第123話
迷宮配信者事務所「リトルガーデン」について語るスレ323
111:名無しの冒険者
テレビ見たか?
112:名無しの冒険者
……お兄ちゃんのスカウトにアメリカのトップギルドが来日って
113:名無しの冒険者
マジかよ……
114:名無しの冒険者
お兄ちゃんスカウト受けたあとも残ってくれるのかね?
115:名無しの冒険者
せめて、配信だけは続けてほしいわ
116:名無しの冒険者
アメリカのトップギルドだろ? 普通行くよな
117:名無しの冒険者
……まあな
多くの冒険者にとって憧れだよな
118:名無しの冒険者
お兄さんにとっては憧れとかはないだろうけど、それでも生活費とか含めて安定するしなぁ
119:名無しの冒険者
でもたぶん移籍するとなると、アメリカに移動だろ?
冒険者協会の会議室、
……その会議室には数名の男性が向かい合うように座っていた。
一人は会長。そして、その向かい側には――。
「……わざわざ【スターブレイド】のサブリーダーであるジェンスさんが来られるとはいかがされましたか?」
【スターブレイド】。
アメリカ最大のギルドであり、その規模、能力は世界でもトップだった。
現在、『スターブレイド』には三名のサブリーダーがいるのだが、そのうちの二名は災害級の力を持ち、ジェンスもまた災害級の力を有していた。
日本の冒険者協会に来ることなんて本来依頼でも受けない限りはあり得ないような立場だ。
蒼幻島のSランク迷宮が爆発したときに、冒険者協会で依頼を検討していたのがこの『スターブレイド』だ。
会長とジェンスはともに、護衛を引き連れての参加となっていたが、会長にしろジェンスにしろ本人の能力が高いため、ほとんど無意味だった。
二人の凄まじい力を示すように同席していた下原は、二人から放たれる重圧的な魔力に眩暈を起こしそうなほどだった。
「テレビ中継などは見ていただきましたか?」
ジェンスは流暢な日本語とともに笑顔を浮かべる。
「……ええ、そうですね。……鈴田迅さんのスカウトに来日された、と」
【スターブレイド】はメディア的にも人気であるため、来日となった際にはマスコミが多く来ていた。
だから、テレビなどをつければ嫌というほどスカウトの話は耳にすることになった。
「そうですね。そういうわけで、冒険者協会には冒険者の情報を提供していただきたい。一応アメリカの冒険者協会からを通して日本の冒険者協会にその話をしていただいていると思いますが……」
にこり、とジェンスは笑顔を浮かべる。
会長も同じように微笑を浮かべ、下原をちらと見る。下原はその視線の意図を理解し、すぐに用意していた資料を差し出した。
「こちらが、鈴田迅さんに関する情報になります」
差し出すように視線を向けた会長だったが、あまりいい気はしていなかった。
日本とアメリカの関係もあり、アメリカからの指示があれば日本側としては断ることは難しく、今回に関しても鈴田迅に関しての情報はすべて出すように言われてしまった。
ジェンスはその資料を受け取り、それに目を通していく。
「ご家族は妹さんだけですか。それなら、移住もそれほど難しくはありませんね」
「……移住、ですか」
「ええ。鈴田迅さんの実力はかなりのものです。下手をすれば、世界ランキング七位の私を越えるほどかもしれません。そんな人に、この日本という島国はふさわしくありません」
「……それは、そうかもしれませんね」
世界ランキング。
アメリカが最初に始めた冒険者の実力を評価したもので、目の前のジェンスは七位だ。
そして、【スターブレイド】に所属するリーダーが世界ランキング二位の実力者だ。
世界ランキング一位の人間はルーファウスという者だが、彼はギルドなどには所属していない無所属であり、どこにいるのか消息も掴めていない状況だ。
つまり、実質的に世界一位は【スターブレイド】のリーダーということになっている。
「スカウトに関して、妨害などはしないでくださいよ」
ジェンスのからかい気味の言葉に、会長はゆっくりと頷いた。
「我々と迅さんとの間には……何もありませんからね。ですが、彼が断わった場合、無理なスカウトはしないようにお願いします」
【スターブレイド】のスカウトにはあまりいい話を聞かない。
だからこそ、会長として日本の冒険者を守るための言葉だったが、ジェンスはふっと鼻で笑う。
「断った場合は、ですがね。こちらとしては億を超える金額の提示が可能です。もちろん、お金だけではありません。地位や権力、他にもほしいものがあればなんでも……」
「……【スターブレイド】がそこまでのことをできるのですか?」
「私は【スターブレイド】に出向のような扱いをされている、アメリカ冒険者協会の人間です。【スターブレイド】の三割ほどは、この冒険者協会からの出向組なんですよ。ですから、迅さんがアメリカに来る場合は、【スターブレイド】の迅、ではなくアメリカ冒険者協会所属で、【スターブレイド】に出向している迅、となりますかね」
「……そうですか」
「それでは。我々はこれから迅さんとの面会がありますので」
「約束はされているのですか?」
「事前に伝えてはおきましたよ」
「断っていませんでしたか?」
「ええ。何かの配信がある、と話していましたが……我々は冒険者協会の公認で来ています。そのくらいは許されるでしょう」
「……いえ、無理だと思います。その配信は、迅さんが一番楽しみにしているものですので」
会長がそう伝えるとジェンスは不快そうに眉を寄せた。
「どういうことですか?」
「迅さんが冒険者活動をしているのは妹のためです。その妹が配信をしていて……迅さんは大ファンですので、時間をずらしたほうが賢明かと」
「くだらない。これからの交渉は数十億の金が動くような取引です。そんなもの、いくらでもあとに回せるでしょう。とにかく、これ以上無駄な邪魔をしないでください」
ジェンスはそう吐き捨てるように言ってから、部屋を去っていった。
下原は去っていったジェンスの背中を睨みながら、会長へと声をかける。
「……会長、大丈夫でしょうか?」
「まあ……迅さんに一応メッセージは入れておきましょうか」
そう小さく息を吐きながら、会長は迅にメッセージを送った。
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