第117話


「さっきのソルジャースケルトンの連続攻撃の途中、焦って身体強化の出力を上げたよな?」

「……あー、まーね。失敗しちゃったけどさ」


 悔しそうに彼女は唇をつんと突き出す。


「そうだな。ただ、魔力の引き出し方は美味かった。さっきの身体強化は……こんな感じにして維持すれば問題ない」


 俺は有原さんの手を握り、正しい身体強化を体験させる。そして、有原さんから一度手を離し、今度は自分で使用してもらう。


「……こんな感じ?」

「ああそうだ。そのまま出力をあげていって、そこだ。それを維持して戦ってみよう」

「りょ」

「んじゃソルジャースケルトン。ほら、頑張れ」


 体を起こしてやって、転がっていた剣も握らせてやる。

 ……ソルジャースケルトンが俺を見て何やら震えているように見えるが、気のせいだろう。

 ソルジャースケルトンにも頑張ってもらう必要があるため、鼓舞するように背中を叩いてから再び二人の戦いを見守る。


「が、ガアアア!」


 ソルジャースケルトンが必死な様子で有原に剣を振り下ろす。

 有原は先ほど教えた身体強化とともに、ソルジャースケルトンの攻撃を受けとめた。


「……よっし。ほら、かかってきな」


 有原がソルジャースケルトンの剣に合わせ、打ち合う。

 お互いの剣戟は続き、先に攻撃をあてたのは有原だ。

 ソルジャースケルトンの連撃を上回り、相手の防御を崩してみせた。


「やった……って、うわ!?」

「ガアアア!」


 ソルジャースケルトンは体勢を崩しながらも有原に剣を振りぬいた。

 その一撃は喜びで油断していた有原さんに当たりそうになったが、もちろん俺が間に割って入る。

 腕で受けるとガキンっ! という音とともにソルジャースケルトンの剣が砕けた。


「油断したな?」

「……しちゃった。Dランクの魔物にあそこまで攻められたの始めてだったもんで、ちょっと攻めすぎちゃったかも」

「まあ、次からは気をつけような。まだやるか?」

「うーん、今日はもういいかな? 師匠の力も見てみたいんだけど?」


 といってもな。

 体勢を戻したソルジャースケルトンがこちらへ迫ってくる。

 どうやって仕留めたらいいか……。

 色々と考えながら、俺は全身に力を籠め、拳を振りぬいた。


 ソルジャースケルトンの頬骨に拳は当たり、その体を衝撃が吹き飛ばす。

 ソルジャースケルトンが吹き飛んだ道は、荒れていた。

 全力を込めた一撃はまるで嵐が吹き抜けたあとのような痕跡を迷宮に残していた。


「……今のって魔法?」

「有原の風の魔力を少し借りたパンチだな。有原さんも鍛えてけばこのくらいいくかもな」

「……マジ?」

「やる気次第だ」


 俺が答えると有原は修復が始まった迷宮を見て、目を輝かせ、これでこの迷宮での撮影は終わりとなった。




「い、いやああ! 最後のソルジャースケルトンとの戦闘が一番良かったよ!」

「あんな感じで有原さんを守るシーンが欲しかったんだ、本当に良かった良かった!」


 ……スタッフの人たちからそんな話をされ、少し不満げに頬を膨らませている有原に苦笑しつつ、俺たちは迷宮の外へ向かって歩いていく。

 もうすでにここでの用事は終わり、あとは迷宮から出るだけだ。

 スタッフの列についていくように歩いていると、肘をつ疲れる。


「お兄さん、連絡先交換してもいい? また今度指導してほしいんだけど」

「ああ、別にいいぞ」


 どうせこっちはいくらでも時間は余っている。指導なんていつでも問題ない。

 気軽な気持ちとともにLUINEを交換すると、有原は笑顔とともに首を傾げてくる。


「お兄さんって黒竜の迷宮近くに住んでんだよね?」

「ああ」

「あーしも駅前のビルに住んでてかなり近いから、またよろしくね」

「ああ、だいたい暇してるからそっちの都合がつくときにでも連絡くれ」

「ほんと? やった」


 スマホをもって嬉しそうに笑う有原とともに迷宮の外へと出ると、


「おお、出てきた!」

「やっぱりここで撮影してたんだな!」

「お兄様! こっち見てー!」

「美也ちゃーん!」


 ……外には凄まじい人だかりができていた。

 どうやら、俺たちが移動したのに合わせ皆もついてきたようだ。

 これは帰るのに一苦労しそうである。




―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


『楽しかった!』 『続きが気になる!』という方は【☆☆☆】や【ブクマ】をしていただけると嬉しいです!


ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る