには有原がいた。


「ど、泥棒猫!」

「な、なんでここにミヤミヤが来てるの?」


 流花が叫び、じっと俺の方を玲奈が見てくる。

 ……インターホンのモニターに映っているのは、帽子などを被って少し顔が判然としないが間違いなく有原だ。


「前に撮影したときに今度訓練してほしいって言われてな。都合のつくときにでも家に来れば指導するって言って住所は教えてたんだけど……」


 なんというか、タイミングが悪い。

 それになぜ俺は三人からこう、浮気でもしていたかのような鋭い目線を向けられなければならないのだろうか?

 とりあえず外は暑いのでそのままにしておくのも悪いので、玄関へと向かう。

 

「ああ、いきなりでごめん。今日ちょうど暇ができたから来たんだけど……なんだか大人数でどうしたの? パーティー?」

「パーティー、じゃなくてな。ちょっとまあ色々とあってな」


 有原は俺たちがぞろぞろと全員で出迎えたため、少し驚いた様子だ。


「ミヤミヤ? 泥棒猫はダメだよ!」

「ちょ、その呼び方すんなし……玲奈どうしたの? 泥棒猫?」

「この前の撮影! なんか凄い笑顔だったじゃん! あたしのダーリンと何かあったの!?」

「………………ふーん」


 有原は俺を見てから、それからほかの人たちに視線を向ける。

 その何かを察知した様子で笑みを浮かべる姿に、俺は嫌な感覚を覚える。


「ね、迅さん」

「……迅さん? いきなりどうした?」

「あっ、ごめんね。お兄さん、さすがお兄さんは隠すのうまいね?」

「んあ?」

「ごめんね。私とそういう関係だってこと、隠さないとっしょ?」


 あはは、と有原さんは笑いながら靴を脱ぐ。


「ダーリン!?」

「迅さん? どういうこと?」

「……どういうことですか?」

「おっ、私にもついにお義姉ちゃんが?」


 麻耶が楽しそうに目を輝かせているが、残りの三人は怖い。

 ……有原め。からかいにきてやがるな?


「別に、俺と有原には何もないぞ?」

「ほんと?」


 じろりと流花の視線が有原に向くと、彼女は帽子を取りながら笑顔を浮かべた。


「あはは、まーね。それで改めて聞くけどこんなに集まってどうしたの?」

「撮影の練習だ。この前。こいつらもいつかそういう相手が」

「……ふーん、なるほどね。そういえば、この前も途中から表情が柔らかくなったけど、何かコツ掴んだ感じ?」

「ああ。目の前の人に麻耶の顔をこう当てはめればいつも通りの表情になるんだよ」


 俺がそういって笑顔を向けると、有原は不服そうに頬をひくつかた。


「………………は?」

「どうした?」

「いや、まあ……確かに一理あるよ? あーしも人前に立つときとかは、じゃがもだと思うようにしてるし『鉄仮面の英雄』でも、あーしを置き換えるとか……ちょっと信じられないんだけど」


 なぜかさっきまでご機嫌だった有原の表情までも険しくなる。


「急に味方が消えるのなんなの? バグなの?」

「今度はちゃんとあーしを見て撮影に望んでもらわないとだね」

「今度あるのか?」

「またあるっしょ。今度はあーしが指名してやるし」


 そのときだった。スマホのシャッター音が響いた。

 見ると麻耶が自撮りするようにして、撮影していた。その写真を見てか、とても満足そうである


「今の日常って感じで……うん、よかったよかった。あっ、みんなは続けてていいよ!」


 麻耶はスマホを確認しながら一人撮影をしていく。

 

 俺は四人からじろっとした視線を向けられているんだけど、お兄ちゃんを助けてはくれないのか!?

 満足そうに麻耶はその様子を撮影しているだけだった……。



―――――――――――

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