第4話
特に深く考えていなかったが……俺が事務所に呼び出されたのって謝罪しろということでは?
……麻耶の配信のペースや日付、頻度などはすべて麻耶のマネージャーが管理している。
なんでも、事務所にいる配信者の日程などがあまり被らないようにしたほうがいい、ということで結構綿密な計画が立てられているんだよな。
俺は麻耶以外興味ないので、他の配信者に関しては知らないが……マヤチャンネルの配信をぶっ壊してしまった俺に、謝罪を要求してくる可能性は高いよな……。
……向こうについたら、まず土下座から入ったほうがいいか?
ていうか、そもそも部屋着に近い私服で来てしまったが……これもまずいか?
せめてスーツとかのほうが良かったか?
いやでも俺スーツ持ってないしな……。
それでももう少しぴしっとした服装のほうが良かったかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は麻耶とともに事務所へとやってきた。
……「リトルガーデン」。
麻耶とその他女性配信者が所属している事務所、だったはず。
麻耶が時々事務所の他の人とコラボしていたので、なんとなーくは知っている。
ただ、麻耶以外の人はまったく興味ないので誰がいるかは知らない。
「お兄ちゃんってくるの二回目だよね?」
「そうだな」
昔、麻耶が事務所に所属する際に俺も同行して話は聞いた。
麻耶はまだ未成年なので、親御さんの許可が必要らしいのだ。
両親は昔事故に巻き込まれてしまったので、当時成人していた俺が一緒に事務所で話を聞いたのだ。
それ以来だから三年ぶりくらいだろうな。
麻耶は時々事務所に来ているそうで、慣れた様子で入口から入った。
ビルの六階、七階が「リトルガーデン」のオフィスらしい。
六階の受付に向かうと、すでにそこにはスーツ姿のぴっしりと決めた女性が待っていた。
「マネージャーさん。お久しぶりです」
「はい、麻耶さん。お久しぶりです。それと、お兄さんも……お久しぶりですね」
その女性は……たぶん、俺が二年前に事務所で詳しい話をしてくれた人だ。
名前は確か……
「お久しぶりですね。大崎さん」
「霧崎です。霧崎」
「そういう読み方も、ありましたね」
「それしかありませんよ」
小さくため息をついた霧崎さんに、俺はその場で土下座した。
「お、お兄さん!?」
「お兄ちゃん!?」
「すみませんでした! 麻耶は悪くないんです! 配信に関してはイレギュラーに巻き込まれたからなんです! 俺の責任です! だから怒るなら俺にしてください……っ」
「い、いや顔上げてください! ほ、ほら他の人にも見られてますから! それに今回はしかりつけるために呼んだわけではありませんから」
なんだって?
「そうなんですか? ……土下座損ですね」
「それ本人の前ではっきり言います?」
「あっ、すみません。聞こえないように言いますね次からは……」
「それ聞いたらもう謝罪すべてが嘘にしか聞こえなくなるんですが」
「気にしないでください。それじゃあ、他にどんな用事があって俺を呼んだんですか?」
謝罪以外で呼びつけられる理由が思いつかないんだよな。
立ち上がると、霧崎さんは眉間をもみほぐすように手を当てている。
「……そうですね。今回の配信で……今も分かるとおり、マヤチャンネルは非常にバズっています。いや、バズるどころの話じゃないんですよね。今朝のニュース見ました?」
「うち、テレビおいてないんですよね……何とは言いませんけど、色々とお金かかるんで」
「まあ、そういう家庭も今どきは多いですよね。……今朝のニュース。だいたいお兄さんの話題だったんですよ?」
「は? ……なんで?」
「いや、黒竜倒したからじゃないですか。……知っていますか? 日本のトップギルドの一つである『雷豪』が黒竜討伐のために準備を進めていたんですよ? 毎週そのドキュメンタリー番組が放送されていたくらいなんですからね。それを、ソロで、あんなあっさりと討伐したんですから……そりゃあ注目集めますよ」
「……あいつってそんな強いの?」
「……あの、麻耶さん。お兄さんって常識ありませんか?」
「ないですよ。でも、それがお兄ちゃんの魅力です」
「……」
ぐっと親指を立てる麻耶に、霧崎さんは頭を抱えていた。
「……とにかくです。お兄さんを呼んだ理由について簡単に話していきますね。まず、先程のニュースの件です。お兄さんに関しての問い合わせが死ぬほど来ています。テレビ局はもちろん、ギルドや冒険者協会からもです。あの人は何者だ、あの人と話す時間が欲しい、と」
「お兄ちゃん、人気者だね」
「いや、俺別に麻耶以外に人気出ても嫌なんだけど」
「それなら大丈夫。お兄ちゃんは私の一番だからね」
「そうかそうか!」
「あの話進まないんで、割り込まないでくれます?」
……霧崎さんが結構本気で睨みつけてくるので、俺と麻耶はしゅんと小さくなる。
咳ばらいを一つしてから、霧崎さんが続ける。
「……そういった対応に関して、そもそもうちはお兄さんとは関係がありません。ですが、現実としてそう突っぱねてしまいますと、今度は恐らくお兄さんの自宅を特定して、情報を得ようとする人たちが出てくると思います」
「はあ、なるほど」
「そこでです。……お兄さん、配信者に興味ありませんか?」
「ないです」
俺が答えると、霧崎さんは頬をひきつらせた。
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