第148話





 俺はちらとカーテンの隙間から外を見てみれば、マスコミ関係者と思われる人間たちが家の近くにいるのが見えた。

 彼らの目的は俺へのインタビューだそうだ。


 ――ヴァレリアンとの戦闘から一週間が経った。

 あの戦闘は、どうやらかなり注目を集めることになってしまったようで……それはもう『七呪の迷宮』での戦いが比ではないほどだった。


 それだけ、ヴァレリアンが敗れた、というのは世界的な話題となったらしい。

 報道は日本だけではなく、海外でもされまくっているそうで俺としてはそこまでの事態になるとは思っていなかったので驚きのほうが大きい。


 とにかく。

 そういった理由から、今回ばかりはマスコミたちも何としてでも俺に直接インタビューがしたい、ということで家まで押し寄せてきてしまっているというわけだ。

 一応、事務所「リトルガーデン」からコメントは出し、それで終わらせてはいるのだが……マスコミたちからすればそうはいかないらしい。


 そんなわけで、現在麻耶はセキュリティのしっかりしたマンションを借り、そちらで暮らしてもらっている。

 そちらのマンションは冒険者協会で借りてくれたものだ。


 冒険者協会も、マスコミたちに自粛するように話してくれているのだが、それさえも無視して今も人は集まっている。

 ヴァレリアンを止められなかったこと、またマスコミもまったく止められていないことから、冒険者協会が補助してくれているというわけだ。


 一応、冒険者協会の恩恵が何もないわけではない。

 冒険者協会からの発表で大手の記者たちが押しかけることはなくなったのだが、それでも二流、三流の会社から派遣されてきた人たちは今でも張り込みをしている。


 そろそろ、マンションに戻るかな。

 俺も基本的にはマンションのほうで生活をしている。

 この家には様子見で来る程度だ。

 

 一応、冒険者協会からさらに圧力をかけているので、この騒動に関してもそのうち治まってはくれるだろう。


 ただまあ、これだけ囲まれても別に俺の私生活に大きな問題はない。

 シバシバの魔法があるおかげでな。


 家の様子を見終えた俺は、それからシバシバの空間魔法で黒竜の迷宮の131階層へと移動した。

 ちょこちょこと攻略を進めていた黒竜の迷宮は、現在131階層にまで到着していた。

 ……最近では、高ランク迷宮の迷宮爆発もよく発生しているからな。


 この迷宮だっていつ爆発するか分からないため、いざというときのために攻略階層を伸ばしておいたほうがいいだろう。


 131階層に到着した俺は、早速スマホで配信の準備を行う。


 ヴァレリアンと戦ってから、特に配信をしていなかったのだが、どうにも次の配信をしてほしいという話があちこちから上がっているらしい。

 

 なので今日は黒竜の迷宮の131階層からの配信だ。

 配信前に、軽く準備運動がてら、魔物と戦うか。


 この階層に出現する魔物はウェアウルフだ。そこらの鍛えている人たちが裸足で逃げ出すような肉体を持っている魔物たちだ。


 この階層に出現するウェアウルフたちは、顔に鋭い傷があり、見た目から厳つさが増している。


 通常のウェアウルフと区別するための名前を玲奈に考えてもらったところ、ヘビーウェアウルフという名前に落ち着いたのだが――。

 そのヘビーウェアウルフたちはだいたい二体から三体で行動している。


 この階層は森のようになっていて、視界はかなり悪いのだが……まあ、魔力を探知できる俺からしたら関係はない。

 ちょうど二体のヘビーウェアウルフたちを見つけた俺は、姿を隠しながら魔力をぶつけた。


 俺の魔力に反応したヘビーウェアウルフたちが訝しむようにこちらへ迫ってくる。

 警戒しているようだ。さすがに、この階層の魔物ともなると今のはあからさまな罠、だからな。


 とはいえ、魔物がここまで考えること自体が凄いことなのだが。

 だいたいの魔物が何も考えずに突っ込んでくるからなぁ。


 ただ、俺は自分の魔力の塊を茂みに残しつつ、ヘビーウェアウルフたちを狩れる位置へと移動し、身を隠す。


 ヘビーウェアウルフはこちらへと近づき、そして茂みを踏み潰すように一体が足を振り下ろした。

 その瞬間を俺は見逃さない。

 踏み潰したヘビーウェアウルフの背後に控えていた奴へと背後から迫り、片手で口元を押さえ、もう片方の手で喉を潰した。


「……ッ」


 短い悲鳴のような音が漏れたが、それは茂みを踏み潰したときの音でかき消される。

 そのまま首を捻って仕留めると霧となって消えていく。


 そういうわけで、隙だらけとなったもう一体のヘビーウェアウルフの心臓めがけ、背後から拳を振りぬいて仕留めた。

 ……うん、問題ないな。

 体の調子は今日も万全だ。準備体操を終えた俺は、早速配信の準備をしていった。






―――――――――――

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