第125話
「麻耶に何かするつもりか?」
「がっ!?」
「な、なんだっ。この魔力は……っ!?」
勝手に家へと上がろうとしてきた二名に魔力を叩きこみ、床にたたきつける。
二人は抵抗しようとしたが、まるで動けない様子だ。
「こいつっ! 不意打ちとは卑怯じゃねぇか!」
さらにジェンスの背後にいた男が、こちらに殴りかかってくる。
「遅いんだけど?」
「な!? がっ!?」
その拳を掴み、体内の魔力をかきまぜる。
眩暈を起こした彼がふらついたところで、顔面を蹴りつけて吹き飛ばす。
「お、おまえ……っ!?」
「麻耶にまで、何かするつもりなら……手加減はできないぞ?」
「……どうやら、おまえも災害級の力を有しているようだな。だが、それでも私は世界ランキング七位だ……!」
叫ぶと同時、ジェンスは地面を蹴って飛び掛かってきた。
振りぬかれた拳を俺は片手で受け止め、握りつぶす。
「あがっ!?」
痛みに悶えながらもすぐに蹴りを放ってきたが、それに同じように足を合わせ、砕く。
倒れそうになったジェンスの顔面を掴み、力を籠めて持ち上げる。
「や、やめ……! 離……せ! がああ!?」
頭蓋骨を割らんばかりに力を籠めていくと、ジェンスは必死に俺の腕を殴りつけてくる。
「お兄ちゃん? なんかすごい音したけど……わー、なんか戦ってるね」
「おお、麻耶。悪いな。配信のあとで疲れてるところに。もうすぐ片付くからな」
「いいよ、別に……それでこれって警察と病院、どっちに連絡したらいいのかな?」
「いや、連絡の必要はないな。こいつが治癒魔法使えるみたいだからな」
俺の魔力に潰されている一人は意識を失っているが、もう一人は今も治癒魔法を自分に使用し、必死に耐えている。
全身の骨をへし折らんばかりに力を込めているが、それでも耐えているあたり、さすがSランク冒険者といったところか。
「ジェンス、そういうわけで……こっちは興味ないんだ。諦めて引き下がってくれるか?」
麻耶の前でこれ以上悪い大人の見本のようなものを見せたくはないからな。
その麻耶は警察にでもなったつもりなのか、パシャパシャと状況証拠を残していく。
しかし、この状況だけ見れば俺が完全に悪者である。
「わ、わかりました……っ! わかりましたから……放してください!」
俺がぱっと手を離すと、彼は怯えた様子で俺を見てきた。
俺は片手をポケットに入れながら、押さえつけていた二人の魔力も解除した。
治癒魔法を使っていた人はガタガタと震えながらこちらを見上げている。
「それじゃあ、これで終わりだ。さっきの会話のやり取りは録音させてもらってるからな。こっちも別にそっちを貶めたいわけじゃないし、そっちが麻耶に手出しさえしなければあとは自由にやってくれて構わないが……また何かしてきたらこの音声は流出させてもらうからな」
俺はスマホを取り出し、彼に見せつける。
ジェンスは顔を青ざめさせながら、渋々とだが頷いた。
「も、もちろんです……。も、申し訳ありませんでした」
「それじゃあな」
俺は笑顔とともに手を振ると、倒れている二人を担いで去っていった。
……最初に蹴り飛ばした男のせいで、扉が壊れてしまったな。
今の時間からだとさすがに修理はできないよな……。
「麻耶、今日はどこかに泊まるか?」
駅前のホテルでも、借りればいいかと思っていたが……麻耶はすぐにスマホを取り出す。
「ちょっと皆に聞いてみるね……あっ、美也さんの家に泊まれそうだよ!」
「いつの間にLUINE交換したんだ……?」
「この前家に来た時だよ。お兄ちゃんは家に残るの?」
「扉を応急処置しても、強盗の可能性は残るからな」
「それじゃあ、私だけ行ってくるねー」
「了解。有原にはよろしく言っておいてくれ」
「うん、わかった」
「お泊り会!」と麻耶はこの状況を楽しんでいる様子だ。
とりあえず、これでもう大丈夫だとは思うが……一応事の顛末については冒険者協会に話しておいたほうがいいだろう。
あとで何か言いがかりをつけられても困るしな。
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