第102話
「あれ、二人ともダーリンといつの間にそんなに仲良くなってたの?」
玲奈は今回、わざとらしく強調するように「ダーリン」と口にする。
これは二人の反応を見るためだ。
そして、玲奈の想像通りの反応を二人は見せた。
流花と凛音のどちらもがぴくり、と反応した。
それはいつもの玲奈のふざけた発言に対しての呆れた様子ではなく、間違いなく別の感情が込められている。
(こ、これは……ダーリンめっ!)
玲奈はSランク冒険者ゆえの洞察力を遺憾なく発揮し、二人の反応を見逃さない。
一瞬の隙にすかさず気づき、そこを突いていく。
これが魔物との戦闘では重要になる。
今の敵は魔物じゃないが。
「まあ、その……仲良くというか……私ももっと冒険者として成長したいから。別に、それ以外の理由はないから」
頬を赤らめながらそっぽを向かれても説得力はないのである。
「わ、私もですよ。私ももっと強い冒険者になりたいですから、別に他意はありませんからね!」
それは他意がある人間の言い方である。
「そういうと、まるで他意があるみたい」
じーっと目を細めた流花が問いかける。
彼女もまた探りを入れているのだと玲奈はすぐに理解する。
凛音が驚いたあと、ぶんぶんと首を横に振った。
「そ、そんなことありませんよ! ていうか、流花さんも珍しいですよね? あんまり男性の人と関わるとかはしないようにしてましたよね?」
今度は凛音の攻撃だ。流花のファン層というのも関係あるが、彼女はあまり男性と関わる機会がなかった。
中高と、彼女は女子校に通っていて、配信以外ではほとんど接することがなく、そもそも苦手意識が強い。
流花は視線をそっぽに外していたが、その僅かに恥ずかしそうな表情に玲奈はだらだらと冷や汗をかきはじめる。
「……別にそういうわけじゃない。女子高で……あんまり、慣れてないだけだから」
「……でも、お兄さんは大丈夫なんですか?」
「麻耶ちゃんのお兄さんだし。……それこそべつに兄に接するみたいな感じで……特にそれ以外の理由はないし」
「そうですか?」
玲奈は感じていた。二人が間違いなくダーリンを意識しているということを。
そして、凛音と流花同士でも恐らく感じ取っているということを。
玲奈は危機感を覚え、そこでばっとアピールする。
「二人とも! ダメだよ! 年齢差あるんだよ!」
「えっ、な、なに!?」
「い、いいいきなりなんですか!? 別にお兄さんのことをそういう目で見ているわけじゃありませんよ!?」
「そういう目?」
流花の視線に、凛音は慌てたように叫ぶ。
「な、ななななんでもありませんから!」
「……そう? ていうか年齢差は、関係ない」
「そうです……ってそうじゃないです! 今のは聞かなかったことにしてださい!」
凛音は一人で叫んでは一人で否定するを繰り返す。
二人の反応は明らかだった。玲奈が頰を引き攣らせていると、流花がじろりとみる。
「それより……玲奈ってどこまで、本気なの?」
「どこまでもだよ!」
「…………ダーリン、とか本気で狙っているってこと?」
「うんそうだよ! 何々、二人は別に本気じゃないとか?」
玲奈はそこで格の差を見せつけようと問いかける。
それで諦めてくれればそれでいい。これは玲奈なりの牽制、威圧であった。
「……わ、私はそもそもそういうのではなくてですね……」
「私は、本気」
「それじゃあ凛音ちゃんは脱落ってことで、ばいばい!」
「ばいばい」
玲奈と流花が手を振ると、凛音が目を見開いて叫ぶ。
「だ、脱落制なんですか!? ちょ、ちょっとまってください……べ、別に私だって本気ではありませんが、そういうのは良くないと思いますっ。ですから、見張っているだけです!」
顔を真っ赤に叫ぶ凛音に、玲奈は頬がやはりひきつる。
(ダーリンめ……。なんであたしというものがありながら他の子に色目を使うのもう……)
「……ていうかですね。玲奈さんはちょっと……その、アプローチの仕方が過激ではありませんか?」
「過激かな?」
「か、過激ですよ。抱き着いたり、くっついたり……よくそういうことしているじゃないですか。は、恥ずかしさとかないんですか?」
少し気になっている様子で問いかける凛音に、玲奈も苦笑する。
「いやね。あたしも最初はこう、さりげなーくアプローチしてたんだよ? でもダーリン鈍いというかそもそもそういう目で私を見ないというか……」
「まあ、年の差もありますしね……むしろ、そのほうが健全だと思いますけど」
凛音の発言を聞いた玲奈は椅子の背もたれに深く座り頷く。
「そうなのかもしれないけどねー。でも、あたしは本気なんだから今からアプローチしておかないと。それで、二人に相談があったんだけど……」
「なに?」
「……なんですか?」
なんだかんだ仲間ができたわけではあるため、玲奈は警戒とともに声をかける。
「……最近、マネージャーの霧崎さんとダーリン、なんだか仲良くない?」
「それは、少し思ってた」
「……思っています。たまに一緒に食事とかもいっているみたいです。打ち合わせみたいですけど」
三人はヒソヒソと顔を合わせながら作戦会議を行う。
「お互い二人の関係が進まないようにだけは気をつけようね」
「うん。……そこは阻止する」
「そ、それは……他人の関係というのにこう首を突っ込むというか妨害するというのはあまりよろしくないといいますか……」
「じゃあ、凛音は見守る方向で脱落ってことで……」
「だから脱落制度はやめてください! 分かりましたっ、見張りますからっ」
「それじゃあ、そういうことで……っ! 頑張ろう!」
ぐっと三人それぞれで拳を固めた。
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