第124話


 ドアチャイムが鳴った。

 もうすぐ、麻耶の配信も終わるのだが、また玲奈とかが来たとしたらこのまま居留守も悪いよな。


 イヤホンで配信を聞きつつ、俺はインターホンのモニターまで歩いていく。

 しかし、そこにいたのは見覚えのない人たちだ。

 黒服の三人とベージュ色のスーツを身に着けた男性。

 どこか自信に溢れた表情をしている彼らは、日本人ではないようだ。


 試しに魔力を調べれ見ると、皆かなりの力を有しているのが分かる。先頭に立つ男の魔力は特に凄まじいものだ。

 一体なんだ? そう思っていたのだが、ちょうど麻耶の配信も終わり、もう一度ドアチャイムが鳴った。

 俺は仕方なく、インターホンのスイッチを押した。


「はい、なんですか?」

『初めまして、といっても【スターブレイド】のジェンスと申します』

「すたーぶれいど……?」

『はい。ご存じだと思いますが、世界トップのギルドです』

「へぇ……そうなんですか。世界トップのギルドですか」


 そういえば霧崎さんがそんなメッセージが来ています、とか言っていたかもしれない。

 面会したいという話があったが、麻耶の配信日だったので特に考えることなく断っていたはずだ。

 スマホを見てみると、会長からメッセージが来ている。


 色々と書かれていたが、まとめると俺をスカウトするために今日本に来ているらしい。

 ニュースなどにもなっていたらしいが、知らなかったな。

 とりあえず玄関へと向かい、扉を開けた。

 すると、ジェンスという男はにこりと微笑んだ。


「初めまして。【スターブレイド】のジェンスです。本日はわざわざ対応していただいてありがとうございます」


 深々と頭を下げてくる。彼に合わせ、後ろに控えていた三名も同じように頭を下げる。


「なんですかいきなり?」

「あなたにとって利益になるお話をするためにこちらへ来ました」


 ……なにその詐欺メールみたいな切り出しは。

 俺がじとりとジェンスを見ていると、彼の隣に控えていた女性が一枚の紙を取り出す。

 そこには、【スターブレイド】との契約に関するものが書かれていた。今後の活動や契約金などなど。パラパラとめくってみたが、なんだこれ?


「なんですかこれ」

「【スターブレイド】との契約書になります。あっ、確認するのが遅れてしまい申し訳ございませんでした。【スターブレイド】ギルドと、もちろん契約されますよね?」

「しないですけど」

「……は?」


 困惑した様子のジェンスに、俺は軽く頭を下げる。


「すみません。別にギルドとか興味ないんで。必要があれば自分で作りますし。それじゃあ、もういいですか? 配信を終えた麻耶をねぎらいに行きたいんですけど……」


 俺は契約書などを丁寧にお返ししたときだった。

 ジェンスが俺の目を見てきた。


「そんなこと言わないでください。『もちろんスカウトは受けますよね?』」


 え? うんって言わないと進まないRPGですか?

 そんな心境とともに俺はスマホを取り出して、麻耶にメッセージを送りながら再度断る。


「嫌です」

「な……っ!?」


 驚いたような声をあげるジェンスに、俺はスマホをポケットにしまいながらぽつぽつと話をする。


「さっきも言いましたけど、ギルドに関しては必要があれば自分で作ります。ですので、どこかに所属するつもりはまったくありません」


 ギルドを作る目的は人によってさまざまだ。

 単純に金稼ぎがしたい人もいれば、将来の冒険者を育成したい人。

 あるいは、ギルドでないと受けられないような重要な仕事を受けたい……などなど。


 俺としては、どれも別に熱を入れてやりたいわけではない。必要があれば金を稼ぐし、頼まれれば冒険者の育成もする……くらいだ。


「そ、そんな『アメリカに来てくれませんか?』」


 再び、脳を揺らすような声が響いた。

 ……また、やってるのか。

 俺は小さく息を吐きながら、ジェンスに返答する。


「無理です。そういうわけで、話は終わりです。麻耶の配信を振り返らないといけませんので」

「……なぜ」

「そのなぜ、は何に対してですか?」

「……え?」

「俺が断るのがあり得ないこと? それとも――洗脳魔法に関してですか?」

「……な、なぜそれをっ!?」


 とたんに警戒するように彼と彼らの背後に控える人々が表情を険しくする。

 

「やっぱり、そういう魔法もあるんですね。そんだけ脳に干渉してこようとするなら、嫌でもわかりますよ。特殊魔法で洗脳魔法ですか。アメリカはそんな人材を隠しているんですね」

「………………まさか、抵抗力がそこまで高いとは。仕方ありません。それを知られてしまった以上、我々はあなたを無理やりにでも連れていくしかなくなりました」

「……は? そっちが勝手に使ってきたんですけど」

「ええ、ですが……それは知られるわけにはいかないことですので」

「へぇ、それじゃあ今までもこういうことをしてきたから、とかか?」

「ええそういうわけです。私は【スターブレイド】の人間ですが、所属はアメリカの冒険者協会ですからね。あなたが私たちのことを公開すると――アメリカの冒険者協会の沽券に関わるのです」


 にやりと笑みを浮かべ、彼らは魔力を放出していく。

 ……それぞれ、凄まじい魔力だ。おそらく、この四人ならば黒竜の討伐だってできるのではないだろうか。


「抵抗しないでください。これでも私も災害級の力を有しています。背後にいる三名もSランク冒険者です。あなたがいくら強いといっても所詮はSランク冒険者ですから……怪我はしたくないでしょう?」

「……まあ、家が壊れるのは嫌ですけど」

「でしょう? おい、おまえたち。上に妹もいるはずだ。連れてこい」


 ジェンスがそういったときだった。

 俺の脳内でぷちっと何かがキレた。



―――――――――――

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