第216話


 169階層へと到着した俺は、早速その階層の様子も探っていく。

 だが、ここもどうやら同じ造りをしているようだ。

 ……新種の魔物でも出てくれれば見応えがあるのだが、これではつまらないな。

 麻耶曰く「配信では緊張感がないと視聴者が離れていっちゃうんだよ!」ということらしい。

 何かが起こるかも? という期待感が大事らしい。ほら、テレビでも気になる場面でCMを挟んで引き伸ばしたりするだろう。あんな感じ。


〈……すげぇ〉

〈コメント拾いながら片手間に魔物を蹴り飛ばしてるけど、やっぱりお兄ちゃんやべぇな〉

〈お兄様、やっぱ世界一強いなこれw〉

〈ほんと、どっかで引きこもってる世界一位さんとも戦ってほしいわ〉


 ……緊張感はないと思うのだが、視聴者はどんどん増えていっている。

 これは、ギネスを更新するかもしれないという期待感故だろうか? そういうのも大事とは麻耶が言っていたな。


「ていうか、170階層だったか? 中国の迷宮の最新部ってどんな感じなのか知ってるやついるか?」

〈政府のホームページとかに載ってたよな? 世界でもっともすごい迷宮みたいな感じで〉

〈そうそう。ただ、ほとんど情報公開されてなくて、眉唾ものの扱いだけどな〉

〈一応証拠写真とかはあるから一応で認定はされてるけどな〉

「そうなると、魔物の強さとかも分からないのか」


 まあ、迷宮は国にとって資産でもあるからな。

 あまり情報を公開したくない国もあり、内部の冒険者の情報などは秘匿しているところもあるくらいだ。

 次のくだり階段までまだ遠いらしく。俺は少し面倒になってきたので、足に力を込める。


「そんじゃ床割って目的の170階層に行くとするかね」

〈へ?〉

〈何何? どゆこと?〉

〈おっ、初見さんかw〉

〈見ればわかるぞ〉


 初見の人たちの疑問の声と、ベテラン視聴者たちの盛り上げもあり、コメント欄は加速していく。

 俺は分身たちを一度消し、それから足に魔力を込めていく。


 そんなことをしている、俺の魔力に反応したのか魔物が迫ってくる。

 先ほどの168階層と同様の魔物であるが、まあ階層が違えば能力も変わってくるものだ。


 他にも、俺の魔力を感知したのだろう、視界には入っていないがこちらに向かっている魔物もいるようだ。


〈お兄さま! 魔物が近づいてますよ!〉

〈お兄ちゃんならまあ、平気やろ〉

〈まあ、いつも通りだろうな〉


 心配二割、大丈夫だろ八割。

 俺の心配をしているのはいつもだいたいそのくらいなんだよな。


 さて、どう魔物を処理するか

 分身を召喚して任せるか、俺が戦うか。

 そんなことを考えていると一気に距離を詰められる。あの馬もかなりの速度だな。


 ここまで来たら、分身に任せても仕方ないだろう。

 俺は迫りながら長剣を構えていたデュラハンと黒馬を一瞥する。

 そして、大量の魔力をぶつけた。


「ぎ!?」


 その瞬間、デュラハンと馬の魔物の体がつぶされた。

 馬の魔物はそこまで抵抗力はないようで、そのままなすすべもなく潰れていたが、デュラハンの方はなんとかといった様子で抵抗する。

 さらに、魔力を込めてやると地面にめり込むようにつぶれていく。


〈初見のものですが、お兄ちゃんって色々な魔法が使えるんですね……〉

〈めっちゃ才能あって羨ましいです……俺、無属性魔法しか使えないのに……〉

〈これはただ魔力を使っているだけだぞ〉

〈無属性魔法のみとかお兄ちゃん適性抜群じゃねぇか〉


 確かに、そうだな。訓練していけば俺と同じようなことができるだろう。


〈魔力を使って何かを操作するって結構簡単なんだよな。俺も最近訓練してみてるけど、ものとか動かせるくらいにはなった。今度、気付かれずスカートとかめくってみるつもりだ〉

〈通報しとくわ〉

〈魔力のみで何かするってこと自体は難しくないんだわ。ただ単純に魔力消費が異常だけどな〉


 コメントのいうとおりだ。

 魔力を外に吐き出して、手のように扱うのは難しくはない。

 単純に消費量が増えるだけだ。


「さて、準備も終わったんで迷宮割るぞおまえら」

〈おっ〉

〈待ってました〉

〈へ? 迷宮を割る?〉

〈何言ってるんだ?〉





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