第119話
休日。
俺は麻耶グッズを両手に持ち、自作の麻耶LOVEの服を着て、麻耶の配信を振り返っていた。
のだが、急にチャイムが鳴った。
今とてもいいところなのだが、一体なんだ? 宅配などはなかったと思うが……。
とてもとても忙しいのだが、
「お兄ちゃん。今出られる?」
「ああ、もちろんだ」
キッチンのほうで料理をしていた麻耶のお願いとあれば、例え麻耶の配信を見ているときだとしても行かないわけにはいかない。
俺がインターホンのモニターをちらと見てみると、そこには見慣れた三人がいた。
流花、凛音、玲奈。
なんだろう、あまり良い予感がしない。
俺の勘は当たるほうなのだが、どうしようか。
居留守するか?
でも、麻耶に会いにきたのだろうか? だとしたら無視するわけにもいかない。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「いや、流花、凛音、玲奈の三人が来ているみたいなんだけど、麻耶は約束してたのか?」
「ううん、してないよ? まあでも玲奈ちゃんはよく遊びに来るし、それについてきたとかじゃないかな?」
「そうか?」
まあ、何事もなければいいのだが。
別にこちらとしては家で自由にしてもらう分には構いはしない。
そう思いながら俺は玄関へといき、扉を開ける。
むわっとした熱気が玄関から伝わる。
……最近、本当に暑くなってきたよな。
流花たちも暑さは感じているようで、皆僅かに汗をかいているのが分かった。
「どうしたんだ急に? 麻耶に用事か?」
「今日はダーリンに用事だよ!」
「俺か? なんだ冒険者関連か? とりあえず、玄関開けたままは暑いから中入るか?」
「とりあえずはいるよっ」
この三人に共通している事は冒険者と麻耶くらいだ。
いきなり来られるとこちらとしても準備も何もしていない。
麻耶応援モードの格好であるが、三人は特にそれには触れることないのは幸いだ。
「ふはー涼しい……」
「今日は……本当暑い」
「……そうですねぇ。夏到来、って感じですよね」
うちの冷房を堪能するように三人が玄関で靴を脱ぎ始める。
リビングに三人を案内すると、キッチンの方を見て玲奈が鼻を動かした。
「おお、麻耶ちゃん今料理中?」
「うん、今日は暑いから色々乾麺ゆでてるところだけど、食べてく?」
彼女らとともにリビングに入ると、しばらく麻耶と挨拶をかわしている。
麻耶は鍋に入った乾麺をほぐしながら、こくんと首を傾ける。
「もちろん!」
「それでいきなり三人ともどうしたんだよ?」
まさか昼を食べに来たわけではないだろう。
俺がソファに座って問いかけると、向かい側のソファに座った玲奈たちがばっと雑誌を向けてきた。
「あたしたちはこの前発売したこの雑誌を見て、ダーリンに会いに来たってわけ!」
麻耶が取り出したのはこの前、俺が有原と撮影した雑誌だ。
なんでそんなものを持ち歩いているんだ。
「あっ、お兄ちゃんのだ。いい感じでしょ?」
ふふん、と麻耶が胸を張る。
「それはそうなんだけどね……っ。ダーリン! 浮気は良くないよ!」
「またそれか」
「酷い! あの夜のことは忘れたの!?」
「……お兄さん、どういうこと?」
「何もないぞ流花。玲奈の発言で俺に関することは九割九分嘘だからな?」
流花からぎろりと睨まれ、困惑するがすぐに理解する。
……まあ彼女からすれば大事な友人が歳の離れた男に何かされたと思ったのだろう。
身の潔白を証明すると、流花はほっとした様子で息を吐いた。
友達想いの子だ。
「良かった。お兄さんに何もなくて」
「俺に?」
玲奈ではなく?
「うん。……でも、本当にお兄さん最近変な人に絡まれてるし、大変じゃない?」
「ああ、大変だ」
「私の家なら完璧な防音室があるけど、どう? 数日泊まる?」
「防音室か」
配信とかのためだろうか?
「うん、その昔、お母さんがお父さんを泊めたことがある。地下にあるんだけど、鎖とか手錠とかあって、壁は防音で外には絶対声が漏れないから。とても安全」
ふっふっふっと怪しい笑顔を浮かべる流花。
……それは安全なのか? 別の問題もありそうだが?
聞かなかったことにしよう。基本的におかしな発言は触れないに限る。これ、玲奈で学んだこと。
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