第103話
「……くしゅんっ!」
事務所でスケジュールの確認をしていた霧崎は大きくくしゃみをすることになる。
それに気づいた同僚が苦笑とともに霧崎に声をかけた。
「もうすぐ七月だから風邪でも引いちゃいましたか?」
「いえ、そういうことはないと思いますが……」
霧崎はそう言いながら、スケジュールとメールを確認し、今後の予定についてを考えていた。
七月末。
そこで、事務所の配信者たち全員で海に行き、軽いイベントを計画中だった。
霧崎もまた、久しぶりの海を楽しみにしていた。だからここで体調を崩すわけにはいかなかった。
「そういえば、迅さん宛てのテレビ局関連の出演依頼……どうしますか?」
迷宮爆発を抑えた英雄として、テレビ局からは出演オファーが殺到していた。
「そうなんですよね……迅さんがあまり乗り気じゃないそうなので。特にそういう英雄視をされるのが嫌らしいです」
「……みたいですね。今も麻耶ちゃんにまで影響が出始めているみたいですしね」
「まあ、迅さんは麻耶ちゃんの生活で迷惑が出るようなら配信活動自体辞めるつもりですからね」
事務所としてはもちろん受けてほしいのだが、本人の意向が第一優先なので、今のところはすべて断っている。
「まあ、でも、ファンの人たちも色々気になっているようですし、そろそろ配信したほうがいいですよね」
「……そうですね。まあ、迅さんも蒼幻島でのボランティア活動も終わるみたいですしね」
「……え? さ、参加されていたんですか?」
「ええ。なんでも海に逃げた魔物とかの討伐も必要だったようです。あとは魔物による被害でできた瓦礫などの撤去とか……まあ、下手な重機よりも迅さんのほうが色々できますしね」
「……なんていうか、迅さんってそういうアピールまったくしませんよね」
「本人は別に誰かに見せるためにしているわけではないですからね。……まあ、マヤチャンネルの視聴者が増えるかも、くらいは考えているかもしれませんが」
霧崎は苦笑しながら、次の配信がいつできるかの連絡をとるため、迅へと連絡をとることにした。
黒竜の迷宮116階層。
出現する魔物は、人型をしたモグラのような魔物。見た目としては人間の子ども程度のサイズだ。
玲奈の見事なネーミングセンスによってドリルモグラ、と名付けられたそいつは、両手がドリルのようになっている。
「んじゃあ玲奈。そろそろ決めにいってくれ」
「あいあーい! まっかせてー!」
俺が玲奈にカメラを向けると、玲奈は笑顔とともに剣を構えた。
ドリルモグラはかなり狂暴で人間を見たら即座に突進してくる。あと、地中からも攻撃してくることがあるので、面倒極まりない。
そんなドリルモグラと向き合っていたのは、玲奈だった。
ドリルモグラと向かい合い、何度かの攻防を終えたところであり、玲奈は呼吸を整えていた。
いつになく真剣な表情はまさしく冒険者としてのそれだ。
ドリルモグラが動きだすより先に、剣を振りぬく。
動きの始動をこちらから行うのか、相手の動きを待ってからにするかは人によって違う。
攻めるのが得意か、守るのが得意かで分かれるが、玲奈は自分で動いて攻撃していくほうが得意だ。
振り抜いた玲奈の剣だったが、ドリルモグラのドリルに当たり、金属同士が激しくぶつかり合った音が響き渡る。
お互いの武器がぶつかりあい、そして弾かれたのは玲奈だった。
ドリルモグラの見た目は、その体に見合わないほどに強靭だ。
初めてゴブリンと対面した人の多くが感じるだろう、見た目と力のギャップ。
まさにドリルモグラもそうだった。
玲奈たちの戦闘に気付き、こちらに迫ってきたドリルモグラたちを蹴りで仕留めながら、改めて玲奈の方へカメラを向ける。
〈やばw〉
〈レイナでさえもここまで苦戦するとか……まずいだろ〉
〈一応ここSランク迷宮だからな。お兄さんのせいで勘違いするが〉
〈そのお兄ちゃんはこの間もドリルモグラをぶっ倒してててワロタ〉
コメントの言う通り、ドリルモグラは複数体で行動するため、仲間が戦闘中だと他の場所から襲い掛かってくる。
玲奈はまだ一対一が限界なので、俺が露払いをしているというわけだ。
今は玲奈の訓練配信だからな。なるべく集中できるようにしてあげただけだ。
現在、俺は玲奈とともにSランク迷宮「黒竜の迷宮」でだらだら配信中だ。
特に配信する予定はなく、いつも通り玲奈の訓練に付き合おうかという感じだったのだが……蒼幻島の事件の後から俺が特に配信とかしていなかったので、やるということになった。
ドリルモグラと玲奈は今も激しい攻防を繰り返している。
力はドリルモグラのほうが上だが、玲奈は攻撃を受け流すようにして捌いている。
一歩、玲奈が足を引いた瞬間に合わせ、ドリルモグラが突っ込んでくる。
ドリルモグラの間合い。しかし、それこそは玲奈の狙いでもあった。
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