第121話



「はい、それじゃあお兄ちゃんと凛音ちゃん。カップルのつもりでくっついてねー」


 麻耶がそう言うと、凛音が目を見開いた。


「かかかかかかかかっ!?」

「タンでもだすのか?」

「出しませんよ! カップルだなんて……カップルだなんて……っ」


 凛音は顔を真っ赤にして、それから俺の手をちょこんと掴んできた。

 カメラマンの麻耶はどうやら不満らしく、眉間を寄せてわざとらしく威圧してくる。


「凛音ちゃん? もっとこう積極的にくっついていかないとダメじゃない?」

「い、い、いえ……っ! これで大丈夫ですから……っ」

「こっちもお金出して撮影しに来てもらってるんだよ? クライアントの頼みも聞けないのかな?」

「何の話ですか! もう、これ以上は無理ですよ……っ」


 真っ赤な顔で叫ぶ凛音に、麻耶はむーっと頬を膨らませる。

 流花と玲奈は別の意味でなんだかむくれた顔をしているのであるが、今は落ち着いている。

 今日は暑いので、撮影は室内で行っているのだが、凛音はそれにしても先ほどからまったく動きがない。


「もう、凛音ちゃんは……お兄ちゃん。こうなったらお兄ちゃんが凛音ちゃんを先導してあげて!」


 麻耶からの頼みなのでもちろん叶えたいところである。

 ……といってもな。

 俺はこの前の撮影で有原にされるがままだったからな。

 今の想定はカップルで散歩をしている、というものだ。うーん……。

 とりあえず、手をちゃんと繋ぐところからだな。


 俺がぎゅっと握った瞬間、凛音がびくんっと体をはねさせた。


「撮影の練習やめるか?」

「だ、大丈夫ですっ。つ、続けます……か……ら!」


 顔を真っ赤に、そんな辱めでも受けているかのような反応をされると非常に悪いことしている気分になるんだけど?

 そんなこんなで撮影を続けていった結果――。


「………………」


 凛音は完全にショートした。

 顔を真っ赤にソファで放心状態である。

 それを冷やすように玲奈がうちわで仰いでいる。


「もう、凛音ちゃんはダメだなぁ」

「次は私の番」


 流花はそれはもう楽しみだといった表情でこちらを見てくる。


「私はいろいろとシチュエーションを考えてきたから」

「え、待って? ダーリンとの撮影ってさっき決まったんだよね?」

「普段から妄想してたから、準備はできてる」


 ぐっと親指を立てる流花。……親指を立てるようなことか?

 そういった流花が取り出したのは一冊のノートである。

 こちらに差し出してきたそれには、絵つきで俺にしてほしいリクエストがびっしりと書かれていた。

 それを一緒に眺めていた麻耶と玲奈だったが、玲奈がぽつりとつぶやいた。


「なんか流花ちゃんのシチュエーションって少女漫画とかでよく見るシーンばっかりじゃない?」

「私の参考にできる知識はそれしかない。何か?」

「ううん、別に構わないよ! とりあえず壁ドンからだね! ダーリン、壁ドンって壁破壊することじゃないからね?」

「んなこと分かってるっての」


 俺だって暇なときに漫画とかは読むため、そのくらいの知識は持っている

 流花に引っ張られるまま、構図の説明を受け、それから流花に壁ドンをする。

 じっと流花を少し見下ろすような立場になり、彼女と目があったときだった。


「……ああっ」


 流花が恍惚とした表情を浮かべている。……あれ? 流花ってこんな感じの子だったっけ?

 一瞬脳裏にシバシバがよぎったんだけど?

 それからも、顎くいっをして、とか、お姫様抱っこして、とか……流花の色々なお願いを受けていった結果。


「ふう……」


 流花は非常に満足げな表情でソファに座っていた。その隣ではいまだ復帰できずにいる凛音の姿があり、二人の様子はまるで正反対だ。


「……とりあえず、これで半分終わりだな。次は玲奈だな?」

「いよいよだねダーリン! あたしからは初夜の撮影を――」

「おい、麻耶の前で何言ってやがるんだ!」

「あっ、ごめん……初めてはもう終わったもんね!」

「変なこというんじゃない」

「初夜の撮影だね。それじゃあお兄ちゃんの部屋にいこっか!」

「麻耶!?」

「麻耶ちゃん!?」


 麻耶になんてことを言わせやがる!

 俺が叫んだ瞬間、しかし玲奈もあわてた様子で叫ぶ。


「レッツゴー!」


 そんな遊園地にでも遊びに行くようなテンションで叫び、麻耶が玲奈の背中を押していく。




―――――――――――

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