第98話
「引き寄せるのが、うまいですね。念動魔法に近いレベルはありますよ……」
会長が驚きながら言うと、
お兄様の活躍に対する興奮と、ヴォイドで刻まれた恐怖が同居したような不思議な表情をしていた御子柴はゆっくりと話した。
「魔力の塊で相手の動きをある程度制限させることができる、みたいです。ただまあ……他の魔法に比べて拘束力はおちますので、意識して抵抗すれば脱出はできる程度みたいですが――」
ペインナイトが反応した横に体を逃したが、迅はその動きを読んでいたように迫っていた。
頭上から拳を振り下ろし、ペインナイトが地面に叩きつけられる。
「……迅さん……強すぎやしないか?」
「こんな一方的だなんて……おかしいだろ? あのペインナイトが普通の個体よりも弱いんじゃねぇか?」
「……感じないのか剛田? 今も蒼幻島から生み出される嫌な魔力を――」
砂煙の中、ぎらりと光る目が現れるとともに、剣が振りぬかれた。
雷の一閃。迅の体を雷が貫通し、吹き飛ばす。
『ああああ!? 今鈴田さんの体をペインナイトの一撃が襲い、吹き飛ばしました!? だ、大丈夫なんでしょうか!?』
空中へと飛ばされた迅へ、ペインナイトが迫る。
その顔には勝利を確信したかのようなものが見えた。
だが――迅は背後をちらと見てから、苛立ったような顔とともにペインナイトを睨み返した。
その瞬間、蒼幻島で生まれたもう一つの強大な魔力。
その魔力は……優しい力だった。何かを想うかのようなそんな魔力は、迅から生み出されたものであり、
『だから、そっちの方角に攻撃してんじゃねぇ!』
叫ぶと同時ペインナイトの振りぬいた剣に、迅の蹴りが放たれた。
ペインナイトは剣を盾のように割り込ませたが、迅の一撃は――それを破壊した。
『悪さする剣はそいつだな? 全部折っちまえばそれで終わりだよな!』
ペインナイトはすぐさま別の剣を手に持ち、斬りかかる。
残る剣は六つ。
火、水、風、土、氷、闇の攻撃たちが襲い掛かるが、迅はそのすべてをかわす。
各剣がその属性に対応した攻撃を放っていく。
だが、迅はその攻撃のすべてをかわし、そして、
『それ邪魔ァ!』
苛立ったような声とともに迅が叫ぶと、ペインナイトの剣に蹴りが当たる。
がぎっ、という音とともにペインナイトの剣が砕け散った。
「……邪魔、って言って破壊できるものなのか?」
「……オレも一度戦ったことがあるが、あんな簡単にはいかなかったね」
二つ目の剣が砕け散り、ペインナイトがその衝撃で地面を転がる。
むくりと体を起こしたペインナイトだったが、明らかに最初よりも疲弊していた。
それにゆっくりと近づいていく迅。
どちらが、この場の支配者なのか分からないほどの威圧感があった。
『や、やりました! 押しているのは鈴田さんのようです! このまま、Sランク迷宮の迷宮爆発を一人で鎮圧するのでしょうか!?』
アナウンサーの歓喜の乗った声。しかし、ペインナイトの魔力が大きく変化した。
さらに言えば、その体も変化する。鎧がしゅっと細くなり、体全体が少し小さくなる。
それまでに比べると、見た目は小柄になる。
『なんでしょうか!? ペインナイトの姿が変化しました! これは鈴田さんの攻撃を受けすぎたせいでしょうか!?』
アナウンサーはペインナイトの知識があまりないようだ。
「……ここからが、本番だ。ペインナイトは体力が減ったところで、スピードを重視したモードに切り替わります。……だというのに、攻撃力は変わりません。ふざけた魔物なんです」
会長はゆっくりとそう伝え、テレビをじっと見た。
その瞬間、ペインナイトが消えた。
そして、次の瞬間だった。
迅の脇腹が斬られた。ペインナイトが迅の体を横切るようにして切り裂いたのだ。
『なるほどなるほど。まだまだ速くなれるのか』
その傷を見ていた迅だったが、彼の体から魔力が溢れるとすぐに塞がった。
「なんだあの回復魔法は……」
剛田が驚いたようにそう呟き、御子柴はどこか自慢げに語る。
「お兄様は回復魔法なんて使ってないわ。ただ、身体強化で自己回復能力をあげているだけよ」
「……」
剛田はただただ唖然としていた。
迅は背後に回っていたペインナイトへ視線を向ける。剣を両手持ちにしたペインナイトがすっと振り返る。
兜でペインナイトの顔は隠れているというのに、その雰囲気はまるで笑みを浮かべたように見えた。
『……おまえ、ヴォイドを倒したやつだな?』
『なんだ、おまえも喋れるのか?』
『当たり前だ。やつはオレが造りだした魔物だからな』
『なんだって? おい、それに関しての詳細話せよ』
会長たちは驚きながらその様子を聞いていた。
しかし、ペインナイトは笑うような雰囲気のあと、魔力を放出した。
『おい』
『……』
『ちっ、もう話さないのか?』
『……!』
迅が声をかけるが、ペインナイトからの返事は横なぎの一撃だった。
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