第104話



 踏み込んできたドリルモグラに、玲奈が火魔法を叩き込む。その体を押しつぶすような一撃にドリルモグラの動きが一瞬、止まる。

 ……見た目は火だが温度はあまり高くないだろう。

 ドリルモグラに、火魔法で焼き尽くそうとしても耐えられることは分かっているため、玲奈もそれは仕留めるための魔法として使っていない。


 今回の狙いは動きを止めること。ドリルモグラの側面へと周り、玲奈の魔法を弾き返したドリルモグラの脇腹を切り裂いた。

 深い一撃。同時に玲奈が生み出した火の竜が、ドリルモグラの脇腹へと噛みつき、燃やし尽くした。


 斬られたことにより魔法への抵抗力も下がっていたため、そのまま押し切ることができたようだ。

 戦闘を終えたところで、玲奈は疲れたようにぺたりと座りこんだ。もう一歩も動けないというくらいの様子だった。

 それだけ、先ほどの魔法と身体強化の併用が大変だったのだろう。


 迷宮でそんな状態になれば別の魔物に襲われる危険があるため、今の玲奈にとってこの階層での戦闘は適正ではない。

 まあ、でも護衛がいれば問題はない。


 ここが冒険者の難しいところで、こういった限界に近い戦闘がより効率的に体の成長を促してくれるのだが……いかんせん、難しいんだよな。

 護衛役を雇おうとしたら、普通金かかるし。


「だいぶ、形になってきたな」


 俺がそういうと、コメント欄も似たようなものが散見された。


〈玲奈ちゃんも一対一なら互角に戦えるくらいにはなれてきたな〉

〈でも雑魚でSランク冒険者が苦戦するって……やっぱここの迷宮ってやばくないか?〉

〈まあ、ソロであればこうかもだけど、普通迷宮に入る場合は複数人でパーティー組むからな〉

〈どっかの誰か見てると感覚がバグるけど、本来迷宮ってのはそういうもんだもんな……〉


 玲奈もはじめはかなり苦戦していたし、Sランク迷宮の魔物相手では倒すどころか数秒耐えるのがせいぜいだったが、それでもやはりSランク冒険者。

 念入りに鍛えて、対策を立てた今では一応戦えるようになっていた。


 それでも、危なっかしい部分もあったため、まだまだ気は抜けないが。

 しばらく休んでいたのだが、俺たちの微弱な魔力をかぎ取ったようだで魔物が近づいてくる。

 ずんずんとこちらへ迫ってきているドリルモグラに、玲奈が慌てた様子を見せる。

 ……地中だけではないな。ちらと視線を向けると、こちらへ一体のドリルモグラが回転しながら跳んできていた。


「うわ、ダーリン! 来たよ!」


〈また跳んできたw〉

〈回転ドリルアタックか〉

〈こいつらめっちゃ好戦的だよなw〉


 空中と地中。とりあえず、どちらも俺に引き付けるため、少し魔力を放つ。

 これで玲奈よりは俺への意識が向きやすくなるだろう。


 玲奈の体を抱え、その腹にスマホを放り投げてから跳んできたドリルモグラをかわした。

 地面に突き刺さったのは一瞬。即座にこちらへとびかかってくる。

 俺の背後の地中からさらにもう一体が現れる。玲奈を抱えたままなので、対応に関しては足のみで捌く必要はあったが。

 正面からドリルとともに体全体を回転させているドリルモグラにかかと落としをお見舞いする。


「おら、家に帰れ!」

「ぎえ!?」


 悲鳴をあげて地面にめり込んだドリルモグラはもう動かない。

 だが、すぐに次のドリルモグラが迫る。

 背後から同じように回転攻撃を放ってきたドリルモグラたち。

 俺は一瞥をくれてから、奴らの頭上から魔力をおとし叩きつぶす。


「が、あ!」


 必死に抜け出そうとしていたが、動けないようだ。

 俺はその場で軽く準備運動してから、


「最近サッカーしてないな」

「え、突然どうしたの?」


 魔力の重圧に押しつぶされたドリルモグラに近づき、その体をサッカーボールのように蹴り飛ばした。

 遠くで迷宮の壁にたたきつけられた音がして、こちらに近づいていたドリルモグラたちがその音のほうへと向かう。

 俺の魔力も少し付着させておいたので、デコイとして機能するだろう。


「玲奈そろそろ動けるだろ」

「いや、動けないかもー」


 と、言いながら俺の腕に抱きついてくる。その瞬間、コメントが一気に増えていく。


〈おい早く離れろ淫乱女!〉

〈お兄様に近づくんじゃねぇ!〉

〈草〉

〈お兄さんのガチ恋勢たちワラワラで草〉

〈初めのころはお兄さんのほうが炎上すると思ってたけど、今じゃ逆だもんなw〉

〈今じゃ女性配信者とコラボするとこうなる可能性のほうが高いもんな〉


 俺は玲奈を引きはがしつつ、スマホを回収する。


「まだ戦闘訓練は続けるか?」

「うん、やるよー」

「なんかやけにやる気だな……何かあったのか?」


 強くなりたいという気持ちはこちらとしてもうれしい限りだ。

 麻耶の周りの人たちの力がつけば、必然的に麻耶の安全も確保されるからな。


 それは非常に喜ばしいことだ。

 特に玲奈はよく家に来るので、何かあったときに彼女がいること自体は心強い。

 立ち上がった玲奈はぐっと親指を立て、


「ダーリンの隣に並べるくらいじゃないとダーリンって呼んだらダメでしょ?」

「へいへい」

「そういうわけで、また戦うよー!」


 ぐるぐると腕を回す玲奈に、俺は苦笑する。






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