第230話
「ぶが!?」
悲鳴を上げながら、ルーファウスが吹き飛ぶ。
とはいえ、奴も魔力で肉体を強化していたようで、ダメージはかなり軽減されているようだった。
俺が視線を向けると、ルーファウスが立ち上がった。
それから、顔を押さえ手についた血を撫でながら、笑みを強めた。
「……以外とやるようだな。久しぶりに感じたぞこの痛みを」
ルーファウスの表情が緩やかになる。
……相変わらず、上から目線な物言いだな。
「いいぞ、ジン! 先ほどはつまらない男だと思ったが、認めよう! さあ、もっとこの戦いを楽しもうじゃないか!」
「悪いが……麻耶の配信がもうすぐ始まるんでな。時間をかけている暇はないんだよ」
俺が地面を踏みつけた瞬間、ルーファウスから何かが放たれた。
それをかわすと、地面が抉れていた。
一度だけではない。連続で放たれる攻撃をかわしていく。
「結界魔法を守るだけの魔法だと思っている奴らばかりだがな……これほど強固な魔法を攻撃に使わないのはもったいないと思ったことはないか?」
「結界を銃弾のように打ち出したってことか」
「そういうこと、だ。貴様が殴り倒したという黒竜、だったか? オレの結界魔法は、黒竜の鱗でさえ貫通するほどの威力だ」
ルーファウスがさらに放ってきた。まっすぐに俺へと向かってきたそれを、俺は手で払い除ける。
「……っ!?」
同時に地面を踏みつけると、ルーファウスが驚いた様に目を見開き、即座に結界を展開する。
同時に攻撃の準備を行っていたルーファウスは,恐らくオレが先ほどのように結界を割るまでの間に反撃しようと考えているのだろう。
――時間がない、って言っているだろ?
俺はさらに出力を上げて肉体を強化し、拳を振り下ろす。
今度は、一撃で結界を破壊し、ルーファウスの腹を殴りつけた。
「……ぐが!?」
吹き飛んだルーファウスがごろごろと地面を転がり、腹を押さえながらよろよろと立ち上がる。
「……き、貴様……っ!」
「さっきから、気になっていることがあったんだが」
「なに?」
「なんで、俺が挑戦者のような態度で接しているんだ?」
「こっちは、これでも結構抑えてるほうでな……」
……これまでに、感じてきた
俺が有名になるにつれ、あちこちでさまざまな奴らに絡まれてきた。
それは、俺が配信で加減しているからというのも理由の一つだっただろう。
……ならば、今ここで。
世界一位の男を、一方的に叩きのめせば――もうそんな甘えた考えをするやつは出てこなくなるだろう。
「テメェの勝手な考えで、どんだけの人間を心配させたと思っているんだ? 麻耶、流花、凛音、玲奈……彼女らの友人、家族……たくさんの人たちに迷惑かけたこと……甘く考えすぎなんだよ」
俺がさらに魔力の出力を上げていくと、大地が揺れだす。
ルーファウスが俺から距離をとり、再び結界魔法を展開する。
一枚で受けきれないと思ったのか、二枚三枚と展開する。
だが、そんなもの……俺は突進で破壊する。
それこそ、紙でも払うかのようなつもりで突っ込み、ルーファウスに拳を叩きつける。
殴り飛ばされたルーファウスだったが、すぐに体勢を立て直す。
だが、彼の表情はそれまでの余裕に溢れたものから、一転。恐怖に染まっていた。
……ようやくルーファウスは気づいたようだ。
どちらが挑戦者なのか。
俺が一歩近づくと、ルーファウスは怯えたように後ろへ下がる。
「ハラハラした戦いがしたかったんだろ? それじゃあ、存分に体験させてやるよ」
そして、これはこの配信を通じて見ているすべての人たちに向け、
「二度と俺の周りの人たちに手を出せなくなる様にな」
俺に絡んで有名になろうとするようなやつや、俺と戦いたいとほざくようなすべての奴らに向けて、言い切る。
「く、くるな……っ!」
ルーファウスはそう叫び、即座に結界魔法を展開する。
先ほど防ぎきれなかったからか、さらに何枚にも重ねていく。
だが,俺はそんなものすべて無視するように突っ込んで破壊する。
一気に距離を詰めて殴りつけると、ルーファウスはボールのように吹き飛ぶ。
だが、彼は体に結界魔法を纏い、鎧のように展開していた。
そして、彼はポケットから一つの薬を取り出した。
「魔力増幅薬か」
「……これは、完成品だッ! 本来は、貴様に与えてやろうと思っていたものだが――」
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