第3話


 麻耶の配信を……無事終えた次の日の朝だった。

 麻耶のスマホには、通知音が響いていた。

 どれだけ時間が経っても、鳴りやむことはない。


 原因は――俺だ。

 俺は、麻耶と向かい合うように座っていた。


「麻耶。こういう場合はどうすればいいんだ?」

「私も分からないよ。だって、普通じゃないくらいバズってるんだもん……」


 Twotterのトレンド一位もかっさらっていったらしい。

 ……なんでも、あの黒竜は長らく攻略されていなかったからだそうだ。


 当時の日本のトップ冒険者たちが攻略に挑んで全滅してからというもの、あの黒竜に挑む人はいなかったのだとか。


 俺普通に100階層まで潜ったことあるんだが、そんなことをここで公開すればさらに油に火を注ぐことになるだろう。


「と、とりあえずバズってよかったな! 麻耶の可愛さなら世界に通用すると思ってたぞ!」

「バズったのお兄ちゃんだよ! 私何もしてないよ! でもどんどん私のチャンネルの登録者数増えてくよ! 十九万人突破しちゃったよ!」


 元々マヤチャンネルの登録者数は十万人だった。

 昨日のバズりでそれが倍近くまで伸びたのは、い、いいことだよな!


「おお、凄い! やったな麻耶!」

「最新のコメント全部お兄ちゃんの戦闘から来ましただよ! 皆お兄ちゃんの戦闘動画の切り抜きから来てるんだよ! これもう私のチャンネル乗っ取られてるよ!」

「いや麻耶は十万人のファンがいるだろ!? 仮に十九万人のうち九万人が俺の戦闘を見て登録したとしてだ。十万人は麻耶のファン……そうだろ?」

「はい、二十万に突破ぁ! まだまだ増えてるよお兄ちゃん!」

「い、いや麻耶の可愛さにつられているんだって。誰が二十七歳そこらの平々凡々な男性の戦闘目当てで登録するんだ?」

「それがこんなにいるから、こんなことになってるんだよ!」


 ……ま、まあ。

 きっかけは俺だとしても麻耶の配信を見ていればきっといつかはファンになるだろう。

 麻耶のトーク力は高いし、何より可愛い。可愛いのだからいつかはきっと伸びるはずだ。


 とりあえず麻耶が作ってくれた朝食を頂いていると、麻耶のスマホが震えた。

 電話のようだ。

 俺はパクパクと朝食を頂いていると、麻耶の視線がちらちらとこちらを向く。


「は、はい……お兄ちゃんが……はい。えっと、話したいことがあるですか?」


 何やら俺の名前が出てきている。

 ……一体誰から何の話だ?

 俺が困惑していると、麻耶は電話を切って椅子に座りなおす。


「お兄ちゃんって今日用事ある?」


 今日は土曜日。

 無職ニートの俺は特に仕事はない。

 しいてあげるなら、麻耶の推し活くらいである。


 冒険者、を一応職業としてみることもできるがそれはあくまで定期的に活動している人に限る。

 一ヵ月に一度程度しか活動していない俺は、たぶん無職ニートである。


「いや年中無休で暇だけど、なんかあったのか? 麻耶に迷惑かけてるやつがいるならお兄ちゃんががつんと言ってやるからな?」

「大丈夫だよ。事務所で私のマネージャーさんが昨日の配信について話があるってことで……お兄ちゃんにも相談したいことがあるみたいだから、一緒に行けないかなって思って」

「つまるところ……デートってこと?」

「事務所デートって感じかな?」

「もちろん行くに決まってる」


 俺が喜んでいると麻耶もほっとしたように息を吐く。


「それじゃあ、これから事務所に向けて出発しよっか!」


 俺はこくりと頷いて、麻耶とともに外へと出ていった。





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