第99話



 振りぬかれた高速の一閃

 しかし――それを迅は片手で受け止めた。


『まさか、さっきの不意打ちが最大速度じゃないよな?』

『おら、もっと本気だせよ! はい、残り四本!』


 ペインナイトの剣が、さらに破壊された。迅が叫ぶように、残った剣は四本となる。

 ペインナイトは距離をとるように後退し、剣を両手に持ち直す。だが、逃げようとしたその体が地面に叩き伏せられた。

 すぐに抵抗して逃れたが、再び迅が接近し拳を振り下ろす。ペインナイトはその一撃をかわしきれなかった、剣を振りぬいて応戦する。


 ペインナイトが両手の剣を振りぬくが、それを迅は片手ずつで掴み、力を籠める。

 まさに、そのときだった。

 ペインナイトの背後の剣が動く。


 そして、それは銃弾のように放たれた。迅の顔を捉えるように射出された一撃を迅はじっと見て。

 空から雨のように落ちたその剣を、お兄さんは――噛んで受け止めた。


『まずっ! まだピーマンのほうが食えるわ!』


 すぐに吐き出し、両手に掴んでいた剣をもってぶん回す。ペインナイトはたまらずといった様子でそれを手放し、後方へと投げ出された。

 迅は奪い取った両手の剣をへし折り、ペインナイトが残す剣は……とうとう最後の一本となる。


「……これが、災害級の力」


 剛田は顔を青ざめたまま、テレビに食い入るようにして戦闘を見ていた。

 本来であれば、すぐに蒼幻島へと移動し迅の援護をするべきなのだが、この場にいる誰もが動けずにいた。

 それだけ、彼の圧倒的な戦闘に魅了されていたからだ。


「……数値では100までしか測れない。もはや、彼ら災害級は……Sランク冒険者の領域を超越している」

『ガアアアアアア!』


 テレビから咆哮があがった。それまで、一言も放つことがなかったペインナイトが奇声をあげ、迅へと迫った。

 最後のあがき。ペインナイトはそれまでよりも速く剣を振りぬき、迅を追い詰める。

 回避ばかりしていた迅は、しばらくその攻撃を見ていたのだが――。


『……飽きたっ』


 つまらなそうにそう叫び、ペインナイトの側頭部を蹴りぬいた。

 地面を激しく転がったペインナイトが必死に体を起こそうとしたが、その背中を迅は踏みつけると同時、手刀で鎧ごと首を吹き飛ばした。


 同時、蒼幻島を覆っていたまがまがしい空気が消え去った。

 迷宮爆発が治まったのだ。


「……圧倒的、だったな」

「一人で、Sランク迷宮爆発を止めてしまうとはな」


 会長は小さく息を吐きながら椅子に座った。

 手にこもっていた力をふっと抜いた会長はそれから笑みを浮かべる。


「――これで、正式に……世界のすべてが彼を本物の災害級の冒険者と認めるはずだ」


 それまではどこか懐疑的な視線も多かった。

 どれだけの活躍をしても、それを真実と認めない者、冒険者協会での正式な記録だとしても日本という島国から災害級の力を持つ冒険者が現れるわけがないと、世界は否定していた。

 だが、蒼幻島の迷宮は世界的に見ても有名なSランク迷宮だ。そこの爆発を、たった一人、それも一夜にしておさめた迅の手腕を否定する声は皆無だろう。


『え? テレビですか? ……あー、一言?』

『は、はいっ! 今この蒼幻島で不安を抱えている人々のために! お兄さんから、何か元気の出る言葉をっ!』


 見ればヘリから飛び降りたアナウンサーが笑顔とともに迫っている。

 危険な場所にまで向かうカメラマン含めたスタッフは、それなりの冒険者であることが多い。

 迅への絶好のインタビューチャンスだと感じたのだろう。多少無理してでも蒼幻島に降りたようだった。


「まったく……もう少し休ませてあげてくれ」


 会長が小さくため息をついたところで、迅は腕を組んでいた。


『元気のでる……言葉?』

『はい! なんでもいいので! お願いします!』

『んじゃー。マヤチャンネルのチャンネル登録よろしくお願いします。それ見て元気もらってください!』

『………え? ………あっ、は、はい』


 アナウンサーが一瞬固まった。

 まるで放送事故でも起きたかのような空気に会議室にいたほぼ全員が苦笑した。

 会長はゆっくりと御子柴に声をかける。


「すぐに蒼幻島に向かって怪我人の手当を行おう。御子柴さん、転移に集中してもらっていいですか?」

「分かりましたぁ……」


 恍惚とした表情でテレビに映る迅を見る御子柴は、その顔のままで転移魔法を発動させた。

 協会に待機させていたヒーラーや、各ギルドの面々を送り込むことによって、蒼幻島での問題を片づけていった。



―――――――――――

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