第101話


 「リトルガーデン」の事務所は今日もせわしなく人々が歩いていく。

 まだまだ発展途中のこの会社では、迅が関わってきた配信者の他にも多くの者を抱えていたが、マネージャーの数もそれに比例して増やしては――いけなかった。

 そのため、一人のマネージャーが複数を担当するのはもちろんで、人によっては多くの仕事を抱えている人もいて、事務所内の自販機にあるエナジードリンクの売り上げはもっとも多かった。

 

 特にここ最近は新規応募してくる配信者が多かった。その理由は、迅の活躍によるところが大きい。

 「リトルガーデン」はこれまで、どちらかといえば表で目立つような事務所ではなく、どちらかというとネットに精通している人たちの間では有名な事務所という感じだった。

 100万人登録者も、流花だけでありあとは決して少なくはないが、小粒の子が所属している事務所、というのがネットでの評価だった。


 だが、迅の参加によってより一般の人に知れ渡ることが増えた。

 迅とコラボした人たちの登録者はうなぎ登りで、さらに言えば迅自身が現在「リトルガーデン」でもっとも人気の配信者となったため、男性向けの配信者が多くいる事務所、という認識も薄れ、より世間一般に浸透しやすくなっていた。


 特に前回の「七呪の迷宮」の迷宮爆発をほぼ一人で片付けたことが大きい。

 連日のようにテレビで報道され、それはもう「リトルガーデン」の知名度向上に繋がった。

 事務所としては来るもの素行問題なければほぼ拒まずのスタンスでやってきていたのだが、最近ではラインを決めるべきではという話しあいも行っているのだが、それもどうなるかは決定が出せないまま、日々の仕事が進んでいった。


 そんな慌ただしい事務所の中を、玲奈はのんびりと歩いていた。

 マネージャーが忙しくても、玲奈たち配信者にとってはあまり関係ない。

 事務所にある休憩スペースへと来た玲奈は、そこで待ち合わせをしていた流花と凛音の元へと歩いていく。


「久しぶりー流花ちゃん、凛音ちゃん」


 玲奈が声をかけると流花と凛音も笑顔を浮かべた。


「お久しぶりです、玲奈さん」


 お互い、何度か会っていることもあり、皆知らない仲ではない。


「玲奈、久しぶり。……あれ? 玲奈、ちょっと魔力強くなった?」


 真っ先に反応したのは流花だ。彼女の反応は正しい。

 玲奈は普段から迅に教えてもらったトレーニングを行っているため、日々少しずつではあるが成長しているのは間違いない。

 間違いないのは確かだったが、


「あれ? 流花ちゃんも魔力感じられるようになったの?」


 感知できる人間が少ない。

 そんな玲奈の純粋な疑問に、流花はこくりと頷いた。


「うん……迅さんのおかげで……色々と連絡とかして、アドバイスしてもらってるから」

「……ん?」


 流花の言葉に、玲奈は首を傾げる。

 同時に、凛音もその違和感に反応するように流花を見ていた。


「どうしたの二人とも」

「い、いえ……ちょ、ちょっと待ってくださいね。今、流花さん……お兄さんのこと、なんて呼びましたか?」

「え? 迅さんだけど……」

「な、なんで名前を呼んでいるんですか!?」

「前にコラボしたときにそう呼んでもいいって許可もらったから。まあ、今後もコラボのときとかはお兄さん、って呼ぶけど」

「……そ、そうなんですね」


 凛音があわあわと慌てた様子だったが、それは玲奈も内心同じような心境であった。


(ダーリン、浮気だよ……っ)


「最近、よく一緒に迷宮での訓練にも付き合ってもらってるから」


 流花はそう主張すると、凛音も急ぐように口を開いた。


「あっ、わ、私もですよ! 時間があるときなどに黒竜の迷宮で指導してもらってるんです!」

「……ふーん、そうなんだ」

「そうなんです……っ」


 凛音の言葉に、流花はじーっと観察するように視線を向ける。

 そんな二人の様子を見ていた玲奈は、異変を感じる。


(こ、この二人……もしかして私のダーリンに手を出そうとしてる……っ!?)


 迅の話をするときの二人の表情、そこにメスの匂いを感じたのである。

 どこか楽しげに、少し恥ずかしそうにしている姿に玲奈は危険を感じてきた。

 それにすぐ気づいた玲奈は、二人に探りを入れることにした。



―――――――――――

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