第231話
ルーファウスは慌てた様子でそれを口にする。俺に与えようとしていた、ということは俺の力が自分よりも劣っていると考えていたからだろう。
ルーファウスの体を魔力増幅薬が強化していく。その体から、今まで以上の魔力が溢れ出し、そして片手を振り抜いてきた。
その瞬間、結界魔法が周囲を薙ぎ払うように放たれる。
まるで巨人が手でも薙ぎ払ったかのように、俺の目の前の地面を抉り飛ばした。
「……さて、ジン。改めて、始めようか」
魔力が増幅し、現時点の俺を上回ったことに安堵したようだ。
それまでの余裕を取り戻した彼は、微笑を浮かべながら構える。
「…………あと十分か」
麻耶の配信開始まで、あと十分。
ここから家に戻って、麻耶の配信を視聴するための準備もかんがえたら、もう十分も余裕はない。
「第二ラウンドと、行こうか」
ルーファウスの姿が消えた。
本当に消えたわけではない。
一瞬で懐へと入り込まれていた。……強化されたのは事実のようだな。
そして、振りぬかれた拳が俺の顔面へと当たる。
だが、怯んだのはルーファウスだ。俺が身体強化で顔面の強度を上げたからだ。
「……第二ラウンド?」
俺は即座にルーファウスの胸ぐらを掴む。結界魔法を展開していたが、すべて無視だ。
「そんな時間与えるわけねぇだろうが」
そして、地面へと叩きつける。起きあがろうとしたルーファウスの腹に拳を叩き込む。
「ぐっ!?」
ルーファウスが血を吐き出し、よろよろと転がり立ち上がる。
彼の目は、すでに恐怖に染まっていた。
俺から必死に逃げようとしたルーファウスの先へ回り、拳を蹴りを叩き込んでいく。
一方的に、圧倒的に仕留める。
二度と、俺の周りの人間たちを巻き込まないために――今だけは、麻耶に恐れられるようなことになろうとも、俺は圧倒的な力を見せつけていく。
「これで終わりだ!」
全力で拳を叩き込むと、ルーファウスが吹き飛び……立ち上がらなくなる。
「アリア、治療できるんだったな?」
「は、はい! お兄様を手厚く治療しますよ!」
「俺じゃなくて、ルーファウス! 死なない程度に回復させてやってくれ!」
俺が叫ぶと、ポカーンと見ていたアリアがすぐにルーファウスへと向かい、治療を開始する。
最低限回復すると、ルーファウスは怯えたような目でこちらを見てきた。
「死ぬほどの戦いがしたかったんじゃなかったのか?」
「…………っ」
俺の言葉に、ルーファウスは怯えていた。
……初めて、死の恐怖を感じているようだ。
ルーファウスと俺は、根本的に違う。
俺は別に、最初から強かったわけではない。だが、恐らくルーファウスは最初から強かったのだろう。
だからこそ、余計に色々なことが退屈に感じたのかもしれない。
俺が本気の殺意をぶつけてやると、ルーファウスはさらに顔を青ざめていく。
……まあ、別に殺すつもりはないけどな。麻耶の配信が見れなくなるようなことをするつもりはない。
俺は空間魔法を展開し、それからルーファウスの体を担ぎ上げる。
「ま、精々反省するんだな」
繋いだ先は冒険者協会。すでに、警察と会長が待ち構えているそこに向かった俺は、すぐにルーファウスの身柄を引き渡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます