第100話
少ない。
あまりにも、少なすぎた。
「現在、俺のチャンネル登録者数が700万人。そんでマヤチャンネルが300万人ですか。……やっぱ、少ないです」
俺は悔しさに拳を固めるしかなかった。
今現在、俺と麻耶のチャンネルがおかれている状況について再認識していると霧崎さんが頬をひくつかせた。
「いやですね……迷宮配信者の中でも二人ともトップクラスですよ? そもそも、お二人とも活動期間のわりにえぐい伸び率といいますか……」
「世の中はまだ麻耶の可愛さに気づけていないんだ……もっとアピールしないと。世界が麻耶を知らないのは損すぎる……っ」
「ですが……今や迅さんは……日本を代表する冒険者です。あの蒼幻島での戦いで、迅さんを知らない人はいないほどになりましたから」
そういえば、そうだった。
前回、俺は蒼幻島を、日本を救った英雄だなんだと言われていた。
……もちろん蒼幻島を守るつもりではあったぞ? だが、行動の第一理由は俺の別荘にある麻耶グッズを守るためだ。
たまたま、シバシバの空間魔法ももらっていたから瞬間移動できたわけで、何やら色々と誤解されてしまっているようだった。
その点に関しては次回の配信のときにでも丁寧に説明しようかと思っている。
「テレビで報道されてたみたいですねー」
「ええ……あっ、それでバラエティー番組とか、あと他にも色々と迅さんにテレビ出演の依頼が来ているんですけど、どうしますか?」
「でもテレビの撮影とかってかなり拘束されますよね? 俺、麻耶配信の振り返りをしながら迷宮に潜る時間が一番好きなんで……あんまり長く拘束されるのとかは無理ですね」
「……そうですね。収録を行う場合は今みたいな適当な打ち合わせじゃなくてきちっとしますし、一人で撮影するわけにもいきませんから色々と調整して……結構拘束されてしまいますね」
「それなら、ちょっと難しいです。マヤチャンネルの宣伝はしたいんで、拘束時間が少なめの仕事なら別にいくらでもやりますよ」
「分かりました。雑誌の撮影とかであれば比較的少なめですので、それらの方向の仕事で調整してみます」
「ああ、はい。そこはまあ自由にやってください」
「分かりました。また仕事のスケジュールなどを確認できた段階で共有しますので、よろしくお願いします」
「了解です。そんじゃ、俺は迷宮潜ってきます」
まだシバシバからもらった魔力が少し残っている。それでワープすればここからでもすぐに迎える。
まあ、あとでまたシバシバに補給させてもらう必要はあるんだけど。
「……最近、よく迷宮に潜っているみたいですね。麻耶さんもそう言っていましたよ?」
「え、お兄ちゃんかっこいいって……?」
「そこまでは言ってないです」
「……そうですか」
「そんな露骨に落ち込まないでください。迷宮に潜るのはいいですが……無茶はしないでくださいね? 何かあれば多くの人が悲しみますから」
「分かってますって。……あっ、霧崎さん。一つ聞き忘れてました。マヤチャンネルをより伸ばすにはどうしたらいいですかね?」
「そうですね……迅さんでできることといえば、あと開拓の余地があるとすれば、海外ですかね?」
「海外、ですか?」
「はい。迅さんのチャンネルの伸びは、ここ最近は緩やかな右肩あがりだったのですが、黒竜を倒したときのように跳ね上がった瞬間がありました。分かりますか?」
「海外……跳ね上がった……もしかして、ゴンザレスぶっ倒したときですか?」
「アレックスですね。彼は海外でかなり嫌われていたようでして、そのときにかなり登録者数が増えていました。一応、今回のように蒼幻島のような事件が発生した場合にもそうですが……」
「まあ、それはレアケースだし、あんまり起きてほしくないですしね」
ああいう輩に絡まれまくっていたら、それはそれで嫌だ。
「はい。もちろん、のんびり撮影なんてしていたらそれこそ炎上しますから。手っ取り早いといえば、海外の人に見られる配信作りですね。幸い、迅さんは英語使えますし、コメントを拾う場合は日本語だけではなく英語のコメントにも反応するとか、それだけでも増えていくと思いますよ。日本だけですと、どれだけ頑張っても限度はありますが、世界で見れば日本の数十倍いるわけですしね。実際、海外の配信者ですと1000万人達成者は結構いますし」
「なるほど、そういうことですか……分かりました。日本だけではなく世界に麻耶の魅力を届けられるよう、頑張りますかね」
「……ああ、はい。頑張ってください」
霧崎さんは頬を引きつらせながら手を振ってきて、俺は空間魔法を使用し、穴をこじ開けてから黒竜の迷宮へと移動した。
麻耶配信を垂れ流しにしながら魔物狩りをした俺は、自宅へと戻ってきた。
「お兄ちゃん。お帰り。今日も迷宮行ってたの?」
「まあな」
「最近、熱心だね。何かあったの?」
「麻耶は、海外の冒険者協会が発表している迷宮の情報とかは目を通したこととか、ニュースで聞いたことはあるか?」
「うーん、見たことないかな? 何かあったの?」
「ここ最近、新しい迷宮の発見、迷宮爆発、迷宮の急成長などなど……発生件数が増えてるんだよ」
「え? そうなの?」
「ああ。本当にここ数か月くらい前からな。これから先、さらに世界は大変なことになっていくかもしれないと思ってな。麻耶の視聴者を減らさないためにも、俺も強くならないといけないと思ってな」
麻耶を守ることが最優先なのは確かだ。
だが、麻耶を守れたところで、視聴者を守り切れなければ、麻耶の登録者数、視聴者数が減ってしまう。
……そんなことにならないよう、俺自身もっと強くなる必要があった。
「お兄ちゃん。嬉しいけど……でも、お兄ちゃんに怪我があったらダメだからね?」
ちょっと怖い表情で釘を刺してくる。その顔はその顔で可愛いのだが、可愛さを感じながらも威圧させる。
「あ、ああ分かってる」
「私は……ぶっちゃけたこと言っていい?」
「ぶ、ぶっちゃけたこと? ……お兄ちゃんを嫌い、とかか?」
「あっ、それは大丈夫だよ。……お兄ちゃんに何かあったら嫌だって話。だから、本当に危険なときは、逃げてきてほしいって話かな? もしもそれでその場所の状況が最悪になったりとか、色々な人にお兄ちゃんが叩かれたりしたとしても……私は、お兄ちゃんが生きてくれていればそれでいいって思ってるから」
「……麻耶」
麻耶は俺のこれまでの数々の無茶を、黙って見守ってくれていた。
冒険者として活動したてのときは本当に命の危険を何度も感じていた。
今だって、その時の戒めではないが体には傷を残したままでいるんだしな。
――俺は死んでもいい。でも、なんとしても麻耶を立派に育てる。
それだけを目標に生きてきた。
麻耶はきっとずっとさっきのようなことを考えていたのだろう。
でも、もしもそれを口にしてしまったら、俺を迷わせてしまい余計に危険に晒すと思って黙ってくれていたんだろう。
俺も麻耶も成長した。だからこそ、麻耶は気持ちを伝えてくれたんだろう。
「世界を守って、とは私……言わないからね。視聴者さんのことも、大事だけど……でもやっぱりお兄ちゃんだから。もう、大事な家族が急にいなくなる苦しみは味わいたくないんだ」
「……それは、俺もだな」
「うん。私も気を付ける。でも、お兄ちゃんはなんだかんだ言って皆に優しいから、何か問題が発生したら勝手に助けに行っちゃうのは知ってるから、だから、必ず戻ってくること。それだけは約束してね」
彼女のやりたい活動はすべて応援してきたし、麻耶の友人関係が豊かになっていくように支援し続けた。
すべては、麻耶が一人で生きていけるように。
……もう十分麻耶は強い。一人でもきっと生きていけるだろう。
でも、それだけで片づけていい話じゃない。
一人でも生きていけるとしても、それでも家族という繋がりが大切だと彼女は言いたいんだ。
「当たり前だ。麻耶に会えないとか俺も寂しくて死んじゃうからな」
「うん、私もだよ」
ぐっと親指を立てた麻耶に、俺も親指を立てて返した。
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