第120話



 というか、なんだか流花の様子もおかしくなってないか?

 あまり彼女に深く話をするのは本能が危険と察知した。冒険者として鍛えた勘を信じ、俺はそこには触れないでおく。


「それで? ここに何しに来たんだ?」

「ダーリン。あたしたち、撮影会の訓練に来たんだよ」

「撮影会の……訓練?」


 意味が分からん。おおよそその二つの単語が結びつく要素はないように思うが。


「そう。この雑誌を見て、私たちも撮影の練習をしたほうがいいと思った」

「……なるほど?」


 流花の言葉に、少しだけだが理解してくる。

 俺も有原さんとの撮影には最初は苦戦したものだ。表情とか、普段のものでお願いしますと言われても普段自分の表情なんて意識しないからな。

 途中からは、麻耶のことを考えながら撮影に臨んだことでどうにかなったが。


「そうですね。やっぱりその撮影とかって大変そうじゃないですか? ですので、事前に体験しておこうかという話をしたんです」

「なるほどな。でも別にうちじゃなくてもよくないか?」

「モデルが必要じゃないですか」

「モデル?」


 凛音の言葉に首を傾げると、「ん」と三人が俺を指さす。

 ……マジで?


「えぇ……俺今忙しいんだけど」

「その服着てる感じ、忙しくなさそうだけど?」


 麻耶LOVEと書かれた俺のシャツを指さす玲奈。


「いやいや。麻耶の配信を見るのに忙しくてな? おまえらこそ忙しくないのか? 今日は休みだし配信日和だろ?」


 世の中の多くの企業は土日休みが多いため、やはり土日の配信のほうが視聴者数は増えるというもの。

 人によっては朝から晩まで配信していることもあるため、こんなところに三人で来るというのは珍しいのだ。


「大丈夫大丈夫。もうすぐ夏休みだからそれからは配信増えるしね」

「……なるほどな」


 といっても視聴者の半分近くはいるであろう社会人には夏休みはないと思うが。

 どうにかして断ろうと考えていると、麻耶が乾麺を運んできた。


「とりあえずお昼食べる?」

「「「「食べる(食べます)」」」」


 そういうわけで、俺たちは昼食を食べていった。




 途中麻耶と交代して俺が大量の乾麺をゆでつつ、午後を迎える。


「それじゃあ、お昼も食べたし今日はそろそろ解散かな?」

「これからだから」


 じっと流花がにらみつけてくる。……あれ、流花ってこんなに怖かったっけ?

 そんなことを考えながらソファに腰掛けると、玲奈が声を上げた。


「それじゃあ、撮影会するかどうか。多数決するよ、手上げて」

「そりゃあおまえらが団結したら負けるってのっ! 麻耶! ヘルプミー!」

「じゃあ、面白いし私も」

「ぬおっ。お兄ちゃんを追いこむのか!」

「ふっふっふっ、たまには鈍感お兄ちゃんを追い込まないとね」

「企んでる麻耶可愛い!」

「え? そう? ありがとう」

「まったく二人とも。それじゃあこれから撮影の練習をするけど、まずは誰からにする?」

「それじゃあ、もちろん正妻のあたしからだね!」

「……は?」


 流花が冷たい声を放ち、凛音もそこに声をあげる。


「いえ、ちょっと待ってください。ここは公平にジャンケンなどで決めませんか?」

「うん、それが正しい。正妻の座は譲らないから」


 凛音、流花の言葉に玲奈はどこか余裕ありげな表情である。


「ふっふっふっ、勝った人が正妻ってことだね!」

「それじゃあ、負けないよー!」


 ぐるぐると腕を回しながらちゃっかり参戦しているのは麻耶だ。

 ……麻耶はともかくとしてだ。

 なんだか流花と凛音の様子もおかしいな。


 まるで玲奈のような雰囲気が感じられる。

 ……まさか、玲奈ウイルスに感染でもしたのだろうか?

 そんなことを考えながらじゃんけんをした結果。


「い、一番手……ですか」


 どこか緊張した様子の凛音が勝利したチョキの手を眺めている。


 ちらちらと俺の方を見ては頬を赤らめているのだが、恥ずかしいのなら最初からやらなければいいのにと思ってしまう。

 本人はここまでノリでついてきたのかもしれない。


「私、二番手……」


 流花は悔しそうに唇をつんと前に出している。

 一番落ち込んでいるのは玲奈である。


「うへぇ……あたし、三番かぁ」

「私は四番だね。それじゃあ、私がカメラマンやろっかなっ。練習だしスマホでいいよね?」


 麻耶がそういうと、凛音に一歩近づいた。


「は、はい大丈夫です」

「それじゃあ凛音ちゃん、スマホ貸してもらってもいい?」

「え? わ、私の使うんですか?」

「そのほうが色々いいでしょ?」


 麻耶がかわいらしくウインクする。何が色々いいのか分からないが、麻耶が可愛いので深くは考えない。

 そんなこんなで俺と凛音の二人での撮影会を開始する。


―――――――――――

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