第149話



 すでに俺の配信画面に、かなりの人が待機しているな。

 ……まだ配信始まる十分前くらいだというのに待機者がすでに十万人超えているって、いくら夏休みだからといってこれほど集まるものなのだろうか?


 特にこの時間は社会人の多くは仕事をしている平日の昼間。まあ、様々な働き方があるから、昼が暇な人もいるかもしれないがそれでもここまで集まるとは思っていなかった。


 人数が多いのは、日本人だけが来ているからではないようだ。

 コメント欄の半分くらいは英語が見えた。

 ……どうやら、俺の今日の配信を楽しみにしているようだ。


 さすがに、英語以外の言語まではよく分からないが、まあ皆期待してくれているというわけだ。

 ここまで集まっているとなれば、マヤチャンネルの登録者も増えるかもしれない。


 そんなことを考えながら俺は早速配信をスタートして、カメラを自分に向けた。


「よし、映ってるか?」


〈おおお! 来た!〉

〈こん!〉

〈お兄ちゃん、待ってたぞ!〉

〈世界ランキング二位おめでとうお兄様!〉

〈”この前の戦いマジで凄かったぞ!”〉

〈日本の冒険者の一人として本当に誇らしいです〉

〈”最近はお兄ちゃんの活躍を見るだけで元気がでます!”〉


 配信を開始した瞬間、コメント欄が一気に活発になった。

 ……まあ、色々と盛り上がっているが、そのほとんどがヴァレリアンとの戦いに関してだ。

 俺は自分のもう一つのスマホで配信の様子を確かめ、問題ないことを確認してから歩き出す。


「今日は事前に言ってたけど、だらだらのんびり迷宮攻略配信だからな。俺一人でやってる都合上、コメントは拾えないこともあるからあんま期待すんなよ」


〈おお、久しぶりだこの適当な感覚!〉

〈お兄様に粗雑に扱われるこの感覚……お久しぶりです!〉

〈いつも通りのお兄ちゃんでよかった〉

〈なんか最近色々大変そうだよな……〉

〈最近は本当にバタバタしてるもんな……〉

〈マスコミに家凸されてるんだろ?〉


 どうやらこのことは視聴者たちにも伝わっているようだ。

 ……まあ、大手のマスコミがそういう報道もしているらしいからな。最初は自分たちも追いかけまわしていたくせに。


「そうそう。まあ、それに関して今はひとまず住む場所をころころ変えてるからとりあえずは大丈夫だけどな。それに、今後さらに協会から注意してくれるらしいからそれに期待中ってわけだ」


〈お兄様、大変そうですね……〉

〈お兄様、私たちがお兄様を苦しめているマスコミについては情報を集めていますので今しばらくお待ちください〉


 何やら物騒なコメントを見つけてしまった。


「え? マジ? そんなことやってるやついるのかよ?」


〈お兄様ガチ恋勢はマジだぞ〉

〈もうすでにいくつか出版社とかそういうところに凸ってるファンもいるぞ……〉

〈ちょっと過激すぎる部分があるんだけどな〉


 それはまた少し問題ではあるが、向こうだってこっちの生活に切り込んできているのだから多少はいいのだろうか?

 とはいえ、後で何か言われても面倒だ。

 こちらも、別にマスコミを敵視しているわけではない。


 ただ単に、対応が面倒なだけだ。

 すでに、こちらとしては協会を通して必要な話はしているわけだ。

 直接話を聞かせろ、と言われたらどうしようもないが、最低限の義務は果たしているはずだ。


「まあ、あんまりやりすぎないでくれよ」


 やりすぎて、マスコミたちに恨まれて好き勝手に書かれるというのも嫌だしな。

 あまりこの件については触れないほうがいいだろう。

 さっさと、本題に入ろうか。


「まあ、そういうわけでこっちは特に変わったことはないな。つーわけで、もう今日の配信の目的は達成したんだけど、おまえら何か用事あるか?」


 配信をした理由は本当にこれだけ。

 最近、「リトルガーデン」宛に大量の配信してほしいメッセージが送られてきているらしく、事務所から泣きつかれたため、配信をしているわけだ。


〈やめようとするなw〉

〈今めっちゃ注目されてるのにw〉

〈お兄ちゃん質問です! 前回のヴァレリアンとの戦闘で世界ランキング2位になったけど今どんな気持ちですか!?〉

〈そういえば世界ランキング二位になったんだよなw〉

〈まさか日本人の冒険者が世界に通用する日が来るなんてな……〉

〈お兄様さすがです……〉

〈お兄様一生ついていきます……〉


 世界ランキング二位、ねぇ。


「って言ってもな。向こうだって、俺を殺さない程度には加減していたわけだからな」


 やたらと世界ランキング二位になった、とコメントされるのだがお互い本気で殺しあったわけじゃないのに、本当の実力が分かるわけない。

 もちろん俺だって麻耶以外に負けるつもりはないが、ヴァレリアンだってまだまだ出力をあげることはできただろう。


〈だとしても、一方的だったけどなw〉

〈ヴァレリアンのあんな姿は初めてみたぞ……〉

〈ボコボコだったもんな〉

〈以前ヴァレリアンの戦闘を見たことあるけど、お兄ちゃん並みに圧倒的強さだったからな……それがあんな姿だもん、驚くなってほうが無理だわ〉

〈そのヴァレリアンを圧倒するお兄ちゃんって本当やばすぎるw〉

〈じゃあ、世界ランキング二位になった感想とかはないわけか……?〉

〈それはそれでなんというか……なんというかだなw〉


「そうそう。コメント欄にもあるけど、別に何かあるわけじゃないんだよ。ヴァレリアンからはあの後ちゃんと謝罪されてるし、あとで麻耶に似合うカワイイ服とかプレゼントしてくれるって話になってるからな。そういうわけで、もう俺たちの間に確執はないってわけだ」


 ヴァレリアンに何か謝罪の品をと言われたとき、麻耶に似合う服を、と言ったら知り合いにデザインしてもらう、ということになった。

 ……いや、半分冗談だったんだけどな?


―――――――――――

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