第5話


「お兄ちゃんが配信ってもしかして事務所に所属するの!?」


 霧崎さんの意図を察した麻耶が、目を輝かせながら問いかける。


「そうなりますね」

「お兄ちゃんやったね! 私と一緒だよ!」

「いやでもお兄ちゃん別に配信興味ないし、面倒そうなんだけど……」

「私お兄ちゃんの配信してるところみたい!」

「じゃあ、やる」

「いや、あなたの判断基準おかしくないですか?」


 でもなぁ。

 麻耶が見たいというのなら、俺としてはやるしかないのだ。

 麻耶が喜ぶ姿が見られるんだからな。


「霧崎さんもやってほしいとは話してましたよね? だったらいいじゃないですか」

「いやまあ……やってくれるならいいんですけどね? ……えーと、こちらとしても、事務所として対応していくことができます。本人が面会を望んでいない、あるいはインタビューを許可する……とかです。そういうわけで、うちの事務所に所属しませんか、と話をしようと思っていたんです」


 ……それで、俺を呼びだしたというわけか。


「ああなるほど。……確かに家まで来られたら適当に脅そうと思ってましたが、麻耶にまで凸られたら面倒ですよね」

「当たり前のように脅さないでください。……そうですね。わりと皆さん情報を知りたいようですので、お兄さんから発信していくといいかとこちらとしては思ったんです」


 まあ俺としても麻耶に迷惑がかからないようになるのならなんでもいい。

 俺が頷いていると、麻耶が思い出したように首を傾げる。


「……でも、お兄ちゃんって男だけど大丈夫ですか?」

「麻耶、もしかして過激な男女差別の思想に目覚めたのか?」

「いや違うよ。うちの事務所って所属してるの皆女の子なんだ。……その視聴者もそういった層もわりと期待していて……男の人が入るといろいろ問題なんだよ」

「つまり、女装しろと?」

「性別は変わってないよねそれ」

「とれと?」

「とるの?」

「麻耶が頼めば……やるぞお姉ちゃんは!」

「もうとった気になってるね。いや、お兄ちゃんはお兄ちゃんのままでいいよ。マネージャーさん、大丈夫なんですか?」


 麻耶が何かを心配するように霧崎さんに聞いている。

 霧崎さんも、なぜか真剣な面持ちだ。

 ……そんなに気にするようなことなのか?


「そこについては……もちろん懸念しています。ていうか、たぶん炎上する可能性のほうが高いですが……うちの事務所も事業規模を広げようと思っているんです。いずれは男性配信者も増やしていきたいので、最初がお兄さんなら、まあいいんじゃないかと」

「なんか適当じゃないですか?」

「いやもう、このくらいで接したほうが私の精神的にいいかと思いまして」


 まあ我が家の家庭はノリと勢いを重視してきたからな。

 早くもうちのノリに適応してくるあたり、霧崎さんは才能がある。

 ……ただ、俺は一つ疑問が浮かぶ。

 なぜ、そんなに男性配信者が増えることを警戒しているのだろうか?


「一つ思ったんですけど、別に男性が一人増えたところで対して変わらないんじゃないですか?」

「……それが、変わるんだよお兄ちゃん!」

「そうなのか?」

「視聴者たちは、男性配信者が増えるとそれだけ不安に感じちゃうんだよ。裏で実は繋がっているんじゃないか……とか」


 ……よくわからないぞ?


「繋がってて何かあるのか? 別に視聴者が付き合ってるわけじゃないだろ? あくまでその配信が面白いから見てるんだろ? 別に裏で何があっても、配信のとき楽しければいいんじゃないのか?」

「いやそれはっきり言っちゃだめだよお兄ちゃん。じゃあ例えばお兄ちゃん。私が実は裏で事務所にいる職員の方と付き合ってる、かもしれないって思ったまま配信見れる?」

「おい、付き合ってるやついるのか!? 呼んで来い! お兄ちゃんと決闘だ!」

「いや例えばね」

「……例えばでも心臓に悪い例えはやめてくれ。結婚式の謝辞を考えそうになったじゃないか……」

「結婚認めてるねそれ。大丈夫だよ。今はそういう人いないから」


 俺は安堵の息を吐いた。全身から力が抜け落ち、その場に崩れ落ちそうなほどだ。

 ただ、今の麻耶のおかげで少しだが気持ちは分かった。


「要は自分の推しに変な感情を持ったままみたくない、ってことだな?」

「さすがお兄ちゃん。男性配信者が増えると、それだけ皆不安になっちゃうんだよ。特にうちの事務所は所属している配信者同士のコラボも多いからね」

「でも職員に男性はいるよな? そこらへんはいいのか?」

「……それ指摘されることってあんまりないよね?」


 麻耶が可愛く霧崎さんに問いかける。霧崎さんは、苦笑を浮かべている。

 ……あるんだろうか?


「わりとありますよ。男性マネージャーがついていたということで他の事務所ですが炎上したことがありますね」

「そんなのもあるんだ……」


 麻耶は初めて聞いたという様子で新鮮な様子で話を聞いている。

 俺も少し驚いた。

 ていうか、そんな可能性のあることを俺に任せるつもりなのだろうか?


「ふと思ったんですけど……事務所はもしかして俺を実験体にしようとしていませんかね?」

「別にそういったことはありません。……事務所としては、おそらく炎上はしないのではないかと思いまして」

「どういうことですか?」

「……今のあなたはそれだけ異質な立場、というわけです。どうでしょうか? 今麻耶さんのところにも届いている色々なメッセージに関しても、これで多少は落ち着くと思いますが」

「あー、それは麻耶に迷惑をかけていると思っていたんですよ。落ち着くならいくらでもやりますよ」

「お、お兄ちゃん……ありがとう……っ。私、お兄ちゃんの配信絶対見るからね!」

「おう、任せろ。ばっちり麻耶のチャンネルを宣伝しておくからな!」

「……まあ、とにかくやってくれるということでわかりました。そのまま話を進めていきますのでよろしくお願いいたします」

「あっ、はい。お願いします」

「すぐに準備を始めますので、明日の二十時から配信を行うというのはどうでしょうか?」

「ああ、大丈夫です。任せてください」

「それでは、お願いします」


 ……麻耶が喜んでいるのでよしとしよう。

 



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