第118話


 今は警備をしてくれている人たちが押さえてくれているが、ここで解散となると困るな。

 一度逃げるように迷宮へと戻ると、有原は苦笑する。


「まあ、撮影のあとはだいたいこんな感じ。諦めるしかないね」

「いや、俺は別の方法で帰るわ」

「別の方法? あっ、もしかして空間魔法で移動するやつ?」

「そうそれ」


 俺の配信を見たことがあるといっていただけあり、有原さんの反応は早い。


「それなら、あーしたちも一緒に移動していい? でも、もしかして大人数は無理な感じ?」

「別に魔力のストックはまだあるから、場所を指定してくれればそこに繋げるけど」

「え、マジで? マネージャー、どこ行く? ハワイ?」

「パスポートを持っていませんよ、美也」


 問題はそこではないだろう。


「そうですね。私たちは車で来ていますので、最初に撮影した公園に移動できればいいですが」

「それなら、簡単ですよ」


 マネージャーにそう答えながら俺はすぐに空間魔法を発動し、公園へと繋がる穴を作った。

 これもシバシバのおかげだな。

 少し手でこじ開けてから、二人がその穴をくぐり、ひょこりと有原が顔をのぞかせる。


「マジで公園繋がってる! あんがと! シバシバ、だっけ? シバシバさんにもお礼言っといて!」

「了解。気を付けて帰れよ」

「ん、あんがと! それじゃあまたっ」


 有原さんは手を振って穴の奥へと消えていった。

 そこで穴を閉じたところで、俺は霧崎さんに視線を向ける。


「それじゃあ、俺たちも『リトルガーデン』の事務所に戻りましょうか」

「はい。ありがとうございます。本当に今日はお疲れさまでした」

「いえいえ。マヤチャンネルがどれだけ増えるか楽しみです!」

「はあ、そうですか……」


 そんなやり取りの後、俺たちは『リトルガーデン』へと帰還した。



 迷宮配信者事務所「リトルガーデン」について語るスレ298


 541:名無しの冒険者

 お兄様の雑誌発売したな


 542:名無しの冒険者

 おい! なんだよこの雑誌はよぉ!


 543:名無しの冒険者

 マジで凄いな


 544:名無しの冒険者

 ていうか、このソルジャースケルトンとの戦闘シーンとか……動画で見てみたいよな


 545:名無しの冒険者

 映りめっちゃいいなー躍動感半端ない


 546:名無しの冒険者

 最後のページ草

 何お兄さんスケルトンを無理やり押さえつけて一緒にピース撮ってんだよw


 547:名無しの冒険者

 マジでお兄さんにしか取れない写真だなw


 548:名無しの冒険者

 このモデルの子初めてみたけど、滅茶苦茶カワイイな……


 549:名無しの冒険者

 普通にお兄ちゃんが羨ましいんだけど


 550:名無しの冒険者

 お兄様に近づいたこの女


 551:名無しの冒険者

 お兄様、近づく女許さない


 552:名無しの冒険者

 なんかバーサーカーみたいなやつらでてきてんなw





 『リトルガーデン』の事務所の会議室。

 事前に申請しておけば誰でも利用可能なこの場所には、現在三名の女性が集まっていた。

 流花、凛音、玲奈だ。

 真剣な面持ちとともに、玲奈が一枚の雑誌を取り出した。


「皆、これはもう見た?」


 玲奈が取り出したのは、先日撮影した迅が載っている雑誌だ。

 基本はファッション雑誌なのだが、イレギュラーが発生したこともあり、それに関しての紹介も多く載っていた。

 玲奈の言葉に合わせ、流花と凛音も雑誌を取り出す。


「見た。麻耶ちゃんが配ってたから」

「さすが兄妹ですよね……布教活動、どちらも凄いです」

「噂によれば、学校でも配っていたとか……」

「それは別にいいんだけど、この一緒に映っているミヤミヤのことは知ってる!?」


 玲奈が指し示したのは、迅と美也が腕を組んで微笑みながら歩いている場面だ。

 それを見た流花と凛音の表情が張り付く。特に流花に至っては、じっとりと恨みを込めるかのような目つきだ。


「有原美也さん。大学生モデルの人で今年21になる人、とは」

「そうなんだけどね、ミヤミヤって普段もっとクールな表情が多いんだよ! こんなに満面の笑顔なんてありえないんだよ!」

「そ、そうなのですか? ていうか、玲奈さんは有原さんのこと知っているんですか?」

「あたしが以前別の冒険者の撮影を手伝ったときに、知り合いだったらしくて紹介してもらったんだよ!」

「玲奈さんって交友関係広いですよね」

「玲奈、活動的だから……」

「まあね。というわけでね……ミヤミヤ普段はもっと落ち着いてるというか、ちょっとこう一匹狼的な孤高な感じなんだけど……なぜかダーリンとは満面の笑顔で映ってるんだよ!」

「……そういうシーンをお願いされたからじゃない?」

「じゃあ、これはどう!?」


 そういって玲奈は鞄から別の雑誌を取り出した。

 そこにも美也と別の男性が映っていたのだが、どれもどこか仏頂面や作り笑いが多かった。

 流花も凛音も、素人目で見比べて分かるほどなので、玲奈の言いたいことも分かってきていた。


「機嫌が良かったとかではないでしょうか? 撮影前に購入したアイスが当たりだったとか……私も先日当たって交換しにいったんですよ!」

「それで喜ぶのは凛音くらいだよ!」

「……そんなぁ」

「……単純に、お兄さんのファンとかじゃない?」

「いや、違うって」


 玲奈がLUINEのトークで美也に聞いている様子を見せる。

 『なんか雑誌の映りいいけどどうしたの? もしかしてダーリンのファンだったとか?』、『そうじゃないけど、楽しかったよ』、と。

 その辺りの事前調査はぬかりない。Sランク冒険者だから。


「おかしいんだよねぇ。ミヤミヤって結構冒険者に対して負けず嫌い発動するんだけど、普通に懐いているみたいなんだよねぇ。これは由々しき事態だよっ。警戒する人増えちゃったかもだよ!」

「で、でもまあ……有原さんも若いから、お兄さんの対象外、のはず。……それよりも、この写真が………………妬ましい」

「る、流花さん! あんまり力込めると雑誌が破けてしまいますよ」

「その時は凛音のをもらうから。あっ、でも凛音は有原さんの顔だけ自分のに差し替えてるんだっけ」

「見たんですか!?」


 凛音が顔を真っ赤に叫ぶと、流花と玲奈は顔を見合わせ一歩下がる。


「……見てないけど、もしかしてしてるの?」

「し、ししししてないです! していませんから!」

「「……えぇ」」

「ちょ、ちょっとドン引きしないでください! いいじゃないですか別に!」


 顔を真っ赤に叫ぶ凛音だったが、玲奈は顎に手を当てて冷静に考える。


「でも、ちょっと待ってね? 今ダーリンの腕はミヤミヤの温もりに汚染されてるんだよね? それを浄化しにいかないと……っ」

「……浄化、というか。でも、撮影の練習を口実にすれば……色々といけるかも……」

「あ、あのぉ……お二人ともあまりお兄さんの迷惑になるようなことはしないほうがいいと思いますけど」


 凛音が控えめに止めようとするが、すでに流花と玲奈の考えは同じだ。


「迷惑じゃないよ! あたしのダーリンなんだから!」

「玲奈、それは違うから頼んでも断られる。撮影の練習といえば、お兄さんも引き受けてくれるはず」

「なるほど! それで理想のシーンを撮影して、Twotterとかにあげて匂わせればいいんだね!?」

「それは匂わせじゃないですっ、直球です!」


 凛音が必死に叫ぶが、すでに流花と玲奈は席を立っていた。


「というわけで善は急げだよ!」

「急ごう」

「……善、なのでしょうか……? でも、まあ……私も一緒に撮れるなら――」


 凛音はぶつぶつと呟きながら、結局二人を止めることなくついていった。



―――――――――――

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